十四話 黒髪の聖女
すいません!遅くなりました!
今回は、忙しかったため、予想以上に時間がかかってしまいました。
その分構想はしたので、なるべくよいモノにはなっているとは思います。
では、どうぞ!
・・・まさかそんな裏技があったとは・・・。
アテネに言われて気づいた俺は、早速魔剣で乗り物を造ることにした。
テレレッテレ~!じーてーんーしゃ~!
これぞ文明者の道具、自転車!えっ、自動車?
確かに、この剣ならば自動車どころか、飛行機さえ造れる。俺も最初は造ろうとした。
だが、≪嫉妬の執着≫による、形質変化には重大な欠点があった。
それは―――完璧な想像。
つまり、自動車を造ろうと思ったらエンジン部分の内部の構造も完璧に、一部の隙もなく想像しなければいけないということだ。
もちろん、たかが学生の俺にそんな専門知識なんてあるわけなく、結果、泣く泣く断念しなければいけなかった。
自転車はいつも登下校に使うたび、たびたび壊れるので修理に出すのもめんどくさくなり、自分で直すことが多かったので、すべての構造を把握していたのだ。
壊れるたびに、五千円も払ってたらすぐに破産するし。
いつも、めんどくさがってやっていたことが、こんなところで役に立つとは・・・世の中分からないものだ。
自転車を再現した俺は、早速使って〈教国〉に急ぐことにした。もうすぐ昼だし。
少しくらい到着時間が速くなればいいな。
そんなことを考えて造った俺だが、一つ重要なことを忘れていた。
魔剣と世界を超えたことによる強化と、その力にも耐えうる自転車が加われば、どのような結果になるのかを。
『え~と、大丈夫ですか?』
「ゼェ、ゼェ、・・・し、死ぬかと思った・・・」
結果、軽く音速を超えた。
やばかったよ、自転車、マジ怖ええ。
走り出した瞬間、空気が分厚い壁のようになった感触。
耳元で響く爆音。
そして・・・引き裂かれた大地。
それらを含め、アテネは感心した目で、自転車を見ている。
『すごいですね。これ、新しい武器かなんかですか?』
「馬鹿言うな、これは立派な乗り物であって、決して人を傷つける為のものなんかじゃない」
『ちなみに、あなたが音速移動した結果、その衝撃に耐えられず〔ゴブリン〕が五匹くらい死んでいます』
「・・・ごめん。武器だったかも」
そういえば、元の世界でも、けっこう自転車で事故とか起きてたもんな。
音速に乗ったせいで衝撃波が起こり、それで怪我したなんてことは起きているわけないが。
今度はゆっくりスタートしよう。そう決意して、自転車をこぐ。
さっきよりは断然遅いが、まだ時速60キロ位は出てる気がする。
ちなみに、なぜわかるかは昔やっていた車を運転して競争するタイプのゲームのお陰だ。
あのゲーム、スピードメーターとか無いから、感覚でスピードを覚えなきゃいけないんだよな。懐かしい。
それにしても、かなり加減をしてるのに、これだけ出せるって・・・なんか俺も人外じみてきたな・・・。
『その剣を持ててる時点で、既に人間からは離れてますよ。黄昏ていないで、急いでください』
「・・・わかってるよ」
少し本気を出して走る。これで、時速百二十キロくらい。
そういや、なんでさっき音速を出した時、服とか燃えなかったんだろ。普通のジーパンとTシャツなのに。
・・・まあ、実害はないしいいか。魔力とかで説明できるんだろう。たぶん。
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どうやら、あの場所からは〈教国〉はそんなに離れていなかったらしく。俺はすぐに〈教国〉に到着することができた。・・・音速をだしたってこともあるかもしれないけど。
〈教国〉に入るには、検問を通らなくてはいけないらしく、旅人らしき人たちもそこで列をなして並んでいたので、おとなしく俺も並ぶことにする。
自転車は・・・剣に戻して、手の中に収納しておく。便利な乗り物、ってことで変に目を付けられるのも嫌だしね。
しばらく待っていると、ついに俺の番が来た。
それにしても、なんか手際が悪い気がする。一人に何分かけてるんだよ。来た時昼だったのに、もうすぐ夕方じゃねえか。
そんなことを心の中で思っていると、俺は検問の門番に話しかけられた。
「ずいぶん珍しい奴が来たな・・・旅人には荷物が少ないし、貴族にしては護衛が見当たらない・・・冒険者って顔には見えないしな」
「・・・それはおれが弱そうってことか?」
「おっと、気を悪くしたなら誤る。冒険者ってのはだいたい〈教国〉に来る奴に限って、どんな手で神官や治療師を引き込もうか目が曇ってるからな、お前さんにはそれが見えないから、そう思っただけだ」
「まあ、事実俺も冒険者じゃないしな」
なかなかデキる男みたいだ、目を見るだけで心の中が読めるなんて。
「で、お前さんは何の用で〈教国〉に?」
「さっきあんたが言ったのと同じ理由だよ。神官か治療師を探しに来たのさ」
そう俺が言うと、門番は顔をしかめた。
あ、あれ?なんかまずかったか?
