第三十六話 原因
双輝の家の前で一度止まってトキを確認するとものすごくいやそうな表情をしているのが見て取れた。
「そんなに嫌?」
「嫌」
「即答・・・。玩愉だって怒ってないのよ?」
「・・・分かっているよ。分かっているけど・・・。あるでしょう。合わす顔がないって・・・」
「・・・じゃぁ、殴って顔変えてあげようか?」
「そういう問題じゃないでしょ・・・なにその発想・・・」
銀葉は落胆しているときを無理やり家の中へと引き摺りいれる。
「あ、お帰り。早いね」
双輝が出迎える。そして後ろにいるトキを見て深々と頭を下げた。
「止せ。オレはそんな大そうなもんんじゃない・・・」
「救っていただき、ありがとうございました」
「助けたのはオレじゃない。むしろオレは・・・」
「貴方のおかげです」
双輝のどこまでも澄んだ心髄にトキは言葉が続かなくなった。中へ招き入れるとトキの目と玩愉の目が合致する。その直後、トキはきびすを返して逃げ出そうとした。
「おいおいおい。顔見て逃げるたぁ、ずいぶん失礼なやつに成り下がったなぁ?」
銀葉の目には映っていなかった。いつ、玩愉が立ち上がりトキの前に立ちはだかったのか。トキの顔を固定し、自分と目を無理やりにでも合わせる玩愉。それから必死に逃れようとするトキ。その様子をどうするべきか必死に悩んでいる双輝と四季剣。銀葉は何をしたらいいのか分からずとりあえずじっとしていることを決めた。
「ぐ・・・ぎ・・が、玩愉・・・はなし・・・」
「お前が俺の前から逃げないというなら放してやる」
「わがった・・・わがったから・・・放して・・・」
玩愉はやっとトキを開放した。玩愉から目を背けながらトキはため息をついた。そんなトキの様子を確認してから玩愉が今度は双輝に向かった。
「ま、礼は言っておこう?お前のおかげでトキを引きずり出せたからな」
「いや、そういわれても、俺には何が何だか分からない状態だが」
「説明がほしいか?」
「当たり前だろう」
「ふん。トキ。お前がしてやれ。俺は面倒だ。聞いている」
無茶ぶりマックス。そんなことを銀葉は思うのだった。
トキは玩愉の申し出を渋々受諾した。座り込みうつむくトキ。それを柱にもたれながら腕を組んで見下ろす玩愉。この二人の関係は・・・・。
時を遡る事うん千万。人と妖怪はともに生息していた。互いに干渉しすぎず一定の距離を保って均衡のバランスをとっていた。時に妖怪の力を借り、時に人の力を借り。そんな時勢だった。その仲を取り持っていたのが世の均衡を保っていた四季神。そしてその力を最も利用していたのが玩愉。
「おぉ、シキガミ。西の森のほうで揉めているぜ?」
「トキと伝えただろう。 それに気付いたのなら行ってくれてもいいのに」
「なんでこの俺が動かなきゃならん?」
「その考えがお前らしいけど」
四季神、トキは玩愉の力を借りつつ貸しつつ、この世がバランスを崩さぬようにあちこちを飛び回っていた。そんな中。
「四季神様。もう、妖怪の住まう土地がございませぬ」
あふれかえった妖怪たちが生息する土地を失い始めていた。玩愉とも相談して考えた末、トキは妖怪の住まう土地を新設することを提案した。多少ダメージを受けて疲労するがそうすることがベストだと結論づいた。無論、玩愉の力も借りながら。
広大な土地を新たに創り上げた。力を心底使ったトキは疲労の色が隠せていなかった。
「お前、弱いなぁ」
「そういう玩愉だって結構力ないだろう、今」
「まぁな。でもトキほど色はみせてねぇ」
「あー、はいはい。そうですね」
トキは適当に返事をしつつ、心のそこから玩愉に感謝していた。この土地を作るのにも一人ではなしえなかった。
「兄様!」
「ん?」
「あぁ、動けるようになったか」
「はい、兄様!」
「えと・・・?その子は?」
「妹だ。最近生まれた」
「穉瑳と申します!」
穉瑳は楽しそうに笑っていた。妖怪にも人と同じように心があり感情が存在する。それを無碍にしてはいけない。だから広大な土地を作った。玩愉とともに。
土地の状態も落ち着き、住めるまでになった。そこで、全国各地から妖怪を集めてその土地に移住してもらった。みな嬉しそうに笑っていた。
「トキ。これからも人と俺らは・・・」
「もちろん。共存していく。昔は仲があまりよくなかった。これも全部、玩愉のおかげだ。本当に感謝する」
「別に。謝礼の言葉なんぞほしかないな」
「素直じゃねぇな」
土地へみなが入っておのおの好きなことをしていた。
「さて。俺も入って様子を見てくるか」
「おう。感想頼むよ」
「苦情言ってやる」
「天邪鬼め」
玩愉は穉瑳をつれてその土地へ入った。おそらく、玩愉が最後の妖怪だっただろう。トキはその姿を目で追っていた。その姿がまさか消えるとも知らずに。
「どうなっているんだよ!?開け!開けよ!!中には妖怪が・・・!」
追っていた玩愉の背が一瞬で消えたのに、トキは驚いた。慌てて近くまで駆け寄ると巨大な障壁が築きあがっていた。その壁を必死にたたきながらトキは叫び声をあげていた。中から音は一切聞こえない。上から見ても中は全て見えない。四方八方その障壁で囲まれている。何が起きたのか理解ができなかった。
「何でだよ!?何が起きて・・・!?」
混乱しながらも必死になってその障壁を取り除こうとした。しかし。
「ち、力が・・・・足りない・・・!!」
土地を創るのに力を使ったせいでいつもの半分も力を出すこととができなかった。無力の状態で障壁をたたくトキの手からは血が滲み出していた。そうして幾多の歳月が過ぎていくのだった。




