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平和発電

作者: 真琉知 佑

二XXX年、世界は長引く戦争のために崩壊寸前だった。さらに、問題は戦争だけでなく、食料危機、人口増加、エネルギー不足、環境破壊……数え上げたらキリがなかった。


ある日、各国の首脳が集まり国際会議が開かれることになった。集まった百人近くの首脳は大きな円卓の周りに座った。

「戦争、食糧危機、環境破壊、エネルギー不足、どうしたらいいのやら……」

頭を抱えながらE国の首脳が言った。

「やはり一番最初に考えなければならないのは人口増加の問題でしょう。人口が増えるせいで食料もエネルギーも不足して戦争になるんだ」

そう強い口調で言ったのはD国の首脳だった。

「特におたくの国は国民が多くて困る。なんとかならんのか!」

D国の首脳は隣に座っていたC国の首脳に言った。

「努力はしてるんですよ。でもね、そんなことすぐに言われてできるものじゃないでしょ」

C国の首脳は怒ったようにD国の首脳に言い返した。

「それに人口が増えてるのはうちだけじゃないでしょ。おたくだって!」

C国首脳はG国の首脳を指差した。

「うちはちゃんと対策をとってますからそのうち減って行きます。それに、うちは世界最大の小麦輸出国だ。世界の食料調達には貢献してます。おたくにあれこれ言われる筋合いはない!」

G国首脳がC国首脳に怒鳴り返した。

「でもその小麦だって最近は輸出をあまりしてないそうじゃないか」

E国の首脳が言った。

「それはH国が石油をくれないからだ。小麦を作るにも運ぶにもエネルギーがいるんだよ!」

するとH国の首脳は

「仕方ないだろ。石油もほとんど使い果たしてしまったし、よそにポンポンあげるわけにはいかないんだよ」

J国の首脳は

「石炭はとうの昔になくなり、石油もそろそろ底を尽きる。今の技術力では太陽光発電や水力発電、風力発電で世界中の電気は賄えないし、原子力発電に至っては、かなり前から使用禁止になっているからな……」

と言って頭を抱えた。

「やはり原子力発電を再開させるしかないのでは?」

とK国首脳。

「いやいや、それはダメだ。原発を作る国はいずれ核兵器を作りだすだろうし、現に、原発だってまだまだ危険な発電だ! 何かあってからでは手に負えない」

とF国首脳。

「どうしたらいいんだ……」

各国の首脳は皆、頭を抱えた。

結局、何も解決できないまま、ダラダラと問題を並べただけとなってしまった。


「皆さん、私にいい案があります」

そう言ったのは、今までずっと黙っていたA国の首脳だった。その場にいた全員が一斉にその首脳に注目した。

「何かね? その案っていうのは?」

C国首脳が聞いた。

「実は、我が国で新しい発電方法を開発したのです。それを使えばエネルギー問題はもちろんのこと、戦争、食料問題まで解決できます」

A国首脳は答えた。

「それで、その発電というのはどんなものなんだ? 早く教えてくれ」

とG国首脳。

「いいですか皆さん。我々が開発した新しい発電システムに使われるのはズバリ兵器です」

「兵器?」

その場にいた全員が口を揃えて言った。

「そうです。核ミサイル、魚雷、水爆、戦車、戦闘機、爆弾、マシンガンやピストル、ライフルの弾丸、そしてナイフに至るまで、この世のありとあらゆる武器や兵器を一箇所に集め、そのエネルギーで電気を作るんです。兵器がなくなれば戦争だってできなくなるでしょう」

A国首脳の説明を始めた途端、各国の首脳は狐につままれたような表情になった。

「ちょっと待ってくれ、いくらなんでもそれは……」

「そうだそうだ。そんなこと言って自分だけ戦争に勝とうっていうわけか!」

各国の首脳は一斉に口を開いた。

「皆さん、我々は集めた武器で戦争をしようなどとは思っていません。神に誓います。それに、今はそんなこと言ってる状況じゃないでしょ。こうしている間にも戦争で人は死に、エネルギーもなくなっていく。一刻の猶予もないんですよ」

「私は賛成だ。武器を持つ国があるから戦争がなかなか終わらないんだ。いっそのことみんなでその武器を放棄してしまおう」

とP国首脳。

「でもしかし、そんな発電が長続きするのか? 武器にだって限りがあるのでは?」

とT国首脳。

「大丈夫です。我々の技術を使えば、弾丸一つから電池一個分とほぼ同等のエネルギーを作り出せます。もちろん、爆弾からはそれ以上のエネルギーを作り出せます。世界中にあるそれらの火薬だけでも少なくとも二十年はエネルギーを供給できます。さらに、一番効果的なのが核爆弾です。それらのエネルギーは今まで原発に劣らないものとなるでしょう。核爆弾まで使うと今後百年はエネルギー不足の心配はありません」