「・・・治療師はともかく、神官は諦めたほうがいいぞ。名も顔も知れ渡ってない奴について行くほど、あいつらは馬鹿じゃないし、心労で死ぬことになる」
「・・・どう言う意味だ?」
「言葉のままさ、治癒系の魔法士と神官はかなり貴重だ。自分を守れるかどうかわからない奴に、あいつらはついていかない。それに、奴らは自分らが貴重ということが分かっているから選民意識に凝り固まってる奴が多い。一度神官を連れて行った高名な冒険者が、連れて帰ってきたということもあったからな。熟練の冒険者はそういうやりとりに慣れている分まだいいが、初心者は諦めたほうが賢明だ」
「・・・なるほど」
これでは、神官を連れて行くどころか、治療師を連れて行くことさえ難しそうだな
戦闘のときとか、治癒系は重要なんだがな・・・。
「ま、そういうことさ。通ってもいいぞ」
「おう、いろいろとありがとうな」
「なに、将来が有望な若者にちょっとした貸しを作っただけだ」
・・・なかなかに、抜け目のないおやっさんだった。
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「これはこれは・・・ずいぶんと宗教観漂う街なことで」
『だいたいそんなものですよ』
そこにあったのは、教会ばかりの街と、修道女と神父だった。
たまに、鎧をつけた冒険者らしきものや、大きなローブと杖の魔法士らしき人もいるが、それでもまだ教会の関係者らしき人のほうが多い気がする。流石宗教国。
『ここは、世界神教の総本山ですからね。教会関係の人が多いのもしょうがないですよ』
「世界神教・・・どんなんなんだ?」
『世界は神によって作られ構成されている、よって我々はその神のご恩に報いるため、祈りを捧げ、感謝を忘れてはいけない。という感じの教えを広める宗教ですかね』
「なんだ、まともそうじゃないか」
こういう感じの世界感のゲームでは宗教はおかしな価値観が多かったし、この世界はどうかと思ったら随分まともそうな宗教みたいだ。
『まともなのは教えだけですよ。上のほうでは、我々は神に選ばれた神の使徒なのだからといった理由で好き勝手やってますしね。たぶん、信者に見せれば全員、世界神教から離れていくと思うぐらいのことはやってますよ』
と思ったら違ったみたいだ。まともそうだと思ったのに。
『いちおう、下の方には真面目な方も多いですしね。そんなに幻滅することもないですよ』
「・・・だといいがな」
『とにかく、どうせ無神教者には関係ないことでしょう。さっさと宿屋にいって次の日に備えましょう』
「そうだな」
そうして、俺たちはほどなくして宿屋―――〈春風の宿場〉を見つけることができ、中々いい宿だったので泊まることにした。
「一泊銀貨三枚です」
「はいはい」
受付に銀貨三枚渡し、俺は部屋に向かう。
ちなみに、貨幣は銅貨、銀貨、金貨、神金貨というものがあって、元の世界と照らし合わせると銅貨一枚百円ぐらい。銅貨十枚で銀貨、銀貨十枚で金貨、金貨百枚で神金貨らしい。(神金貨だけ普通の十倍必要なのは、材料が希少なため)平民の月収は金貨一枚なので、その点から見ればこの宿は結構高いのだろう。まあ、中も綺麗だしな。
部屋についた俺は、早速寝ることにした。明日は神官か治療師探しに行かなきゃいけないし。
ああ、銀貨はどこから出たか?もちろんアテネからさ。今回だけだけど。
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「ふあ~。・・・ねむ」
『十時間は寝てたじゃないですか・・・』
そんなことを言われても、俺は朝は弱い方。睡眠がとれようがとれなかろうが、朝はいつも眠いものだ。
『・・・野営でそんなこと抜かしていると死にますよ』
「・・・わかったよ。で、どこに行けば神官等には会えるんだ?」
