第二十七話 捜索
アレからどれほどの時間が経ったか判らない。巫女様を探しに出て行った双輝が戻ってこない。不安を隠しきれな銀葉。ヒコウとクレハは村人と話をしている。だから今、家の中にいるのはスイセツと銀葉だけ。スイセツは基本、喋らない。だから何を思っているのかはまったく判らない。それでも、一言、大丈夫だよと言ってくれたらどれほど気が楽になることやら。
「・・・・」
軽くスイセツを見ると、少し銀葉は驚いた。目を閉じ、じっとしてはいるが、かすかにスイセツの瞼は震えている。
―双輝の四季剣で双輝を最も敬っているのはスイセツだ!
ガスイの言った言葉が頭の中に響いた。そうなんだ。スイセツが今この状況で一番辛いんだろうと、思い、今までの自分の考えを恥じた。
「・・・・平気か?」
ぎょっとした。スイセツが自ら話かけて来た。
「う、うん・・・」
「双輝は・・・たぶん、大丈夫だと思う」
銀葉は心が大きく揺らいだ。スイセツがそう言ってくれて、本当に心が落ち着いたが、スイセツは・・・・。
「うん。そうだね。双輝だもんね」
しっかりと確かな返事をしたつもりだったが、スイセツの瞼は震えたままだった。
日が沈んでずいぶん経った頃、クレハの大きな声が村中に響いた。
「巫女様連れて双輝が帰ってきた!」
村中の人間がそのほうへどっと集まった。巫女を抱えた双輝が息を切らして歩いてきた。その後ろを凄く暗い表情をしたガスイがついている。
「双輝!大丈夫か!?」
村人が声を掛けたが、双輝は細く微笑むだけだった。巫女は、くたっとし、目を閉じていた。
「・・・巫女様は・・・?」
「今は、寝ていらっしゃるだけだ・・・」
ガスイが、説明した。それを聞いて、安心した村人は双輝に一人の人間を紹介した。
「も、護人の・・・汰由と申します・・・」
「・・・護人?」
ガスイが疑問を発した。どうやら、この護人は、銀葉が、家の中にいる時にやってきたものらしい。巫女を迎えに来た青年だった。低姿勢。
「ちっ」
近くで凄く小さな舌打ちが聞こえた。隣を見ると、噛み付きそうな目をしているスイセツがいた。
「スイセツ・・・?どうしたの?」
「・・・・」
銀葉が質問をすると、スイセツは急に黙り込んだ。ヒコウが、銀葉の声を聞いて反応した。
「どうした?」
「スイセツが・・・」
「なんでもない」
「え・・・」
スイセツの違和感を覚えながら、巫女が寝間へと運ばれた。そして、もう夜も遅いということで、先ほどの護人、汰由が巫女を護衛することになった。
家に入った双輝は、一言も発せず、死ぬように眠ってしまった。スイセツのとがめるような視線を受け、ガスイが口を開いた。
「小さな家があったんだ。その中に巫女様がいて・・・・。双輝がその中に入った瞬間・・・」
ガスイの苦痛な表情に銀葉のほうがつぶれそうになっていた。
巫女を発見した双輝は、家の中に飛び込んだ。とたんに、砕けるように膝を折った。
「双輝!?」
人型に成ってガスイは双輝の安否を確かめた。症状は危険だが、命にまでは決してかかわりない状態だったから、ガスイは一安心した。奥にいた巫女もそろりそろりとこちらに歩み寄ってきた。
「巫女様・・・。俺は、この護人の・・」
「春ね。わかるわ・・・」
ガスイは少しだけ頭を下げた。
「申し、わけ、ありません・・・・」
苦痛の中双輝が声を発した。巫女は首を振っていた。そして、そっと、双輝に触れた。
「ここにある結界を破ることがあなたにできますか?」
「はい・・・」
双輝は立ち上がると、荒れた息をそのままにし、結界を破った。そして、巫女を連れて外に出た。途中で、巫女の体力が切れて地面に座り込んでしまった。
「巫女様・・・大丈夫でしょうか・・・?」
「ごめんなさい・・・。貴方がたと違って・・・体力なくて・・・」
「いえ。 巫女様。触れてもよろしいでしょうか?」
「えぇ」
双輝は巫女の許可をもらって巫女を抱えた。そしてガスイを人型にし、走り出した。
スイセツはいまだに腑に落ちないという表情で固まっていた。
「巫女様、ご無事でよかった・・・。でも、双輝は・・・?」
クレハの心配そうな顔がガスイに向けれられた。
「問題ないと思う。ぐったりはしているが、寝ればすぐに回復するだろうな・・・。ただ、気がかりなのは・・・・。あの結界は確実に護人のものだったんだ・・・・」
「なるほど。それでそんなにもお前は沈んでいるわけか」
スイセツが納得の言った声を上げた。それに対してガスイは小さく頷いた。




