二十話 盤上戦戯(バトルチェス)
今回はかなり長い!それだけ大変!
やっと戦闘に入れました。あれですね、遅れたころにやってくるみたいな。
後半はグロ描写があるので、お気を付けを。
あの会合の後、しばらくして俺たちは雑談をしていた。
ラファエルが風の化身ということは、アテネは何かと気になり尋ねると、
『私は、【正義】と【審判】ですね』
と、聞いたようなことを返されてしまった。(ラファエルは、【風】と【治癒】)
ちなみに、天使とは天界に住む者で固有属性を持つ者の名で、属性を持たない、つまり、ただ神力が高い者は『神人』と言うらしい。
天使の中でも、二個の属性を持つエリートは『大天使』と呼ばれ、三個以上の者に『神』の名を授けれるらしい。
アテネは、二個なのに何で”断罪の女神”と『神』の名を持っているのかと疑問に思ったが、どうやらアテネだけ、いろいろと都合が違うらしい。
『私は、歴史に出てくる双子神とは別に生まれた神でして、現在の神や天使、弟神―――エピロス様が属性を与えたものとは、属性の格が違うんですよ。それに私は”|断罪の女神《ジャッジメントヴァルキリ―》”という名の通り、私の断罪対象には、神や天使も含まれているんですよ。そのため、私は神の地位に座しているんですよ』
どちらかと言うとその神の地位に胡坐をかいているんじゃ?とも思ったが、言わないでおく。
・・・笑顔で、光の矢を右手に装填してたからじゃないだからね!脅されてるわけじゃないんだからね!
結局、、アテネに気づかれていたようで、光の矢を撃たれたがなんとか魔剣で防ぐことに成功した。
矢自体は、《暴食の悪食》で消せたが、衝撃がとんでもなかった。腕が痺れる威力って・・・殺す気か!
そんなこんなあって、宿の部屋の中でプチ神話大戦が起こったが、”仮面王”にすぐに止められてしまった。
あいつ、いきなり蹴り飛ばすんだよ。顔面を狙って。
アテネも諸に”仮面王”蹴りを顔面で受け止めてしまって、二人ともその威力で気絶してしまった。いや、それより実体がないアテネをなんで蹴れるんだよ。
最後に聞こえたのは、”仮面王”の明らかに笑いが抑え切れていない、呆れの言葉であった。
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目覚めは、最悪だった。
そりゃそうだよね!寝る方法が気絶だったからね!
しかも、普通の蹴りではなく外に一切威力を出さない、衝撃を内側で弾けさせるタイプの蹴りであったため、今も体中が痛い。てか、なんでこんな器用で殺人的な技を覚えてるんだよあいつ。
埃だらけの服とボロボロの体を引きずって一階に降りると、窓際くらいの席で二人そろって待っていた。
どうやら俺を待っていてくれたみたいで、テーブルの上には紅茶しか置いてなかった。
「悪い、待たせたな」
「・・・・・・そんなに、待ってない」
「全くだ。レディーを待たせるのはどうかと思うぞ。そう思わないか”遊戯帝”?」
二人とも、まるで正反対の返答が返ってきた。
「ああ、ここまで遅れた原因がお前じゃなかったら、その言葉にも共感できただろうな」
俺は、”仮面王”にそう皮肉を返しながら席に着いた。
”仮面王”は、薄く笑いながら紅茶を口にする。
前も思ったが、食事中くらい仮面は外したほうがいいんじゃないだろうか?というか、なぜ仮面をつけながら食べられるのだろうか?・・・謎だ。
「では、リーダーが来たところで自己紹介といこうではないか。今回、この旅に同行することとなった”仮面王”だ。趣味は読書と音楽だ。ポジションは・・・全部だ。よろしく」
『趣味の部分で、周りに迷惑をかけること、を忘れてますよ・・・・・』
頭の中で、ラファエルの声が低く響く。
《傲慢の眷属》により、隷属した者は、念話により周りに悟られることなく会話をすることができるらしい。他にも色々と効果はあるが忘れたと”仮面王は言っていた。
いやいや、そんな重要なことを忘れるなよ、ってかなんで天界でもわからなかった事が、異世界生活一ヶ月のお前がわかるんだよ、とツッコミどころ満載の言葉であったが、なんとか飲み込んだことが懐かしい。
いや、実際昨日の出来事なんだけど。
