第三十八話 語り
「双輝が恐怖した顔を見るのも数年ぶりだな」
スイセツは唐突に切り出した。銀葉はスイセツの言葉に耳を傾けた。しかし、傾けてからはスイセツが何も喋ってくれなくなってしまった。双輝の表情を盗み見るとなんとも切ない笑い方をしていた。
「まぁ、いい。どうせ語るつもりなどないのだろう?もう、大丈夫みたいだし俺は寝ると・・・」
「いや・・・」
「ん?」
立ち上がったスイセツを呼び止めるように双輝は言葉を放った。それに反応してスイセツは止まったが、双輝はそれから喋らなくなった。
「双輝・・・?」
銀葉はそっと声をかけた。双輝は少し苦しそうな顔をしてから笑った。
「座れ、スイセツ。話がある」
それを是としてスイセツは双輝の横に腰を下ろす。
「あ、私は邪魔?」
「いや、銀葉も。むしろ、銀葉に」
双輝のこの表情。なんだか怖い。べつに双輝の表情自体が怖いんじゃない。その表情から伝わって来る切なさとかが何だか怖かったのだ。
「四季神様がおっしゃられた事。少し気になってな」
「トキ君の?」
「え・・・・あ・・・・うん、まぁ」
双輝は曖昧な返事をした。それを聞いてから思った。四季神様を「トキ」と呼べばこの世界、誰でも反応に困るだろう。
「四季神様は力が戻らなかったとおっしゃっていた」
双輝は沈んだ声で言う。それをとてもしずかに聞いているスイセツ。何だかこの空気が銀葉には辛かった。そしてこの会話の中で自分が本当にいていいのか疑問だった。
「あの時と同じなんだ」
「あの時?」
双輝はすっと前髪を耳にかけた。別に前に垂れ下がっていないのに、耳にかけたことは無い。スイセツの瞳が震えているのを見て銀葉は驚いた。きっとあの時というのがスイセツにはわかったのだろう。
「粱禾・・・・」
小さな声でスイセツが言う。
「りょう、か?誰?」
銀葉はスイセツに尋ねるように聞いたがスイセツは何も答えてくれない。
「あ、あのさ!スイセツって私の事嫌い?」
「興味が無い」
「う・・・」
「スイセツ。少しは言葉を選べ」
双輝が言う。スイセツは少し視線を落として黙ってしまった。双輝はスイセツから銀葉へ向けた。
「俺は、四季剣たちと成長してきた。その過程に・・・」
双輝にしては珍しいくらい苦しい表情をしていた。そしてその顔を銀葉はきっとずっと忘れることはなくなるのだろう。
「両親はいなかった」
衝撃的な一言で双輝が語りだしたそれこそ衝撃的な出来事。