第四話 感情
「ねぇ・・・。この森、どのくらい長いの・・・・?」
一体どのくらい歩いたか解らなくなるほど歩いてきた。体力に自信がある銀葉ですら息を切らして疲労の色を隠せずにいる。しかし、双輝は何事もないかのようにスタスタ歩いていく。そこいらの男なんかより断然体力の自信があった銀葉にとって少しショックなことだった。
「まだ・・・・、だけど」
ショックを受けたが、まぁ、同じように鍛えているのなら男の双輝のほうが体力があってもおかしくないと納得して歩く。そして、双輝のまだという言葉に失望する。体力が限界だ。
「だめ・・・・。もう歩けない・・・・」
ブーツだった為もあって、長く歩くと足に負担があった。中学のときに山登りをして、友達をかばって足をくじいたときのことを思い出した。あのときの男共の反応は今でも腹が立った。
―え~怪我って。がんばって歩けよぉ~
―本当に痛いの・・・。手を貸してよ
―やだよ。自分で精一杯だから
挫いた銀葉に手さえも貸してくれなかった男子。腹立つ、腹立つ。
「大丈夫か・・・・?」
そうやって心配はしてくれるんだけどねぇ~。
「手ぇ、貸してよ。この靴、森とか山道歩くのに向いている靴じゃないんだもん」
どうせ断れると思いながらも愚痴半分でそう言った。双輝からの返事がない。地面ばかりを見つめていた銀葉は小さくため息をついた。
「手・・・・?」
やっと双輝が声を発した。
「そう。ちょっと、足が痛いから」
「痛い? 歩けるのか?」
「だから、手を貸してって言っているんだよ」
近くにあった石に座りながら銀葉はそう言った。双輝が動いたのが足音で解った。何をするつもりなんだろう。
「え・・・?」
地面を見つめていた銀葉の目にも移るくらいの位置に、双輝の背中が見えた。
「足、痛いんだろう?なら、おぶるよ。乗りな」
双輝は首だけを銀葉に向けて嫌の欠片も無く言っていた。
「え・・・・?お、おんぶ・・・?い、いいの・・・?だって、私・・・重いかも・・・・」
「平気だよ。さっき落ちてきたときに軽く抱えたし。そんなに重くないともうから」
純粋とは、こう言う表情のことを言うのだろうか。
「どうして・・・?」
「え?」
「どうして、そうしてくれるの?」
「・・・? 女性に対して、労わるのは普通だろう?」
「え?」
「・・・・貴女のところでは違うのか? 俺のところでは女性とは大切にしろと、教えられてきているから。女性の願いは極力受け入れるのが最低限の礼儀だと」
世界が違うとここまで礼儀作法が変わるのか? 女性の待遇がものすごく良い。
「そうなの・・・?私のところは、男も女もほとんど一緒。どちらかと言えば、男のほうが偉ぶっているけど・・・」
「そうなのか? 酷いな」
「どうして、そんなに女性を?」
「・・・・説明はするから、先に進もう。日が暮れちゃう。乗るか?」
「・・・いいの?」
「もちろん」
「じゃぁ・・・遠慮なく」
銀葉は双輝の背にその身を預けた。双輝はひょいと立ち上がると歩き始めた。
「おもい・・・?」
「ん?全然。 むしろ軽いと思うよ」
「やぁ!お世辞を言って!」
「世辞・・・・?そんなつもりは無いんだけど・・・」
「・・・本気?」
「ん?ん~、そうだよ」
力持ちなのか。それとも、本当に軽い?そんなわけ。銀葉は一人で疑問を抱き、一人で解決へ導いていた。