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四季神  作者: ノノギ
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第五十八話 別れ

 大きな爆発。あたりが泥と爆発で発生した熱で蒸発した地面の蒸気と土埃で視界が悪い。そばにいたガスイとクレハが大声で双輝の名を呼んだ。

「双輝!!」

銀葉も叫ぶ。何がどうなったのかわからない。少しずつ足を進めて双輝がいたであろう方へ歩み寄ろうとした。けれど何かが聞こえて銀葉は足を止めた。何かが聞こえた。

「・・・とう」

「え?」

後ろから聞こえたかすかな声に反応して振り向く。そこには何もいない。舞い上がる蒸気と土埃。その中で聞こえてくる声に耳を傾ける。

「ありがとう」

はっきりと聞こえた言葉。銀葉ははっとした。この声だ。ずっと銀葉の中で苦しみ悲しみもがいていたのは。

「あなたが・・・本当の霍忌?」

「あぁ。色々申し訳なかった。時折拘束が解けて体から離れることができたんだけどそのたびに助けを求めて力を放出し続けていた」

さっきまで喋っていた声と同じではあるが全く違うその声。柔らかくて温かみを帯びている。これが本来の霍忌の持つ声なのだろう。

「もうすぐ俺の力が解ける」

「・・・え?」

「君をこの世界に呼び寄せたのは俺なんだ。申し訳ない」

予想もしない展開に銀葉は呼吸することを一瞬忘れた。

「え・・・?え?!だって『神をまつる?』みたいなことを聞いてきたから・・・!」

「巫女様の力を持っているけどそれ以上に特別な力を持っていた。それなのに、神を信じないなんて、変だなぁって思った。でも口調までは操作できない。俺だって必死だったし。悪い印象を与えたならそれも含めて謝る」

信じられない事実。てっきり内心ではトキが嫌がらせで銀葉をこっちの世界に呼び寄せたのだと思っていたところだった。まさかこんなことだとは。

「俺の力、そろそろ切れてしまうんだ。だから君はここから立ち退くことになるよ」

「・・・・え?」

それこそ予想していない言葉。確かに帰りたいと思っていた。でもこんな急に変えることになるなんて。双輝だって今どうなっているのかわからないし。

「双輝は、無事だよ。今たぶん折れたヒコウを治しているところだと思う」

霍忌の声が少し薄くなった。その違和感に気づき指摘する。

「あぁ、そろそろ体に戻らないと今度は空っぽになっちゃう」

「・・・じゃぁ、羅刹は・・・」

「・・・たぶん、双輝が斬った」

スイセツと共に。やはり双輝はすごい。心底思った。銀葉はその直後、自分のしなければいけないことを悟った。

「ちょっと、どこに行くんだ?」

走り出した銀葉に向けて放たれる霍忌の声に銀葉は走りながら叫ぶ。

「言わなきゃ!双輝に!もう会えないかもしれないなら!言わないと!」

銀葉は走った。霍忌の声はもう聞こえなかった。きっと体の方に戻ったのかもしれない。蒸気と土埃が治まってきて視界がだいぶ遠くまで見えるようになってきた。そしてかがみこんでいる双輝を発見した。

「双輝!」

「あぁ、銀葉!無事か?」

「うん」

「そうか、よかった」

微笑む双輝。やっと双輝のそばに来ることができた。しかしそれでやっと気づく。双輝の体の刀傷。もう双輝はボロボロだ。立っているのもやっとなのかもしれない。両脇にスイセツとヒコウが双輝を抱えて立っている。

「あれ?ヒコウ・・・?」

「何。折れたからって死ぬわけじゃないぞ。双輝がきちっとしてくれればいつでも再生できるんだから」

笑っているヒコウを見て安心した。銀葉はそれから双輝に真面目な表情で向かった。

「ごめん、双輝。私・・・大したこともできなくて」

「何を言っているのさ。俺の腹の傷を抑えてくれたのは銀葉だ。それが無かったら確実に羅刹に殺されていたよ」

暖かいその笑みに銀葉は触れたくてそっと手を伸ばした。不思議そうな顔をしている双輝に笑みを送る。双輝ほど暖かい笑みを作ることができているかは自信がなかった。

「私ね・・・どうやらもう帰らないといけないみたい」

「え?」

双輝もきっと銀葉と同じように驚いている。いや双輝だけではない。ヒコウも、そしてきっとスイセツも。やっと双輝たちを見つけて駆け付けたガスイとクレハが状況が理解できていないなりにその場の空気で何かを察したようで固まっていた。

 銀葉の体がふわっと浮く。自分の体がどんどん光に包まれている。視界も狭くなってきていてどんどんぼやけていく。

「急なお別れでなんだか私嫌だよ。まだ、双輝たちと話とかしたかった」

少しだけ震えている銀葉の声。双輝がさっと手を伸ばした。そして銀葉の手を軽くつかむ。この世界で男性から女性に触れることはほとんどない。そんな世界で育った双輝が、自ら銀葉に触れようとしたことになぜだろうか、嬉しさがこみ上げて涙がこぼれそうになる。それでもそれを必死に耐えて銀葉は笑顔をこぼした。

「いつか、何とかして迎えに行く!約束する!」

双輝の声だけが耳の奥で木霊していた。


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