「・・・・・・聖女、名前は無し。ポジションは、神官。趣味は無し。・・・・・・よろしく」
今度は、聖女の自己紹介。
かなり味気ないもので、ほとんど余計な喋りがなかった。
いや、問題はそれより・・・。
「名前が・・・無いのか?」
「・・・・・・(コク)」
聖女は、首を縦に振る。
そういえば、中央教会でも聖女としか呼ばれてなかったし、大司祭も名前を呼んでなくて、おかしいとは思ったけど、まさか、名前が無いとは・・・。
どうしようか悩んでいると、思わぬ方向から声がかかった。
「名前が無い。それは少し不便だ。・・・よし、”遊戯帝”、お前がつけてやれ。旅先で、いちいち聖女と呼ばれては、いらん注目を集める可能性がある」
「・・・えっ、俺?いやいや、確かに名前はあったほうがいいが、俺が名づけ親になるってのも・・・ん?」
袖が、クイクイ、と引かれる感覚がし、横を見ると、袖を引いていたのは、聖女であった。
聖女は、こちらをじっと見つめて言った。
「・・・・・・お願い」
「・・・・・・えっと・・・マジ?」
「・・・・・・(コクコク)」
またもや聖女は首をゆっくりと縦に振る。
・・・どうしよう。
「おいおい、レディーを待たせるなと言っただろう。さっきも言ったとおり、聖女といちいち呼んだ場合、周りのものに〈ロマリア教国〉の最優秀成績神官がここにいるぞ、と言いふらすことと同義語だ。上のランクのものには居ないだろうが、冒険者の連中に見つかれば無理やり奪われるかもしれんぞ。神官は、常場戦場の冒険者には貴重だからな」
「無理やり連れていっても、聖術を発動させなければ、いくら神官でも意味がないんじゃないか?」
「そこはいろいろとやりようがあるってものさ。隷属系の魔法がかけられた首輪を嵌めて奴隷にしたり、身体的苦痛や、精神的苦痛で従わせたりって具合にな」
なにそれ、めっちゃ生々しいな、おい。
そこまで言われて、引き下がるほど俺も馬鹿じゃない。なんとか、聖女に合う名前を・・・そうだ。
「アリア・・・てのはどうだ?」
ちなみに、元ネタは少し前にやっていたゲームだ。黒い髪と、ゴスロりみたいな服が特徴的で、聖女の姿とそっくりだったから、この名前にした。
「安直だな。元ネタがすぐにわかるぞ。確か、この前お前がやっていたファンタジー系のゲームにそんな名前のヒロインが・・・」
「お前は、そこで黙ってろ。・・・で、どうだ?嫌なら、もっと考えるが・・・」
「・・・・・・大丈夫。私は、アリア」
ふう・・・お気にいりいただけたようだ。人に名前をつけるのって、大変なんだな・・・。
「さて、最後にリーダーに、存分に語って貰おうではないか」
「ハードル上げても、何も出ないぞ。・・・俺の名前は、朝葉竜地だ。リュージとでも呼んでくれ。武器は魔剣。魔法は・・・わからん。趣味はゲームだな。よろしく」
そういえば、俺は魔法を使えるのだろうか?今度”仮面王”かアテネのどっちかに聞いておくか・・・。
「・・・・・・”遊戯帝”じゃ、ないの?」
アリアが、聞いてきた。
たぶん、というか確定で”仮面王”が呼んでいた名前と、まったく違う名前を言ったことが気になるのだろう。
「あー・・・それは、あだ名みたいなもんだ。アリアの聖女みたいな」
「・・・・・・わかった」
納得してくれたみたいだ。
全員自己紹介が終ったところで、ちょうど良く店員が注文を取りに来た。
今日の朝ごはんは、パンと目玉焼きであった。
・・・妙に、地球くさいな。なんか。
*
「今回は、この国を抜けて〈神森〉に行く予定なんだが・・・旅って何買って、何持ってきゃいいんだ?」
朝飯を食べ終わった後、今日の予定について会議が始まったんだが早速難航していた。
正直、旅に出ることなんて、現代ではほとんど無いからな。登山家などを除いて。
そのため、どんな準備をしておくべきかがさっぱりわからない。
横を見る、最近まで教会に籠っていたというアリア。・・・無理だな。
前を見る、頼りにはなるが、”仮面王”の辞書に準備という言葉はない。いつも行き当たりばったりで過ごしてるからな。
少し上を見る、女神には何を聞いても常識はずれな答えしか返ってこないだろう。
と、いうことで・・・
(ラファエル!おまえだけが頼りだ!)
