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四季神  作者: ノノギ
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第五十六話 鬼

 普通の高校生。普通の女の子。普通の生活。普通の人生。普通、普通、普通。そんな中でずっと生きてきた銀葉に今すぐ、みんなみたいな魔法のような力が使えるなんて、思う訳がない。それでも、きっと出来ると信じている。右手に感じる人の温度とはとても思えない熱いもの。ガスイの手。きっとこれが誘導なのだろう。力を感じて銀葉は強く結んでいた瞳を開ける。握りしめている右手が桃色の光りを放っている。

「後は、双輝を想え。心から。そうすれば絶対に外れない。最後まで信じきって」

ガスイに言われる。銀葉は再び大きく頷いた。右手を前にだして気持ちを一つにする。まず、大事なことは何か。

-双輝の傷を少しでも癒したい。

銀葉は勢いよく双輝に向かって光りを投げつける。

 銀葉から飛んできた光の塊。それを身に受けて双輝はいっきに酸素が身体に染み渡るのを感じた。傷口が治った訳ではない。それでも流れ出る血は止まった。双輝は銀葉を見る。膝をついて大きく息をしている。ガスイとクレハがいるから問題ないだろう。ゆっくりと立ち上がって霍忌を睨む。

「双輝!その人、霍忌って人じゃない!」

「え?」

いきなりした銀葉の荒れた大声に耳を奪われる。霍忌のほうもさすがにその言葉には目を細めた。

 銀葉の中でずっと流れつづける深い悲しみ。家を飛び出るまでそれが何なのかわからなかった。でもひざまづいている双輝を見て、見下すように立っている霍忌を見て。やっと何なのかわかった。心が伝える。伝わってくるのだ。

-君はわかるか?助けてほしい。救い出してほしい

切実な声が頭と心に響く。これが悲しみの要因、霍忌という人間の心そのものだ。

 銀葉は叫ぶ。どういう詳細かは知らない。それでも、今目の前にいる霍忌は、霍忌であって霍忌ではない。何か別の大きなものが霍忌の心を追放した。たえず救ってくれる者が現れるのを待ち叫び続けていた。その叫び声を代弁して銀葉も叫んだ。本当の心を。

「その人は戦いたくない!誰も傷つけたくないんだよ!」

「へぇ。なぁ双輝、あの女は何だ?」

理解し難い状況の中、霍忌から着た言葉に思考を働かせる。銀葉が何者であるのかは簡単には言えない。双輝は霍忌の質問を無視した。

「お前こそなんだ?霍忌ではないのか?」

「ふぅん。面倒なやつだなぁ。まぁいいか。教えてやろう」

根本的な話。四季神と妖怪、つまり人間と妖怪。この二つが断絶した理由は霍忌が起こしたものだった。いや、正確には霍忌の心を追放した大きなもの。その理由は。正体は。

「俺の本当の名は羅刹」

「羅刹!?」

双輝は声を荒げた。その瞳はひどく驚いている。銀葉は少しだけまだ息を切らしながら隣の二人に尋ねる。何をそんなに驚くことなのか。

「知らないのか?」

ガスイも驚いた表情で銀葉に目を向けた。続いてクレハが言う。

「羅刹って言うのは、この世で最も強靭とされているもので最悪とも言われているの」

クレハの語り方に違和感。まるで書物にあったものを言っているようにすら思えた。

「ほとんど公になんてされていない伝説の神だよ」

「神!?」

そんな大層なものが人を殺そうとしていいのか。銀葉は霍忌の方へ目をやる。

 スイセツの肩を掴んだまま固まる双輝はやっとの事で目の前の相手の通称を口にした。

「鬼神、羅刹・・・!?」

霍忌、いや羅刹は笑みを浮かべた。今までの氷のような無表情から冷酷な笑みに。

「俺はこの土地で消したいやつが3人いる」

羅刹は突然いいはじめた。

「一人、四季神。二人、お前。三人、玩愉」

予想外の名前が盛り込まれていて双輝は耳を疑った。長きにわたりこの世界を統治してきた四季神を消したいと言うのはわかる。以前殺し損ねた自分もわかる。だがそこに何故玩愉の名が組み込まれたのか、双輝にはわからない。いや、双輝だけでは無く皆わかるまい。

「あれはこの現状で今だに人間を怨んでいない。これから作る混沌の世界には邪魔な存在なんだよ」

今、玩愉はいない。それ故に少し苛立ちを覚えているようだが、そんなことはどうでもいいらしい。今この場で双輝を消し去り四季神をも消す。その後でゆったりと探せばいいと。無限な時間が存在しているから。

「無限・・・?神とていつかは滅びるぞ!」

双輝は声を張る。羅刹はその言葉に楽しそうに反応した。

「お前、何を考えているんだ?この体が『神』か?」

「え・・・?」

「人間の体をもらえば幾らでも再生しこの世に在り続けることができる。この体が朽ちればまた別の人間の体を貰い受けるだけだ」

果ての無い転生。それが鬼神の力の一つ。

「今まで全く以ていい体に出会えなかった。人間と妖怪を断絶させるために結界を張ったが、それだけで使っていた人間の体は朽ちてしまってね。もろくてたまらない」

人間をまるで道具のように、おもちゃのようにしか思っていないその発言。これが鬼神と恐れ悪意の塊となったものの心なのだろうか。

「ようやく見つけた子供の体に入ったらこれまたよくてな。この霍忌という人間は俺の力に負けない肉体を持っていた。そうそうあるものではないからな。現に、封印をしてから随分と時間がかかってしまった。ようやく手に入れたこの肉体でまずはお前を。そして四季神を。最後に、あの妖怪を消し去って俺の念願は達成できるというものさ」

羅刹の冷たく言い放たれた言葉。それの指すスケールの大きさが想像を絶するもので、把握するには困難だった。それでもここでこの羅刹を止めなければこの世は終わる。それだけでもわかれば刀を握る理由になる。


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