第四十二話 疑問
ふっとため息をついて双輝は目を閉じた。ずいぶん長い昔話になった事を詫びた。銀葉は首を振る。双輝は隣に座っているスイセツの右手をとって手の平を見つめた。銀葉も少し覗くと、火傷のような跡がうっすらと残っていた。
「すまないな」
「俺はお前を守れればそれでいい。俺は人間じゃない。主を守ってこそ存在する意義を持つ」
スイセツが他の四季剣たちより双輝を大切に思う理由が何となく銀葉はわかった気がした。
「その・・・粱禾ってひと・・・どうなったの・・・?」
震える声で尋ねる銀葉。双輝はとても細い笑みを浮かべた。
「生きているよ」
銀葉の中で暖かい空気が流れた。てっきり死んでしまったかと不安になった。
「でも、目を覚ましていない」
「え?」
双輝の言葉に銀葉は固まった。スイセツもうつむくだけで何も言わない。粱禾はあの後、ガスイの力で一命は取り留めたが、目を覚ますことはなかった。そして今も、別の村で療養している状態だった。目が覚めたら双輝の元に連絡が来るようになっているらしいのだが、その連絡は一切来ない。双輝は何とも言い難い表情をしたのち、きりっと表情を変えた。
「さて。そんな訳でね。その霍忌というやつが持っていたその能力だけど、他に持っているものがいないんだよ。後に気になって調べたが存在していなかった」
「四季神様を押さえ込んだのも霍忌だというのか?年齢が合わんぞ」
スイセツの言葉に双輝は俯いた。話の大まかな流れは理解出来ても、細かいことまではわからない銀葉に追求することは出来なかった。遥か昔に存在していた妖怪と四季神。そんな二つの存在を断裂させた人間が双輝の生きた時代にいる訳がない。
「まぁ、あくまで仮定だし、確信がある訳でも根拠がある訳でもないから何とも言えないけどね」
「それに仮に霍忌って人がそうだとしても年齢がおかしくない?」
「それもそうだね」
双輝が弱く笑った。銀葉はなんだか罰が悪い気がして俯いた。
「双輝。俺から提案するのも何とも言えないが・・・この際やつの所に行って・・・。いや、何でもない」
スイセツは目を伏せてから立ち上がった。
「お前ももう大丈夫みたいだから、俺は寝るとする」
くるりと回ってスイセツは眠る場所へ足を運んだ。その背を見て銀葉は切ないような、悲しいような気がした。相手が凍てついているからだろうか。
「・・・やつ、か」
双輝がボソッといった。首を傾げた銀葉に双輝は優しく微笑みかけた。
「寝よう」
笑って言った双輝の笑みに隠されている心が銀葉にはわからない。
「あ・・・双輝。あの、隣で寝ていいかな?なんかこの広い場所だと淋しくて」
「あっ、それは気づかなくてごめん」
「あ・・・いや」
本当に素直に率直に双輝は謝罪を言う。なんだかそれに違和感を覚える。でもこの世界ではこれが自然体なのだろう。あぁ、人間は。
双輝の横に布団を移動させて、布団の中に潜り込む。しばらくすると双輝の寝息が聞こえた。相当体も精神も疲労していたのだろう。
なかなか寝付けなくても人はいずれ眠ってしまう。うとうととして夢の世界へ落ちて行く。