第四十八話 やる気
そんな様子を見ていた双輝の思うところ。
「場違いなのは俺だけか・・・?」
「いや、双輝。俺らもだ・・・」
双輝の小さな独り言を聞き取って四季剣たちが頷きながら代表してガスイが双輝の肩を叩いた。
渋々といった様子で双輝は銀葉の質問に答えた。
「会ったといっても、直接会ったのは俺の父で、俺は横で見ていただけだったんだよ」
当時の双輝からしてみれば、四季神とは、顔を合わせるのもおこがましいと思えるほど大きな存在だった。そんな四季神を前に、頭を上げることは出来なかった。よって、会ったといっても顔まで見た訳ではなかったようだ。
さもどうでもいいといいたげな玩愉を気にしながら双輝は早口にそれを説明すると玩愉たちの話に戻すことにした。
雨だ。この雨を晴らすことがまず最優先。しかし、玩愉はどこか乗り気ではないようだった。やる気が無い、といっても悪くない。何とかするべきだといっている割には何とかしようとしない。銀葉にはその態度がどうにも気にかかった。
「玩愉、やる気あるの?」
「あ?」
銀葉がふっと聞いた質問に、怒りを混ぜて返答した。相変わらず、玩愉が強く睨むと怯んでしまう。玩愉の眼光。しかし、これで引いてしまっては、負けてしまうので嫌だった。負けず嫌いは銀葉の真骨頂でもある。
「なんかさっきから、何とかしろの一点張りのような気がしてさ。押し付けようとしていない?」
「当たり前だろ」
そうきたか!当たり前と言ったか!
腹がたった銀葉だが、双輝達の手前、何とか怒りを押さえて玩愉に歯向かう。その様子をどこか楽しそうに観察するトキと止めるべきか放っておくべきか、葛藤している双輝が見ていた。四季剣は双輝の意志が固まるのを待つだけだった。
「なにそれ!自分勝手じゃない?!穉瑳ちゃんをここにおいているし・・・」
「情報をくれてやってるだろう。それでチャラだ」
「はぁ?!」
決意の固まった双輝が動いたので、四季剣達も腰を上げる。
今にも玩愉につかみ掛かりそうな銀葉を後ろからヒコウが羽交い締めにして前から肩を押さえて双輝が宥める。ガスいとスイセツは玩愉の動きを警戒してクレハは全体的な動きを見ていつでもどの方向にでも跳べるように構えをとる。双輝にしては女性である銀葉がここまでの暴言を吐いていることに驚きと戸惑いを隠せず、苦笑いを浮かべる始末となった。
何とか宥めた銀葉へ笑みを送りながら、話の主導権を握るべきだと判断した。そんな折に玩愉が銀葉へ挑発するように笑いかける。
「相手は護人だろう?俺には関係ねぇ」
言い切った玩愉に再び銀葉が破壊行動に出ようとしたのを四季剣達に止めさせて、双輝は玩愉にあまり挑発しないように伝える。玩愉は相変わらずの笑みを浮かべる。
「護人の問題は護人で片付けろ。俺達妖怪を巻き込むな」
これは双輝に向けて言っていた。双輝はそれを言った玩愉の瞳に一瞬時を盗まれた。はっとして慌てて玩愉のそれから目を外し荒れた心臓を抑える。
「なにそれ!!巻き込むなって!そもそも妖怪を倒すのが護人の仕事なんでしょ?!だったらこの雨だって妖怪を倒すためにやっているんじゃないの!?関係ない訳無いじゃん!」
「ふん。この地の事を何も知らない餓鬼風情が物言ってんじゃねぇよ」
圧してくる玩愉の言葉に銀葉は一瞬尻込みする。それでも、その無責任な感じが許せなかった。穉瑳が衰退し弱ってしまっている。それの原因をまるっきり人任せにしようとしているその態度に腹が立った。
「餓鬼って何よ!そんなに子供じゃな・・」
「銀葉、これ以上はよしな」
止めたのはトキだった。
「トキくん・・・!」
「玩愉も玩愉だ。どこか大人げない」
「はん!お前に言われたくねぇな」
その言葉を得てトキは一瞬、目線を下に落とした。それから再び目をあげて玩愉を睨む。
「確かにそうかもしれない。でも、この子は本当に何も知らないんだ。仕方ないだろう。まったく別の・・・」
「知っているさ。ここじゃない別の世界だろう?だが、そんなことどうでもいい。知らないなら知らないなりに黙っていればいい。余計な口出しをしていいのはこの地のことをよく知っているやつだろう」
玩愉とトキの視線が交差する。一歩も引かないその眼光にさすがの銀葉も身を縮めた。