『別に答えてもいいッスけど、仮面の人にきいたほうがいいんじゃないッスか?』
(いや、こいつがまともな準備を思いつけるような奴とは思えなくてな・・・)
『何となくわかる気がしますけど、旅のときは準備に関してはまともだったッスよ?』
(・・・・・・・・・・)
ラファエルの言うとおり、”仮面王”に聞いてみました。
「旅の準備なら、まず欲しい奴は着替えに、だいたい一週間ぐらいの保存食と水がない場所なら、最低でも四日分くらいの量だな。一週間以上はお勧めしない、水は重いからな。それに、後は・・・・・」
随分と、本格的な答えが返ってきました。
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”仮面王”の言うとおり、旅の準備を終え、関所を越え、森の中にいる。
・・・アリアの聖女効果マジすげー。
なんてたって、アリアが一緒にいるだけで、品物がなんと無料に!
店の人たちは、この目で聖女様のお顔を拝顔できて、店に来ていただけるだけで光栄なのだから、お金なんか払わせるわけにはいかない、ということらしい。怖いぐらいの、宗教精神だった。
もちろん、関所でも顔パス。おっちゃんめっちゃ目を見開いてびっくりしてたよ。
まあ、まさか神官は神官でも、聖女を連れてくるとは思ってもいなかったんだろうね。
「あれぐらい、好意として受け取っておかないと、後が大変だぞ?受けとらなかったら、これでは満足していないとか勝手に思って、もっと受け取りづらい物を渡されることだってあるしな」
「・・・なんか、まるで自分がそんな目にあったかのような言い方だな」
「あったんだよ、暇つぶしに、〔翼亜竜〕の爪で包丁でも作ろうと思って、ちょうど良く村を襲ってた奴を殺したら、なぜか知らんが神聖視されてしまってな」
『・・・そういえば、そんなことあったッスね・・・。まさか、その辺に置いてあったナイフだけで、生きたまま解体するとは思わなかったッス』
「お前何エグイことしちゃってるの!?」
半端無く、外道の所業だよ!グロすぎる!
