第三話 出会い
「いったぁい!!」
銀葉は声を上げた。何かがクッションになってたいした怪我はしないですんだようだから、一安心だと、思っていた時、声がした。
「痛っ・・・」
「ん?」
ふと見ると、自分は、誰かの上にのっかている事に気が付いた。
「イテテ・・・」
倒れた拍子に打ったらしく、頭を抱えてその人物は体を起こした。体を起こした青年は、前髪がだらりと長く、顔が隠れてよく見えなかった。茶色の綺麗な髪だという事はわかった。銀葉は硬直したまま目の前の人物を観察した。
「いたた・・・。大丈夫か?」
青年は、ふっと、前髪を左の耳に掛けた。
「~~~!!」
だらりと長かった前髪を左のほうに掻き分けただけで随分と印象を変えた。
(カッコいいかも・・・)
ほんのりそんなことも思った。
「・・・・。 大丈・・・夫か?」
そんな彼の声ではっと我に返って慌てて青年から身を引いた。そこではじめて気づいた。この青年、変な服装をしていると。和服、と言えば全て説明が付く、そんな格好をしていた。
「怪我とか、してないか?」
青年の問いかけにやっと気が付いて、大丈夫だと、返事を返した。青年は安心した表情をして立ち上がった。
「所で・・・どこから落ちてきた・・・?」
青年の問いかけにやっと今の状況を考えた。自分は社にいたはずだと銀葉は思い返した。しかし、変な声が聞こえてきて気が付いたら空にいて。この青年に受け止められた。そんな摩訶不思議な事をこの青年が信じてくれるだろうか?
「いや・・・その・・・社にいて・・・」
「社?!」
急に青年が声を上げたので驚いて固まった。
「あ・・・・すみません。 貴女、巫女様?」
「え・・・?巫女・・・サマ!? いやいや、巫女はやっているけど、そんなサマなんて・・・」「巫女様?!本当に?!」
「え・・・あ・・・え・・・?」
混乱する銀葉。この青年が一体なぜそれでこんなにも取り乱しているのかが解らなかった。とにかく、ここは・・・。
「ち、違うかも! わ、私のは・・・巫女様じゃなくて・・・・なんだろう・・・?とにかくその・・・・違うもの」
「・・・? でも、社って・・・」
「えと、く、倉よ、倉!」
「倉・・・?そう」
青年は小さく息をついた。どこか銀葉を観察しているようにも思えた。
「あ、とにかく、助けてくれてありがとう」
「いや、別に」
銀葉は青年を観察し返した。それに少し戸惑っているようにも見えたが、気にせず続けた。
「・・・えと。名前はなんていうの?」
「ソーキ。双方に輝くで双輝」
「へぇ。カッコいい名前だね」
「そう・・・? ありがとう」
いまどき、こんなにも素直にありがとうと言う男がいるとは、と内心思ったが、その潔さがいいかとも、思っていた。
「貴女は?」
「・・・。シロハ」
少し不貞腐れて答えた。あまり好きじゃなかった。その名を教えると、みな笑った。銀に葉。それでシロハなど。嘲笑うような反応を今まで見てきた。
「字は?」
「銀の・・・・葉で、銀葉」
「銀の葉?」
双輝は確認のためかそう聞いてきた。銀葉は小さく頷いた。
「いい名前だね」
「え?」
「銀の葉か。さぞ、美しいだろうな。それに見合って、貴女も?」
「え・・・?」
顔が赤面するのを感じた銀葉は顔を落とした。双輝の言った意味をどう理解したらいいのだろう?
「あ・・・すみません・・・。変なこと・・・・言った?」
焦った様な双輝の言葉に慌てて顔を上げると、本当に心配した表情でうかがってくる。目を反らしながら大丈夫と答えると、しばらく間が空いた。
「・・・・。貴女は・・・本当にこの世界の人間?」
自分でも疑問に思っていた核心を突かれドキっとした銀葉だが双輝を見て、なんとなく、全て話してみようと思うことにした。
「私、東京から来たんだけど・・・ここは違うよね?こんな木々、いっぱいないし・・・」
「とうきょう・・・?知らない。違うと思う」
「知らない?」
「知らない」
あぁ、やっぱり自分はどこか異世界に来てしまったと、なんとなく確信したような気がした。
「・・・やっぱり貴女は、何か違うようだ。一度。巫女様に見てもらったほうがいいな。今ちょうど、俺の村に巫女様が来ているから、見てもらうといい」
「みこさま・・・・?」
「知らないのか?」
「たぶん」
「そうか。説明、する?」
「うん」
「巫女様は、神に通ずる力を持ち、この世で唯一神との会話を日夜許された女性たちの事
。だから・・・」
「あぁ~、私、神とかそういうの、信じないタイプで・・・・」
「え?」
双輝が驚いた表情をしたことに、驚いた。
「神を、信じない? え?何を・・・・?!」
「何って、信じないものは信じないのよ!」
「神は、信じる、信じないの物ではない。存在しているのだから」
「はぁ!?」
「俺も、一度だけ、会った事がある」
「・・・・・え?!」
双輝の発言は銀葉を混乱へと導いた。動揺している銀葉を見かねてか、とりあえず、村まで来たほうがいいと、双輝が声を掛け、それに従うことにした。