第五十三話 勝敗強弱
構えたまま霍忌と同じように雨に打たれる。霍忌は今だに構える姿勢は見せない。内心双輝は自分の事など無視して四季神の方へ行くのではないかと思っていた。何せ過去に一度敗れている。そんな弱いと判断した相手と剣を交えようとするだろうか。
「さて、と」
双輝の思考とは裏腹に霍忌はどうやら双輝とやり合う気があるようだった。四季剣、とはとても思えない禍禍しい気配を放つ剣をどこからともなく取り出した。本来の四季剣ならその大元となる『物体』が存在する。その物体から四季剣を作り出す。双輝ならガスイやヒコウにクレハ、スイセツといった人型を成したもの。相枦はビー玉のようなもの。そういったものを霍忌は手の内にも周りにも有してはいなかった。最早霍忌は護人とは全く異なった違う力を得てしまっているのかもしれない。
「俺とやりあうつもりがあるのか・・・?」
「なんだ、それ?俺がやらないと思ったのか?」
双輝は俯いた。霍忌という人間の力がどれほどあるのか双輝には計り知れない。だから出来うることならば戦うことはしたくない。かといってこの場を放り投げてしまっては四季神、トキの存在に危機が及ぶ。ここで止めることができるのなら止めるべきだ。しかし、霍忌が強いということは幼い時からわかっていることだし、今は知れないが昔の自分で考えれば到底霍忌に勝てる力は持っていない。
「人と戦うことに興味でもあるのか?」
「ないね。弱い奴に興味はないし、雑魚を斬ったところで俺の剣が錆びるだけだ」
霍忌はこげ茶色の瞳をゆがませる。その瞳に写すは双輝。かつて友として生活をしていた存在。
「なぜ俺と戦おうとする?戦意を示したからか?」
「・・・何か勘違いでもしているのか?言ったはずだ。俺は弱い奴に興味はないって」
「勘違いをしているのは霍忌の方だろう?俺は一度霍忌に負けている。弱いとは思わないのか?」
「まけ?」
殺気の籠った言葉に双輝は身を構えなおす。圧力をかけるような重たい空気が双輝の全身に降りかかる。冷や汗の様なものを感じながら双輝はヒコウを握りしめる。そこでやっと気づいた。さっきからヒコウの言葉が一切聞こえない。それだけではない。息遣いすら聞くことができない。そのことに対する恐怖心が双輝を襲う。そんな双輝の心情を知らずか霍忌は言葉を続ける。
「あの時負けたのは俺の方だよ、双輝」
「・・・は?」
思いもかけない言葉に双輝は一時ヒコウのことを忘れた。
「俺はあの時、双輝を殺すつもりで刀を振った。しかしだ。お前は冬の四季剣を顕現させた挙句、俺に退却をさせた。まぁ、万全ではなかったと言うのは言い訳だがな」
刀を振り回すように持ちながら霍忌が語る。その全てがまるで嘘のようで双輝はわが耳を疑った。霍忌はさらに続ける。
「俺は確かに四季神を潰しに来た。そしてここら辺では最も強いだろう妖怪も。いや、本当なら妖怪の方は手を出すつもりはないんだけど。過去のことでちょっとあるからそいつだけは消す。でも今いないな。消えたか?まぁいいけど」
刀を肩にかけて目線を少し横に流してにこやかな表情で霍忌が言った。
「ま、とにかくだ。俺はここを潰しに来た。ただ、それと同時に双輝。お前とも戦うためにわざわざここに出向いたんだ。四季神を潰すのならどこでだってできるがお前をやるにはここしかないだろう?」
霍忌の言葉一つ一つが双輝にとっては信じられないものだった。簡単に人を傷つけ妖怪を侮蔑し、さらには四季神すらもその存在を簡単にぞんざいな扱いをしている。本当にこれが昔共に遊んでいた人間なのかと思うと身が震えた。
「つまりは・・・俺を・・・?」
「そうだ。お前を抹殺することがここへ来た理由」
もう、昔の霍忌ではない。そんなこと、あの時からわかっていたはずだった。それなのにどこか悔しくてそして悲しかった。
「なぁ、ヒコウ・・・」
返事はない。そのことで双輝はやっとさっきからヒコウと対話ができていないことを思い出した。その様子を悟ってか、霍忌が笑った。
「どうした?四季剣と会話できなくて嘆いているのか?あの時と同じだろう。俺の能力。すべての力を無に帰する。この雨も、な」
「・・・・やはりこの雨は霍忌が・・・」
見下すような笑みを浮かべた霍忌に愕然とする双輝。あの幼少期とは異なり今では随分と鍛錬をして助言なしでそれなりに戦うことはできるが、四季剣とその主は一心同体。それを切り離してはならない。