「でも、百年後はどうするのかね?」

とT国首脳。

「次の新しい資源を皆さんで見つけましょう。まだ具体的にいい案はありませんが、百年もあれば必ず新しい発電方法を思いつくはずです」

「つまりこの百年は猶予期間だということか」

とM国首脳。

「その通りです」

首脳たちは皆しばらく考えた。

するとE国の首脳が立ち上がり

「わかった。その案に賛成だ」

と言った。

他の国の首脳も次々に立ち上がった。

「私も賛成だ」

「私も」

「私も賛成しよう」

結局その場にいた全員がこの案に賛成した。

「ところで、この発電の名前はなんというのかね?」

「そうですね、武器からエネルギーを作り出す。世界を平和にする発電、『平和発電』というのはどうでしょう?」

「平和発電か、なかなかいいアイデアではないか!」

「では皆さん。このプロジェクトは来月から始まります。ご協力よろしくお願いします」

その日の会議はこれで終わった。今まで何度も話し合いをしてきて始めてまともな案が出たことで、どの国の首脳もみんな重荷から開放されたような笑顔だった。


翌月から早速その発電プロジェクトは始まった。世界中の兵器がA国に集められた。弾丸や爆弾は中に詰められた火薬は全て取り除かれて、燃料に生まれ変わった。その際出た鉄くずなどは、溶かされて新しい鉄骨に姿を変えた。戦車や戦闘機などもドロドロに溶かされて鉄骨になった。原爆や水爆などは特別な処理をされて、原子炉の中で燃やされた。そうしてこの世から兵器はなくなって、戦争など起こらなくなり、さらに生み出されたエネルギーで穀物の生産や輸送も今まで以上に行えるようになった。仕事を失った兵士たちは、そこの発電所に雇われた。


こうして世界は平和になったのである。



それから数年が経った。その日J国の首脳は、国内初となる有人ロケットの視察のために、J国内最大の宇宙センターに来ていた。そのロケットを目の前にして首脳は感嘆の声をあげた。

「これが我が国初の有人ロケットか。立派なもんだ。これで我が国の宇宙開発もさらに進歩するな」

するといきなり大きなヘリコプターが空から下りて来た。それに乗っていたのはA国の首脳だった。

「突然ですが、このロケットは我が国の平和発電に利用させていただきます」

「ちょっと、なに言ってるんですか! これは我が国の――」

J国首脳の話を遮り、A国首脳が話し始めた。

「いいですか、ロケットを打ち上げる技術はミサイルにも応用できます。安全な世界を作るには、そういった根本から解決していかないと」

「しかし……」

するとヘリコプターからE国とG国の首脳が降りて来た。

「好い加減A国の言う通りにしろ! うちなんか戦闘機撲滅のため国中の飛行機をA国にくれてやったんだからな」

と、E国首脳。

「そうだぞ。うちなんかな、戦艦撲滅のために国中の船をくれてやったんだぞ!」

と、G国首脳。

結局J国は仕方なくロケットをA国に差し出した。



数日後、今度はS国にA国首脳がヘリコプターに乗って現れた。

「おたくの化学工場を我が国に差し出してください」

するとS国首脳が反発して言った。

「ちょっと待ってくれ! うちはたった今あらゆる病気に効く新薬を開発している最中で、これが完成すれば世界中の――」

S国首脳の話をA国首脳が遮った。

「いいですか、薬を作る能力を持った国はいずれ細菌兵器を作り出すかもしれません」

A国首脳の後ろにいたほかの首脳たちも口を挟んだ。

「そうだそうだ、うちだって飛行機全部差し出したんだぞ」

とE国首脳。

「うちは船を」

とG国首脳。

「うちはロケットを」

とJ国首脳。

仕方なくS国はA国に化学工場を差し出した。

このようにして、兵器になりうると思われるものは全てA国に没収されたのである。



それからさらに数年が経った。とうとう人類は石油を使い果たし、世界のエネルギーのほとんどは平和発電で賄われるようになった。


そんなある日、執務室でのんびりコーヒーを飲んでいたA国首脳のもとに、数人の首脳が困った顔をしてやって来た。

「我が国は今までずっと石油だけで発電してきた。しかし石油がなくなった今、頼れるのは平和発電のエネルギーだけだ。どうかうちにもそのエネルギーを分けてくれないか?」

「うちもだ。頼む」

「うちも」

そう口々に言ってきたのは今まで平和発電に頼らず石油で発電をしていた国の首脳たちだった。

するとA国首脳は一枚の紙を取り出し、そこにスラスラっと数字を書いた。

「そこまでおっしゃるのなら分けてあげましょう。ただし、これだけ払っていただきます」

そう言うとA国首脳はその紙を皆に見せた。

「なんだと、それはいくらなんでも高すぎる!」

「そうだそうだ。もっと安くならないのか?」

集まった首脳たちは一斉に不満を漏らした。

「そんなこと言われましても、他の国はちゃんとこれだけ払ってるんですよ。もし払えないと言うなら残念ですがこの話はなかったことに……では皆さんどうぞお気を付けてお帰りください」

A国首脳は落ち着いた表情で言った。

「待ってくれ、払うよ、払えばいいんだろ!」

「仕方ない。うちも払おう」

「うちもだ」

結局その場にいた全員がA国の出した条件を受け入れた。


それからと言うもの、世界の格差は一気に激しくなった。A国ばかりが豊かになり、他の国はどんどん貧しくなっていった。

各国の首脳たちは皆怒り狂った。しかしA国に刃向かうことができなかった。なにせ戦争をしようにも、武器を全て発電のために差し出してしまったからである。



それからまたさらに数十年が経った。ある日、A国首脳の執務室に平和発電の開発者がやってきた。

「私が開発した平和発電もあと数年で燃料切れになります。いったいこれからはどうするおつもりですか?」

すると首脳は天井を見上げながら言った。

「実は我が国の優秀な研究者が、月に新しい資源を発見したそうだ。調査によるとそれは五百年分の石油に匹敵するほどの資源らしい。現在、月まで行ける技術を持った国は我が国しかない。つまり今後五百年間は我が国がエネルギーを独占できることになるな」


首脳は執務室で高らかに笑った。


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