『こんなものがあるみたいですよ』
アテネが指し示した方には、一枚のポスターがあった。
「え~と、場所は中央教会にて、聖女の旅立ちの選定を行う。日付は・・・今日かってなんで読めるんだ?」
しかもわかるんだよ。こんなミミズがのたうった字なのに。
『世界を超える時一番面倒なのが言葉ですからね。あらゆる生物と話せるようなってますよ』
そんな感じらしい。まあ、言葉が通じなきゃ冒険どころじゃないしな。死活問題だ。
「・・・まあ、見に行くだけならばいいかな」
俺は中央教会に行くことにした。
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「・・・でけ~」
『大陸最大の宗教の総本山の本部教会ですからね』
中央教会は直ぐに見つかった。
いや見つけられないほうがおかしいかもしれない。
街の中央に広大な広場。その真ん中で塔のごとき建物が立っているのだから。
『ちょうど、選定の儀式が行われているらしいですよ。少し覗いてみましょう』
「野次馬根性全開だな・・・」
そう言いながらも、覗きに行く俺。そこにはこの街の住人がちらほらいた。
どうやら、まだ始まったばかりみたいだ。
年老いた、司祭の声が響き渡る。
そこにいたのは、鎧をつけた三人の男と厳かな衣装の白髪の老人に警備の兵と見物人、そして―――一人の黒髪の聖女だった。
そう、聖女としか言えない。魂の奥底が、あの少女が聖女であることを証明し―――なぜかそれを否定する。
(なぜ俺は・・・聖女じゃないと否定したんだ?)
葛藤する俺を置いて、アテネがつぶやいた。
『・・・素晴らしい神力ですね。これならこの規模も納得できますね』
「?これが普通じゃないのか?」
『わざわざ中央教会を貸し切ってやるなんて、普通はやりません。あの少女はそれだけ教会が心血注いで育てた神官なのでしょう』
「なるほどな・・・」
年老いた老人は、何かを読み上げ、男たちは順番に振り返りながら紹介されていく。
右から順に、金色の髪に金色の派手な鎧をまとった顔のいい青年。結構な貴族らしく、名前を読み上げた時見物人からどよめきがはしる。ドヤ顔うぜ~。
真ん中、青い髪の青い全身鎧の男。どうでもいいが、紹介されているときくらい、その下衆っぽい笑みはやめたほうがいいんじゃないか?
最後、赤い髪に、革の鎧をまとった男。装備を見る限り狩人らしい。おい、そこの金髪と青髪、見下してんじゃねえよ。この中で一番まともそうなのはこいつだよ。お前らじゃねえよ。
こんな感じ?まともな奴いないな。人材不足じゃねえの?
次に、聖女が前に出て男たちの前に進んでいく。
聖女が、直々に選定するみたいだ。そのほうが、無理やりよりはいいか。
黒髪の聖女は、迷わず金髪の青年の前に行く。
ええ~、どうみてもそいつはダメだとおもんだけど。青髪も醜く顔を歪めてるし、赤い髪は・・・特に変化はないが、少し周りの雰囲気が落ち込んでる気がする。
自分が選ばれることが当然とばかりに、金髪は手を差し出す。だから、そのドヤ顔うざいって。
聖女はその手を―――無視して、金髪の横をすり抜けていく。
えっ、という声がここまで響いてくる。
あ~あ、金髪固まっちゃてるし。予想外の自体に脳が硬直してしまったみたいだ。
聖女は、固まる金髪を無視して、教会の入口に向い―――突然片膝ついた。
正確に言えば、その入口に立つ黒髪の男―――俺に向かって。
教会にいる全員が言葉を無くし硬直する、ついでに俺も硬直。そんな俺たちを置いていき、聖女は告げる。
「―――我が魂は、この方と共に」
と。
衝撃の展開!・・・なのか?
そして聖女はどうなるのか!?
金髪はどうなるのか!?
次回をお楽しみに!
誤字脱字アドバイスなどありましたら報告お願いします。
訂正
・自転車のシーンを少し修正しました。




