第三十二話 瀕死
「トキ君!」
トキが双輝を抱えて森から出てきた。
「な?!」
全員が言葉を失った。
「どうして・・・巫女様じゃないのに、森に入って平然としてられるの・・・・?」
クレハの震えた声が耳に入った。銀葉は頭に疑問を浮かべたが、それどころではない。
「トキ君!双輝は・・・?!」
「・・・・。判らない。どうなるか・・・」
「え?」
双輝を見ると、異様なまでに汗をかき、苦しそうに息をしている。意識がすでにないような気がした。
「双輝・・・・?ちょっと・・・双輝?!」
「はっはっはっ!」
相枦の高らかに笑う声が耳入り、鋭い目つきを相枦に向けた銀葉。
「えらぶった口を利く割には弱いな?」
「何を・・」
「銀葉。落ちいて。双輝をお願い」
「と、トキ君・・・」
「オレがやる」
トキはそういって双輝を銀葉に預けると立ち上がって相枦の少し前まで歩いて行った。
「銀葉・・・あの人は何者・・・・?」
ヒコウが尋ねてきた。
「トキ君・・・。こっちに来て知り合った人で・・・凄くいい人だよ?」
「そう・・・」
トキは相枦を前に剣を構えるそぶりすら見せない。
「はぁ。とんでもないことをしてくれたね。まったく面倒だ」
相枦に向かってトキがそういった。相枦は凄まじい目つきで睨む。そして、剣を振り上げ、トキに向かって振り下ろした。
「トキ君!」
銀葉の心配など他所に、トキは相枦の剣を片手で軽く止めた。
「なっ!?」
言葉を詰まらせた相枦は剣がまったく動かないことに気づいてあわてる。
「この程度でオレに挑むのはよしたほうがいい。身の安全を確保したいのなら、今すぐ戦意を消せ」
さすがに鈍感な相枦もまずいと判断したらしく、戦意を喪失したらしい。トキが剣を離すとすぐに剣は、小さなビー玉のような形になった。
「情けない」
トキはそうはき捨てると、相枦を束縛し、とある家の中に入れると、結界を張った。
「しばらくあの中で反省していてもらうとしようか」
そして、村の人々を家に帰し、双輝を家につれて帰り、布団の上に横にした。
「それで・・・その護人さんは?」
この質問に、四季剣たちは一言も答えなかった。
「みんな・・・どうしたの・・・?」
「・・・・ヤバイんだよ・・・」
ガスイが言う。
「え?」
「今の双輝は死ぬか生きるかの瀬戸際だ・・・。下手すれば一瞬で死ぬ」
この言葉がどれほど銀葉に衝撃を与えたことだろう。双輝が死ぬ?そんな事は、嫌だ。前にもあったこの感覚。
「・・・・神様なんて・・・いないんだ・・・・」
祖母が死んでしまった後、本気でそう思っていた言葉。ここに来て神はいるかもしれないと思い始めていたのに。
「銀葉・・・・?何を言っているの?四季神様は、本当にいるよ・・・・?」
「じゃぁ、どうして助けてくれないの?どうして人は死んでしまうの?」
「それが運命だから」
スイセツの言葉。
「人の生死にまで四季神様は関与したりはしない。四季神様はあくまでこの世の均衡を保つために存在している。それに、たとえ人の命をつなぎとめる力を持っていたとしても、だったら、一体誰の命を救えばいいんだ?この世には何千何万、数え切れないほどの人間がさまざまな理由で命絶えているんだぞ?」
スイセツの言葉は最もだ。
「でも・・・!人の命を救えないで何が神よ!」
「銀葉!」
ヒコウの声が銀葉にかぶる。
「だってそうじゃない!神なんて崇められていながら・・・・!!」
「四季神様はしっかりとやっておられる!」
「でも!」
「銀葉の発言は最もだと思うぞ」
「トキ君・・・!」
「・・・貴様っ!」
トキの発言と銀葉の発言に対しての反応の違いがおかしい。銀葉に対しては少し宥めるような言い方だったのに。トキに対しては攻撃的な発言だ。
「だってそうだろう?まともに人を救うことすら出来ないのに、人々から崇められるなんて、四季神など、朽ちてしまえばいいのに」
「トキ君・・・?」
「お前、四季神様に対し・・・!!」
怒りを見せる四季剣。トキは平然としている。しかし、平然としているこの表情が一気に崩れ落ちたのは、思わぬ来客のせいだ。
「四季神を崇めている貴様らは所詮、その程度だろうな」
「玩愉!」
銀葉の声が思いのほか響いた。
「どうして・・・?」
「護人の気配が、妙に小さくなったから心配して見に来てやったのさ。そしたらこのざまか」
玩愉はゆっくりと、双輝に近づくと額に手を置いた。
「何をするんだ・・・・?」
「何。軽く妖力を入れるだけだ。そうすれば中和作用が引き起こって体内から『毒物』が抜けるだろう」
玩愉の一言一言が重たく冷たい。その様子を軽く恐怖に感じているのか、トキはかすかに震えながら見ている。
「トキ君・・・?大丈夫・・・?玩愉はいい妖怪だから、大丈夫だよ!?」
「あぁ・・・そう・・・」
トキは震えを止めない。