第四十九話 逃亡
慌ただしく焦りの日々が数日。つまり嫌な雨がもう何日も降り続けていた。そんな折、双輝の家に飛び込んできた村の人がいた。
「双輝!大変だ!四季神様が封じた相枦が逃げ出した!」
それは予期せぬ出来事。そしてこれからの出来事の幕開けだった。
傘をさして双輝は走った。四季神が張った結界はかなり丈夫なもので強固なはず。それを相枦程度の力で打ち破ることは不可能なはず。だとするとこの雨の影響だろう。ここのところ、ずっと振り続けている雨。そしてこの雨は妖怪の力を衰退させた。もしかしたら衰退させるのは妖怪だけではないのかもしれない。そう思ったら急激な不安がこみ上げる。一度、走るのをやめて一緒に連れていたガスイとヒコウを見て、ガスイを選び村に戻るように指示をした。
「この雨は予想以上に危険だ。村の者にこの雨の中で歩かないように伝えてくれ。それと、くれぐれも、ガスイ。お前もこの雨に打たれるなよ」
「了解」
ガスイは村へ向かって走り始めた。ヒコウは双輝の横でそんなガスイの背を見送っていた。
「さぁ、探そう、ヒコウ」
ヒコウはただ頷いた。
地面にたまった水がはねて裾を汚す。そんなことをかまう様子もなく双輝は走り続ける。妖怪の森の中を奔走する。ヒコウが相枦の四季剣の気配を追ってここまで来たのだが、肝心なところで気配が消えてしまった。そして、その気配が消えたと同時にもう一つ、気配がないことに今気づき足を止める。
「玩愉が・・・いない?」
「避難するって言っていたじゃないか。だから・・・」
「そんなすぐに気配の消せる場所があるのか?」
「知らないよ」
双輝は深呼吸を一度すると再び相枦を探すために走り出す。
人が倒れているのを発見したのは森に入ってずいぶん経ってからだった。あわてて駆け寄ると相枦ではあったが、以前ほどの力は持っておらず、それどころか生きているのか不安になるほど弱っていた。双輝は急いで相枦を背負うと村に向かって一直線に走りだした。その後ろを走るヒコウが双輝に言葉を送る。
「それ、スイセツが見たらキレるよ」
「わかっている。だからおいてきたんだ」
ヒコウとて、怒りがわかないわけではない。己のもっとも崇拝する主を傷つけ嘲笑った相枦をどうして許すことが出来よう。そしてそんな相枦ですら救おうとする我が主に嘆きを覚えずにはいられまい。