しかし、”仮面王”は全く動じることなく、平然と言ってくる。
「なあに、牛の解体を少し大きくしただけのものさ、大きさと、皮膚の固さが桁違いだったが」
「・・・少しは罪悪感はないのか」
「そんなこと気にしてたら、この世界では生きていけんぞ。お前だって、服に付いていた血のにおいからして何匹か殺しているだろう」
「あれは、仕方がなく・・・」
「殺しに仕方がなくも何もない。ただ必要だから殺すだけだ。前みたいに遊び気分でやっているようじゃ、死ぬぞ?―――今みたいな状況に陥ってな」
”仮面王”が、顔を斜め右前に向けると、そこから影が飛び出してきた。
それは、一人は金髪に金の鎧の派手な男。
もう一人は、青い髪に青い全身鎧をつけた男。
そして、少々の皮鎧に、粗末な武器を持った、盗賊たちであった。
青い髪の男が一歩前に出て話しかけてくる。
「久しぶりだなぁ。魔剣使い?」
「なんだ、盗賊かと思ったら、”遊戯帝”の知りあいであったか」
「どちらかというと、因縁に近くて、二度と会いたくない関係だけどな・・・」
そう、青い髪の男は聖女の選定の時に戦ったAランク冒険者にして氷属性魔法の使い手―――ゲラーであった。
金の髪の男は、お分かりの通り職業勇者(笑)のバスフールだ。
後ろの盗賊は、雰囲気からしてこの二人に雇われたものであろう。
バスフールが、ナルシストっぽく髪をかきあげ、近づいてくる。
「聖女様、お迎えにあがりました。あなたにふさわしいのは、そのような下賤なる平民ではなくこの俺です。あの時は、一時の迷いで間違えた選択をしてしまったのでしょう。ですが、安心してください。いまこそここで、その平民がどれだけ脆弱かを証明し、その迷いを晴らしてあげましょう。―――おい!平民!今ここで俺と―――」
『マスター・・・いくら友達がいなくても、こんなナルシストを極めたような男との付き合いは、止めたほうがいいッスよ』
「安心しろ。俺はこんな自分の実力も理解できてない、家柄だけが自慢で、究極のナルシストみたいな奴とは友達になる気なんて毛頭ない。・・・てか、マスターってなんだよ?」
『いや、魔剣の能力で一応隷属されてる身ッスからね。ここは、こういう言い方の方がいいかと・・・』
「じゃあ、最初の命令だ。いますぐリュージに戻せ」
『ぶ~、・・・しょうがないッスね。折角、アテネさんに言われてやってみたんッスけどね・・・』
「アテネェェェェェェェェッッッ!!!」
『うるさいですよ!』
「てめぇ!ラファエルになんてこと教えてやが―――」
「貴様ぁ!俺を無視し独り言とは、どれだけ俺を愚弄する気だ!」
あ、やべ、頭の中で喋ってたつもりが、漏れてたみたい。それに、バスフールのこと忘れてた。
バスフールは、顔を真っ赤にし、憤怒で顔を歪ませている。
「ゲラー!契約通りだ!さっさとこのこいつを始末しろ!」
バスフールがそう叫ぶと、ゲラーとその他盗賊がニヤニヤと笑いながら前に出てきた。
「悪く思うなよ。こっちも契約なんでな。あんたが、あの場所で負けてくれば、話はもっと早く終わったんだがな」
「・・・それはつまり、最初っから出来レースだったってことか?」
ゲラーは、下衆っぽく笑いながら言う。
「ああ、あの場所で俺がまずもう一人に勝った後、バスフールが俺に華麗に勝利する・・・ていうシナリオだったんだけどな。お前っていう異分子が入っちまったせいで何もかもが台無し。こんな残業もしなけりゃいけない始末だ。幸い俺もお前には恥を欠かせてもらったというのがあるし、お礼参りってことだ」
ゲラーは、剣を抜き、後ろの盗賊たちも武器を構える。
「後ろの奴らは俺の駒だ。じゃあさっさと―――死んでくれや」
ゲラーが剣を振りかざし駆けると同時に―――光の壁が出現した。
横を見ると、アリアが手を前に出している。これが、聖術なのだろう。
「ちっ、聖女か・・・。だが、あめぇんだよ!」
