第三十話 捕虜
森を出て目に飛び込んできたのは、右腕、左腿を負傷した双輝だった。
「銀葉!無事でよかった・・・!」
傷で痛いだろうに、それを隠すように双輝は銀葉の所に来た。
「だ、大丈夫!?」
「あぁ、平気だよ」
「・・・双輝、さっきは叩いてごめんなさい・・・」
「気にしなくていい。大丈夫だから。俺の説明が悪かった。後でちゃんと説明するから、今は・・・・」
双輝は苦痛に顔を歪めた。
「双輝・・・?」
「相枦が森に爆弾を仕掛け、それを今、爆破させた。それだけじゃない・・・!森にいた妖怪・・・・。穉瑳を捉えている状態なんだ!」
「はい!?」
双輝の言った言葉を理解しきれない。そんなことが、起きたら・・・・あの、妖怪・・・・玩愉はどうなる・・・!?
双輝と妖怪のいる森のほうへ向かった。すると、泣き叫ぶ穉瑳の姿が目に飛び込んできた。
「いや!助けて!!離してよ!いやぁ!!!!」
穉瑳のその姿を見て胸が苦しくなった。相枦はそんな穉瑳を軽く叩いて黙らせた。
「妖怪の癖に泣き喚くなど、情けないな!」
「う・・う・・・助けて・・・」
双輝に声を掛けようとしたが、すでにそこに双輝はいなかった。双輝は相枦のほうにいて、穉瑳の開放を促していた。
「今すぐ、その妖怪を森に返せ!でなければ本当にまずいことが起きるんだ!返してやってくれ!」
「なにをそんな・・・・。護人として、情けないな?」
「俺たち護人は、あくまで『護る』仕事だ!率先して妖怪を斬ることじゃない!」
「そうだが、妖怪は村に害を与える。だから斬るんだろう?」
「違う!お前のしていることはそうじゃない!」
「貴様、誰に物を言っている?」
「ぐっ・・・。失礼・・・。貴方のしていることはただ、悪戯に妖怪を斬っているだけです!こんなことさえしなければ妖怪はこの村を襲わない!いつもそうだから!」
双輝の悲痛な声を聞いて銀葉は少したじろいだ。いままで双輝がこんな表情をしたことなど、なかったから。こんなに必死な双輝をはじめてみたから。
「だから!もう、これ以上は森に手出しをしないでくれ!その妖怪を開放して!」
「・・・何を焦っている?何か恐怖に感じることでも有るのか?」
相枦の一言は確実に双輝にとって図星だったようだった。双輝は言葉を濁らせた。
「どういうこと・・・?双輝はどうしてあそこまで焦っているの・・・?」
銀葉は先ほど来たガスイに質問をした。
「・・・・玩愉、だろうな・・・」
「・・・そっか・・・」
緊張しているガスイを見て、玩愉が何をしてくるかわからない恐怖に身を震わせる銀葉だった。玩愉は悪い奴じゃない。でも、己の護るもののためなら、誰だって、誰にだって牙をむく。だから・・・。怖い。
「はん!情けない!この森に住む妖怪が怖いのか!?護人が聞いて呆れる! 村の集!?貴様らの村を護っているこの護人はただの腰抜けだぞ? こんな奴にこれからもずっと任せておいていいのか?いつか大変なことになるぞ?今までが大丈夫だからって、コレからが大丈夫などという確信が妖怪相手に何処にある!?え?」
相枦の絶叫を聞いて、村のものたちは、困った表情を浮かべた。双輝の事は知っている。しかし、相枦の言うことも正答だ。どうしたものだろうか・・・。
双輝の表情はとにかく重い。おそらく、玩愉のことを考えてなんだろうが・・・。双輝がこの場に来てから穉瑳は叫ぶのをやめていた。とにかく、その穉瑳を早く開放しなければ、本当に大変なことになってしまう。ならば・・・。
「貴様!?何をしている!!」
双輝は相枦の目を盗んで、穉瑳の開放に急いだ。近くにいたヒコウを刀に成し、拘束しているものを剥ぎ取った。
「ぁ・・・ぁり・・・」
穉瑳が礼を言おうとした直後。双輝の腹部を銀の鋭いものが貫いた。その痛みは想像を絶するものだったろう。それを目の前に穉瑳は声をなくし硬直していた。
「くっ・・・・」
相枦は双輝に突き刺した四季剣を勢いよく引き抜き、それが原因で双輝は声を漏らした。双輝は腹部を押さえ、膝を折った。慌ててスイセツが駆け寄り、ヒコウも人型に成り、双輝の安否を確認していた。クレハはガスイの後ろにいた。ガスイは双輝が刺されたというのに、向かおうとしなかった。
「行かないの・・・?」
銀葉は聞いた。主の危機に駆けつけなくていいのかと。
「・・・・ヒコウと、スイセツがいる。なら、俺は銀葉を護るのに徹する」
その言葉を聞いて銀葉は力が入った。主が心配なはずなのに、自分が弱いせいで・・・。
「なら、一緒に行こう・・・!?そうしたら・・・」
「今の相枦は何をするかわからない。近くにはお前を連れてはいけない」
いつもより冷たい言葉。一瞬、スイセツが喋っているんじゃないかと錯覚したくらいだった。そして、銀葉は傍と思った。自分は、双輝を殴ったんだったと。
「貴様は馬鹿か?!妖怪を離してどうする?!」
「この妖怪を離さないと本当にこの村は壊滅する!断言する!」
相枦と双輝の口頭でのやり取り。穉瑳はそれを見てただ震えているだけだった。
「それはどういうことだ?え?」
「それは・・・」
言葉を切って双輝は硬直した。相枦は次の言葉を待っていたが、あまりに双輝が硬直しているので、声を掛けた。
「それは何だ?」
「・・・・まずい・・・・」
「は?」
双輝は勢いよく、後ろを振り向いた。相枦もそっちを見た。だが、何もいない。一体・・・。
「兄さま!」
穉瑳の声が鳴った。相枦はそれに少しだけ驚いていた。