第四十七話 哀れ
この時点で双輝には嫌な予感しかしていなかった。玩愉ですら穉瑳の衰退を止めることは出来なかった。それを起こした護人の紛い物。果してそれが何であるかなど、穉瑳は語っていなかった。それでも、その嫌な予感がしたのは護人としての勘か、過去に縛られた虞れなのかは誰にもわからない。
その日の夜、思いがけない二人の来客に双輝は硬直せざるを得なかった。
「玩愉とトキ君が一緒に来るなんて!仲良くなったの~?」
「いや、表で会っ」
「元々悪い訳じゃねぇよ」
トキの言葉を遮って玩愉が言い放つ。トキはそれに押し負けて黙った。双輝はトキ、四季神の登場に顔を引き攣らせていた。
「何用・・・でしょう?」
やっとの事で言えたそれは、銀葉からしてみれば笑えるくらい小さい声だった。
「あぁ、この雨のことで少しね」
トキがため息混じりにそういうと、玩愉は穉瑳へ一度目を動かした。双輝は、穉瑳から聞いた話を二人にする。
話を聞いたのち、玩愉は小さく笑った程度だった。トキはというと考え込んで喋ることをしなくなった。この空気で双輝に何をしろという。銀葉はあっけらかんとして双輝と同じように固まっているクレハで遊んでいる。
「護人の紛い物って・・・?」
やっとのことでトキが言葉を放った。双輝にもそれが何を指しているのかわからないけれど、胸の奥できりきりと双輝を締め付けてくる何かがあることは確かだ。
「紛い物は紛い物さ。護人になりきれなかった哀れな人間さ」
玩愉の言い草。何かを知っているようにしか双輝には聞こえなかった。穉瑳は玩愉がこのことを知らないといったが、どう考えても何かを知っている。それとも、穉瑳の話を聞いてから頭をよぎったものがあったのか。
トキが不服そうな表情でせせら笑っている玩愉を睨む。しかし、玩愉がその視線に帰すようにトキを見るとトキはすぐに目を外した。それを見た玩愉が小さな声で「腰抜けめ」と言ったような気がしたが、聞こえなかったことにする。
「哀れな人間・・・っていったい?」
「そのくらい自分で考えろ・・・と、言いたいところだが、穉瑳を置いてもらっている手前だ。教えてやるか」
双輝の質問に答える玩愉。妖怪相手に質疑は本当に駆け引きの様なものだからその点、玩愉が穉瑳をここにおいてくれて本当に良かったと思う双輝だった。
護人としての力は有しているが、護人には成り切れなかったニセモノ。それが哀れな人間。
「成り切れなかった、というには語弊があるように思えるけど」
突然ずっと黙っていたトキが口を開いた。玩愉は相変わらず楽しそうに笑っているが、双輝としては実に苦しい状況。緊張し過ぎて心臓が破裂しそうなくらいだった。その様子を見た銀葉は、クスリと笑った後、ふと思い出したことがあった。今の空気を考えず、銀葉は質問を述べる。
「双輝ってトキ君に会ったことあるんだよね?どうして顔を知らないの?」
「と、唐突なこと聞くね・・・」
困った表情で笑いを浮かべた双輝に少しだけ申し訳ない気分になったが、玩愉の表情で悲しさまで込み上げた。
「お前、馬鹿か?」
「そんな言い方!!」
玩愉の放つ冷たい言葉に口を尖らせて文句を言う。その様子を見ていたトキが少し楽しそうに笑ったのを見て、玩愉が追い込む。
「ほう、笑えるのか?」
「いや・・・」
「そんな意地悪ないい方しなくってもいいじゃない!トキくんだっていろいろ大変な思いをしているんだから!」
玩愉の言い草に腹を立てて文句を言う。トキはそれをなだめるように銀葉に笑いかける。