ゲラーがそう叫ぶと、後ろの盗賊が懐から黒い玉を取り出し、光の壁にぶつける。
黒い球があたったところから、光の壁は崩れていき、ついに、光の壁は消えてしまった。
「・・・・・・ッ!」
「アリア!?」
光の壁が崩れると同時に、アリアも倒れる。
とっさにアリアに駆け寄ろうと思った瞬間、目の前に影がさす。
いつの間にか近づいていた、ゲラーだ。
「死ね」
ゲラーはそう言い、剣を俺に振り下ろそうとし―――吹き飛んだ。
三回ほどバウンドし、ゲラーは元いた場所に転がされていった。
俺の目の前にはその原因がいる。そう、黒の燕尾服に白い髪と仮面をつけた男―――”仮面王”。
「ギャハハハハハッッ!!・・・これはまた、蝕光球とは、中々の骨董品じゃないか。どこで手に入れれたかは知らんが・・・いいだろう。”遊戯帝”はそこで天使を見ておけ、軽く調子を崩されただけだから問題はないはずだ。俺は・・・こいつらを片付けるとしようか」
”仮面王”は、ただ不敵に嗤い続ける。
*
ゲラーがいきなり吹き飛ばされて、目を丸くするバスフール。
だが、バスフールはすぐに気を取り直して、また偉そうに言う。
「ふん、そこの仮面男。今のは見逃してやる。この俺の慈悲深い心に感謝し、即刻この場から立ち去れ」
「残念だが、それはできない相談だな。俺にはいちおうこいつの成長を手助けしなければいけない『約束』ってもんがあってな。それに・・・」
”仮面王”はそこで一度言葉を切り、愉快そうに言った。
「―――ただごねることしかできん餓鬼を相手に逃げたとなっちゃ、ご先祖様に申し訳が立たないってもんでな」
「―――ッ!よかろう!貴様も含め、平民もろども殺してやる!」
”仮面王”の挑発に乗ったバスフールは、抜刀し、天に剣を掲げて、決闘の時のような聖剣エクスカリバーを召喚する。
金の柄に、宝石で装飾された鍔、芸術品のような刀身、形は前と変わっていないが、明らかに前と威圧感が違う。まるで、力が増大したような輝きを放っている。
『あれは・・・少しだけですが、本物に近づいていますね。前とは比べ物にならない量の魔力です』
アテネが驚いた感じで言う。確かに、前とは桁違いに魔力が増大しているようだ。
魔力は普通は生まれつきのもの。修行や鍛錬で上限を上げることは可能だが、それでもあくまで元の上限の二倍ぐらいが限界だ。
それも、十年単位の修行が必要であり、たった二日でここまでの量を増やすことは不可能に近い。
それこそ・・・禁術を使わない限り。
「なるほど、ただ持っているだけと思ったら、正しく使うことができるってわけか。・・・これは、予想外だ」
「どういう意味だ?この金髪は、いったい何をしたんだ?」
「さっき、あそこにいる奴が投げた球があっただろう。あれは正式名称『蝕光球』と言ってな、昔魔王が使った兵器の一種だ。あれには、相手の神力を奪う仕掛けがあってな、これで戦場で強力な神官を無力化してきた、いわば神官専用の特殊兵器だ。この兵器の特徴は、神力を奪うことにあってな、奪った神力はどこに行くと思う?」
「そりゃ、多分使用者に・・・あっ!」
「そうだ。奪った神力は全て魔力に変換され、使用者に注がれる。ただ一つ欠点は、変換効率が悪いためそこまで期待できないことぐらいだが、今奪われた神官は歴史上もっとも神力を持っている神官・・・聖女だ。いくら変換効率が悪くても力押しでなんとかなるはず。そういうことだ」
つまり、アリアが倒れたのは神力不足であって、呪いとかそういうことではないということか・・・良かった。旅に出た瞬間重傷とか、大司祭に申し訳が立たない。
「良く知っているな。だがもう遅い!俺は今最強の力を手に入れた!貴様に残された道は、死のみだ!」
「対神官兵器を持っている奴が勇者とは恐れ入る。そんな無茶な強化を行って、お前は無事で済むと思うのか?」
”仮面王”の問いに、バスフールは失笑で返す。
