第四十五話 雨
双輝の体力も落ち着いてきたある日、外は酷く雨が落ちてきていた。四季剣達にとって雨などたいしたものではなく外に出ない双輝を咎めていた。
「ずっと家の中にいるのは暇だよ~。外に出て演習しようよ!」
クレハの言葉に双輝は笑いながら返す。
「今日は雨が酷いから無しだよ」
文句を言いながら奥の部屋へ入って行ったクレハに苦笑いをする双輝だった。
それにしも嫌な雨だ。なんだか気分が悪くなりそうな程だった。そのことを双輝に言ってみると、警戒した表情を見せた。
「銀葉はもう少し自分の力を理解した方がいい。玩愉も言っていたけど、銀葉には特殊な力が秘められている」
双輝はひどく真面目な表情をして言った。銀葉がこの雨で感じたのはおそらく巫女の力。護人の力であるなら双輝とて感じることだ。双輝に感じないのなら、それは巫女の力というわけだ。
そうは言われても今まで何も感じず、何も考えずに生きてきた銀葉にとって、理解するにはあまりも遠すぎる世界だった。窓の淵に肘を追いてそんなことを考えていた。降り注ぐ雨が重たそうに地面を叩いている。
「この雨・・・やだなぁ」
ぼやく銀葉。それに答える声。
「結界の中に入れば平気なんだから、良いじゃないか」
「結界って?」
「そんなものも知らんのか。想像でわかるだろう」
「いや、わかるけど・・・良いじゃないか、って言われても別にその中に入っているわけじゃないし」
「入っているだろうが」
「え?!嘘!?・・・・つか、え!?玩愉!?」
ぼうっと話を進めていて、窓下に腰を下ろしている玩愉に気づかず普通に話をしていたことに銀葉は自分で驚く。
「どうした?」
銀葉の声を聞いて双輝が来た。双輝が歩み寄ってきたことで玩愉は立ち上がった。それに伴い、双輝も玩愉が来訪していたことに気づいたようだった。
「結界を張っているのは無意識か?」
「え?あぁ、雨とは蔭を呼び寄せるから防ぐために、な」
それを聞いて玩愉はせせら笑うように鼻を鳴らした。
「俺は妖怪で蔭だぞ。でも入って来れているのだがなぁ?」
「何を言っているのさ。お前らを蔭と思ったことはない」
「あ、そう」
急に話に興味がなくなったように玩愉は目を反らした。それから少し目の色を警戒へと変えて双輝を見た。それに答えるように双輝も瞳を鋭くした。
「この雨は少しよくねぇ。穉瑳が衰退しそうでね。お前らが良いというなら、ここに穉瑳を置いてほしくてな」
玩愉からの思いもかけない願い出に、双輝を含めて四季剣たちも驚きの表情を見せた。双輝はどこか切羽詰まった様に玩愉へ待つように言うと四季剣達へ目を運ばせた。
「って・・・言っているけど、お前達は?」
双輝の尋ねた言葉に四季剣のみなは顔を見合わせて、互いに合致したらしく代表としてガスイが解答を提示した。
「オレ達の主は双輝だ。全て双輝の意志のままに」
わざとらしく頭を深々と下げたガスイに肩を落しながら、玩愉へ向き直る双輝。
「了承する。ただし、これは言っておく。必ずしも穉瑳を護ることは出来ない。責任は追いかねない。それでも良いというなら」
双輝の真剣な眼差しを得て、玩愉は楽しそうに笑った。
「あの護人とのいざこざを心配して言っているのか?まぁ良いさ。何があろうとここに置いたのは俺だ。お前らを責めるようなことはしねぇよ」
嘲笑うように言うと玩愉は姿を消した。おそらく、穉瑳を迎えに行ったのだろう。残った双輝達は今だに少しほうけていた。流石の銀葉も、この状況は驚くに値するものだと思えた。あの、あの!玩愉が。自ら最愛の妹を預けようとするなんて。しかし、玩愉が連れて来た穉瑳を見たとき、合点がいった。