第三十九話 追憶の始まり
今よりずっと前、双輝がまだ護人ではない子供の頃の事。
「双輝!四季神様の森へは入るなよ!」
「はいっ!父様!」
双輝は元気よく飛び出した。
「霍忌!森へ行こう!」
「あぁ、今行くよ。粱禾も誘ってやろう」
「うん!」
赤褐色の髪をした焦げ茶色の目が大きな少年の背に双輝は飛びついた。霍忌は双輝より3つ上の少年。幼くして四季剣を既に持っている力のある特別な存在。でも双輝にとってはそんな力云々の問題ではなく兄のように尊敬して、そう、特別だった。
粱禾を誘って森の方へ走っていく。粱禾は吹けば飛んでしまいそうなくらいひ弱な感じだった。真っ黒な髪は深緑色の瞳を隠すように垂れている。双輝は霍忌の背を追って歩く。その後ろを粱禾が追って来る。それがいつものスタイル。
四季神の森と対を成している妖怪の森。四季神の森は入ることが出来ないので、妖怪の森の入口付近で遊ぶことが多かった。この村の妖怪はなぜか襲って来ない。霍忌がそんなことを言っていた。
「双輝の父君が立派だからだよ。俺もなりたいよ。憧れさ」
「へへ。オレもなりたいよ!父さんみたいな護人に!粱禾は将来どんなんに?」
「え?」
突然話を振られた粱禾は少し困った表情をして考えていた。それから少し照れ臭そうに笑った。
「馬鹿にされちゃうかも」
「しないよ」
「双輝はしないけど、霍忌はきっと笑うよ」
粱禾は俯いて笑う。霍忌は心外だと笑った。
「だって・・・・。護人じゃなくてもっと別のものになりたいなんて笑うでしょ?」
「ん?笑っちゃうね!護人になることこそ全て!違う?」
「ほら・・・・」
今度は少し悲しそうに俯いた。双輝はそんな粱禾の背に手を当てて尋ねた。
「じゃあ、何になりたいの?」
「・・・やだよ」
「なぁんだよ。笑ったのを怒ったの?なら謝るよ?」
「違うよ。それは双輝でも言えないよ」
「なんで?」
双輝が尋ねると粱禾は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「粱禾?」
霍忌が覗き込むように粱禾を見るとさらに真っ赤になって目まで閉じてしまった。
「その赤面症、なんとかしないとね?」
霍忌が諦めたように仁王立ちをして言った。双輝も眉を寄せて困った表情をしながら笑う。それにつられて粱禾もクスリと笑うのだった。
家に帰った双輝は父親に粱禾の事を語った。
「へぇ。粱禾がそんなことを?」
「うん。なんでろう?」
「そらぁ、誰にも知られたくないんだぁ。詮索すんなよ!」
突然話に加わってきた青い髪の青年。
「トウフウ!?何処から!?」
「ずっといた」
鋭い目を和ませて笑うトウフウは父のもつ四季剣の一人、冬の四季剣。
「トウフウ、シュウフウは?」
父が尋ねる。
「あ?あんな冷たいやつ知らないよ」
「トウフウが一番寒いよ?」
「双輝、そういう問題ではないよ」
父が双輝の間違いを正そうとした時、冷たい声が聞こえた。
「呼んだか?」
「あぁ、シュウフウ。双輝の話し相手を頼むよ。俺は行くところがあるから」
「わかった」
シュウフウは何も考えずに父の言葉を肯定すると双輝の前に腰を下ろす。
「何だよ、俺じゃダメだってか?」
トウフウが文句を言うが、笑って返した双輝の父。
「違う。おまえはついて来いってことだ」
「なるほど」
納得したように立ち上がると、父の後を追ってでていった。双輝はシュウフウに意識を寄せた。
「俺も護人になれたらシュウフウたちを使えるの?」
「無いな。俺達は、あくまでお前の父親の四季剣だ。受け継いだとしても、きっと異なるものだ」
双輝は首を傾げた。四季剣はあくまで持ち主に忠誠を誓う。その意志は全てそれを持つものに宿る。例え父から譲り受けても形は全く異なるものとなるのだろう。