「貴様は何を馬鹿なことを・・・俺は勇者だぞ?死ぬわけないじゃないか」
なにこれ、異世界版慢心王?金髪だし、鎧もド派手な金だし、さっきから、死亡フラグしか立ててねえんだけど。
「いてててて・・・よくもやってくれたじゃねえか仮面野郎・・・。てめえの運命は決まりだ、ここで死ね」
ようやく衝撃から立ち直ったのか、ゲラーが顔をしかめて起きる。
これで、戦力差は、七対二。いくら”仮面王”が強くても、アリアの神力で強化されたバスフールとAランク冒険者ゲラーが相手では厳しい。
ラファエルたちを合わせれば勝てるかもしれないが、先ほどの『蝕光球』を再び使われた場合、勝つことが不可能になるので頼れない。
どうにか逃げれないか、そう考えていると、”仮面王”は、ふと頭の山高帽を外し、手に持った。
真っ白な白髪が、風にゆらゆらとたなびく。
「なんだ?いまごろ命乞いはおせえぜ?」
「命乞いなんてしないさ。やるとしたら・・・お前たちだろう」
山高帽に手を突っ込み、中から出てきたのはチェスの駒。兵士が三つだ。
どれも中くらいのサイズで、人差し指ぐらいのサイズの奴を”仮面王”は指にはさむように持っている。
「さあ・・・『出でよ、我が無双の軍勢。それは無限にして、個にして群。さあ、ゲームを始めよう。”盤上戦戯、《無限の兵士》”!』」
”仮面王”は呪文を唱えると同時に、駒を地面に叩きつける。
すると、駒を叩きつけた場所から、三人の兵士が現れた。
それは、『無個性』ともいうべきものだった。
どれも同じ鎧を身に纏い、同じような長槍と、同じような剣を腰に携えている。
顔はどれも鉄兜に隠され見えず、どこか意識のない人形のように見える。
「行け。そして、殲滅しろ」
”仮面王”が、手を振りおろし命令すると同時に―――三つの首が飛んだ。
「・・・はっ?」
ゲラーとバスフールは呆気にとられ、呆然と立ちすくむ。
今、一瞬で自分の仲間の首が飛んだことが信じられないのだろう。(そんな仲間を心配する奴らではないと思うが)
赤い血が吹き出る、首が無くなった体は、ゆっくりと倒れていき、その後ろから現れたのは先ほどまで目の前にいた六人の無個性兵士。それぞれの手には、剣が構えられており、三体だけ血に濡れている。
「ふ、増えた!?」
ゲラーが狼狽した声を上げる。それもそうだ、さっきまで三人しかいなかった無個性兵士が、倍の数に増えたのだから。
”仮面王”は、山高帽を頭に戻し、愉快そうに言った。
「それは、《無限の兵士》・・・ランクとしては一番低く、数に頼った戦い方しかできない魔法だ。兵士一体一体もそれほど強くないが、こいつは十秒間で二つに分裂する。破壊したければ、分裂する前に、全ての兵士を破壊しなければいけない。もっとも、兵士の強さは並みの騎士を超える腕だがな。ま―――頑張ってくれ」
”仮面王”が、手を振りあげ下ろす。それだけで首が飛ぶ。そして、いつの間にか兵士は増えていく。
次々と倒れていく仲間を見て、盗賊はやけになり突撃を繰り返し、また、首のない体が増えていく。
次々と、次々と、次々と。
死体は作業のスピードで増えていく。
そんな光景に恐怖を覚えたのかゲラーが走り出し、こちらに向かって剣を振り上げる。
「こんな魔法・・・!てめえが消えちまえば―――」
「残念、俺自身もそれなりに強いんだよ。気がつかなかったのか?」
ゲラーが繰り出す剣戟に、拳で迎え撃つ”仮面王。
拳にぶつかった剣は呆気なく砕け散り、ゲラーはあまりの事態についていけず、硬直してしまった。
そして、狙い易い的になったゲラーのわき腹を、”仮面王”は蹴り飛ばす。
ボッ!と何が爆ぜる音がし、その音と共にゲラーの上半身は消失した。
内蔵が露出し、血を噴出しながらしばらく歩き、ゲラーの下半身はゆっくりと倒れていった。
ドシャッ!と肉片がまき散らされ、鮮血が飛び散る。
「くそっ、くそっ、くそがァァァァァァァ!!」
