第三十四話 回復
双輝は肩をまわしながらぶつぶつと文句を言っていた。
「ったく・・・。俺の体も柔だな・・・・。相枦程度の攻撃であそこまで追い込まれるとは思ってもいなかったしな~・・・・。さすがに『四季神様の森』に入ったときは絶対に死んだと思った・・・」
「冗談はよしてよね・・・。あたしたちは本当にヒヤッとしたんだから・・・・」
「そうだぞぉ~!普段冷静なスイセツがかなりキレちゃって大変だったんだぜ?なぁ?スイセツ?」
「ふん・・・・。うるさい」
少し不貞腐れ気味のスイセツ。『四季神の森』とは、名の通り四季神が在する森のこと。そこに足を踏み入れることができるのは巫女と四季神の二つに一つらしい。(動物は別で)銀葉には巫女の力が備わっているから入ることが出来たという。そして、特に護人はそうなのだが、俗に言う、『神気』というものがって、それに中てられ瀕死に追い込まれてしまうらしい。つまり、神の領域に足を踏み入れた大ばか者、ということのようだ。しかし、当の本人の四季神、トキはそんな風には一切思っていないらしい。だから、己の放つ神気に中てられ命尽きそうになった双輝を見たら、苦しくなったといっていた。昔は玩愉とも仲が良かったようだが、一体何があったのかをトキは言わずに微笑んで森へ帰っていってしまった。
「ま、とにかくなんだ・・・。心配かけて済みませんでした」
双輝はみんなに頭を下げた。四季剣たちは静かに笑っていた。
「体のほうは平気なのか?」
ガスイが問う。
「あぁ。少しだるさが残ってはいるが、問題はないさ」
双輝が応える。確かに見た感じからしてもだるさが抜け切れていない感じがする。ただ、それとは別に疲労を感じさせる。
「玩愉が、気になるなぁ・・・」
双輝がぼそっと言った。それに反応してクレハが疑問のまなざしを送る。
「あの、玩愉だぞ?ただで俺を治してくれたのか・・・?怪しいだろう」
「・・・・」
みな黙る。確かにそうだと頷く四季剣たち。銀葉はそのことがよくわかっていなかった。元来、妖怪は人を憎んでいると推察する。ただ、今回の玩愉の反応を見ると別に嫌っているわけではないと理解することはできたにしても、仲間を散々切り殺してきた人間たちに何の感情も持っていないとは言い切れない。そんな人間を、玩愉はあえて救いにわざわざ村へ入ってきた。下手したら、狩られる可能性も・・・まぁ、玩愉にはないだろうけれど。とにかく。そういったわけで妖怪側が自ら人間の世界に踏み込んでくることなど、ありえない。
「別にお前のためじゃねぇよ」
「わぁ!?」
銀葉の声にみんなが驚く。いや、その前の声かもしれない。
「玩愉?!」
双輝の声に玩愉は目の前にあたふたしている銀葉を見るのをやめてそちらに眼を移す。
「ふん。まぁ、当然か。トキは森に?」
「あぁ、お前が帰ったすぐ後に帰られたらしい」
「ほう。あの引きこもりめ」
「・・・・」
遠くを見つめていった玩愉をみんな黙って見つめる。妖怪が、四季神を「引きこもり」呼ばわりとは。いや、そんなことを言える仲だということが、そもそもおかしい。呆気にとられている面々に気付き顔をこちらに向けた玩愉が楽しそうに笑った。
「何か?」
「いや、お前と四季神様、一体どういう・・・」
「俺から言うつもりはない。聞きたいのならトキから聞くんだな。そもそも、お前を助けてやったのだって別にお前のためじゃない。トキを引き摺り出すためさ」
玩愉は楽しそうに笑みを浮かべながら話を進めていく。
「・・・ん?いるのか・・・?」
「ほう、気付いたか。穉瑳がな。どうしてもというから連れて来たが、中には入ろうとしないんだよね」
玩愉が外へと通ずる扉に眼をやってつまらなさそうに言っていた。中に入れるように双輝が言ったが玩愉はそれを否定していた。そんなやり取りを見てそうっと銀葉は外に出た。すると確かに、以前双輝と妖怪の住むほうの森に行ったとき現れたかわいらしい女の子が座っていた。