第四十三話 不在
翌日には双輝もすっかり元気そうで、よかったと安心する銀葉。
「ちょっと出掛ける。スイセツ、付き合ってくれ」
双輝の言葉を得てスイセツが立ち上がる。
「俺も・・・」
ガスイも立ち上がるが、双輝は止めた。ここでみんなを守れと命じた。ガスイだけではない。ヒコウもクレハも納得がいかないような表情をしていた。その納得がいかない表情の中にむろん銀葉も含まれている。雰囲気から察して銀葉も連れて行くようなことを双輝はしない。スイセツのみを連れていこうとしている。どこに行くのかは・・・わかりきっていることである。
「私も行きたいよ、双輝!玩愉のところに行くんでしょう!?もう危険なんてない・・」
「お前は何もわかっていない」
双輝の代わりにスイセツが言葉を発した。銀葉の言葉を遮って。銀葉はぐっと言葉を押し殺した。スイセツのことだからこれ以上の言葉をつづけることはないだろうかと思案したが、予想に反してスイセツは言葉をつづけた。
「双輝がお前を連れて行かないのにはそれなりの理由がある。無論、その理由を言ってしまえば連れて行くことと同等の意味を成す。言っている言葉の意味くらいは理解できるだろう?」
珍しいくらい言葉を放ったスイセツに銀葉も、四季剣たちも驚きの表情を見せた。その拍子に双輝が薄く笑って家を出て行った。不貞腐れた銀葉はやつあたりに家の壁へこぶしを入れた。
妖怪の森を歩く双輝。その後ろを静かについていくスイセツ。荘厳とした空気は相変わらずだった。きっとこの空気はあの玩愉が作り出しているモノなのかもしれない。こんな空気の中で四季剣を呼び起こした双輝の心にスイセツは痛みすら感じていた。本来なら、充足した心環境で満ち足りた精神で四季剣とは顕在させるものだ。にもかかわらず。
「スイセツ。玩愉を見ても敵意を出すなよ。いや、わかってはいると思うけどさ」
「愚弄するようなことを言わなければな」
「おいおい・・・」
主の意見が優先ではあるが、主自身のことが最優先事項。双輝を傷つけるような行為は四季剣としてあってはならない。かといって、変に庇い立てして玩愉を怒らせて双輝に危害を加えてはさらに話にならないので、注意しなければならないことだ。
誰も住んでいる気配のないあばら家で双輝は足を止めた。しかしそこにこそ、今日会いたいものがいる。ここに来るまですんなり来ることができたということは玩愉の方も否定的な気分ではないようだ。
「あれ?双輝? ごめんなさい。兄様は今いないわ」
穉瑳が家から顔を出して答えた。
「え?いない?この森の中に居たら気づくと・・・」
「・・・いいえ。この森にもいないわ。少し出かけていて・・・あぁ、もうすぐ帰ってくると思うの。待っていてもらえる?」
「わかった」
穉瑳のにこやかな笑顔に双輝も笑顔で返して階段に腰を下ろした。
「この森にもいないとは。一体どこへ行ったんだ」
「・・・さてね。妖怪は本来住地を変えることはしないし、そもそも穉瑳がいる。移動ではないんだろうな」
玩愉の行動のわからなさに首をかしげる双輝とスイセツ。