バスフールは、聖剣を振り回して兵士を壊す。蝕光球によって強化された聖剣は、兵士一体一体を一撃で葬るが、怒りまかせの攻撃はどれも拙く、兵士の増殖スピードのついていくことができず最後には、聖剣を手から飛ばされおさえこまれてしまった。
聖剣は、くるくると回って地面に突き刺さるが、すぐに端からポロポロと崩れていった。
「さて、いくら勇者の聖剣だろうと、手から外してしまえばただの武器。召喚するには、自身の使用する聖剣と形が同じの剣を触媒にしなければいけないからな。見たところおまえが持っていたのはあの剣一本、つまりお前の負けだ」
「がっ・・・俺を・・・俺を誰だと思って・・・!」
兵士に抑え込まれながらも、抵抗をしようとするバスフールに、”仮面王”は嘲笑を混ぜて返す。
「なにもできない、欲しがり屋の餓鬼か?いい加減自覚しろよ、小僧」
「・・・ッ!貴、様ァァァァァァァ!」
突如、バスフールが叫ぶと同時に、兵士が空高く吹き飛んだ。
ガシャンッ!と騒々しい音をたてながら落ちていく兵士。その原因は、どこか狂った笑みを浮かべ、立ち上がる。
「貴様だけは・・・貴様だけは、必ず殺す・・・!勇者を侮辱したことを・・その身で後悔しろ・・!」
「やれるものならやってみろ。その勇者の奥義でな」
「いいだろう!『集え!光よ!それは魔を滅する光にして、ただ滅びを与えるものなり!”光の閃光”』この世から、塵も残さず消えろ!!」
バスフールが発動した魔法は、いわばレーザー。
光の速さの攻撃は、一切の回避行動を不可能にし、一瞬の余もなく相手を蒸発する。
魔法陣とほぼ同じぐらいの太さの金色の光線は、まっすぐに”仮面王”に向かい―――上に逸れていった。
「・・・は?」
「その魔法は、威力が高く回避は不可能なため奥義とされているが、発動時のエフェクトが派手なためすぐに相手に対策手段が練られてしまうのが欠点だ。今のは、光の屈折率を変えただけだ、たいしたことはしとらんのだがな・・・そろそろだな」
「くっせつりつ?何を言っているんだ貴様は。それにいかにして俺の奥義を・・・グアアアアァァァァッッ!!」
その言葉は、最後まで続かなかった。
なぜなら、バスフールの右腕が突然内側から爆ぜたからだ。
血と肉片がまき散らされ、バスフールはかつて右腕があった場所を抑えながらもだえる。
「くっ!一体何が起きて・・・!」
「だから言ったではないか。無茶な強化をしても知らんぞ、と」
そうしている間にも、バスフールの体は次々に爆ぜていく。
左腕が爆ぜ、目が爆ぜ、体が爆ぜ、最後に頭が爆ぜてバスフールはこの世から完璧に跡形もなく消え去った。
その存在を証明するのはいまや、地面に描かれた花のような血模様のみ。
全身に、返り血を浴びた”仮面王”は、静かに語る。
「・・・なぜ、修行をすることにより魔力容量が増えるのか?それは、魔力を貯める袋自体が大きくなることにより、空気中に漂う魔力を多く集められるようになるからだ。では、無茶な量の魔力を注ぎ込んだ場合どうなるか・・・答えは至極簡単、破裂するだけだ。力は突然増えることはない。ただ、日々の積み重ねにより増えるのみ、それを越えられるなら・・・それこそ、神の所業だろうな」
”仮面王”は、こちらに振り返り、薄く笑いながら言う。
「なあ、”遊戯帝”。今のを見て、お前はどう思った?」
そして、”仮面王”の言葉で俺は気がついた。
俺は、今の惨劇を見て、何も思っていないのだ。それこそ、殺人に対する忌避感も、罪悪感さえも。
確かに俺は手を下していないが、それでも目の前で人間が無残に殺されていくショッキングな光景を見た。
しかし、それを見ても俺は何も思わないのだ。
「力には常に代償が付きまとうもの。強力になればなおさらだ。そのことを、胸にとどめておけよ」
”仮面王”は、どこか寂しそうに言った。
やべえ、”仮面王”に惚れそうだぜ・・・。
かっくいいいいいいい!
って自分で言ってみる。




