第二十五話 練習
家に帰ると、妙にニヤついたお三方。スイセツは相変わらず、無表情だけど。
「な、なによ、みんな!」
「どうだった? 服屋」
「え・・・?」
ガスイがニヤニヤした顔で聞く。呆然とする銀葉にさらにヒコウが詰め寄る。
「だからどうだったよ、アソコ!」
訳がわからないでいると、クレハが確信の一言を発した。
「双輝に言っても判らないことだけどー? どうだった?あそこの娘っこ!」
イラッとくるのを感じた銀葉に納得したらしく、みんな笑っていた。
双輝が、外に来るようにと言ったのでそれについていくと、家の裏側に案内された。
「銀葉は舞いをしたことはあるか?」
唐突にそういわれ、首を横に振る。
「そうか・・・」
「舞ったことはないけど踊った事はある・・・」
「・・・? 踊り?」
「うん。私の世界では・・・その・・・私、踊る役立ったから・・・」
「踊り・・・・ 今出来る?」
「え・・・あ・・・うん」
とりあえず、春を踊ることにした。踊っている間に気づいたこと。
―これって『舞い』じゃん・・・
踊り終わって双輝を見ると少し驚いた顔をしていた。
「銀葉? それは何処で?」
「え・・・?家で・・・」
「・・・・そう。 今銀葉がやったやつって言うのは、こっちじゃ巫女様が四季神様に対して舞う、『春風』という舞だよ?」
「え・・・・?」
双輝の言葉に少し驚いて固まっていると、ガスイがケラケラ笑いながら来た。
「やっぱり銀葉は特殊な奴ってことか?巫女様の舞ができるんだからさ」
「そうだな。センスがあるし、組舞もすぐできるようになると思うんだよね」
急な話の展開についていけていない自分が悲しいと、思う銀葉だった。
日が傾き、橙の空に染まったころ、仕立て屋の綾が服を持ってきた。
「出来上がりました」
戸を叩いて、そう言っていた。ヒコウが顔を出すと、少しだけ驚いた顔をして、にこやかに笑った。
「ヒコウ。これ、双輝に頼まれていた奴なんだけど・・・・?」
「あぁ、ありがとう。渡しておくよ」
「・・・双輝は・・・?」
「裏で舞の特訓!」
横割してきたクレハが嬉しそうに言った。それを聞いた綾は不機嫌そうな表情に変わった。
「そう」
それだけ言うと、背を向けて歩き始めた。
「こりゃぁ、乱闘がおきそうだねぇ~」
「乱闘!?やるの!?」
ヒコウの言葉に嬉しそうにクレハが反応した。
「お前の考えている乱闘じゃないだろう・・・」
ガスイが裏から戻ってきて突っ込みを入れた。違うと知り、口を尖らせるクレハ。
「女同士の不気味で陰険なネチネチ、ネチネチ・・・」
「お前、シバクよ?」
「ごめんごめん。でも事実だろう?銀葉と綾と」
一瞬、空気が凍った。
「銀葉の圧勝だな」
「だな」
そう解釈して、みんな飽きたように話をやめた。その話を聞いていたスイセツだけ、ため息を吐いていた。
息を切らしている銀葉に安否を尋ねている双輝のところにスイセツがきた。
「どうした?めずらしなぁ?」
「仕立て屋がきた。服ができたと、渡しに」
「そうか。報告ありがとう」
「・・・別に」
「はぁ、はぁ・・・。私・・・できるかな・・・?」
「大丈夫だよ。なかなかいい感じだよ。もう少し練習すれば基礎はできるようになるさ」
「素人だと知っているんだから無茶する必要はないだろう・・・」
「あ・・・はい。ありがとうございます。 ぇ?」
銀葉は声が少しだけ漏れた。相変わらず、双輝とスイセツは何かを話しているようだけど、今の銀葉にはそれが聞き取れないくらい驚いていた。最初に、双輝が銀葉を慰めるように言ったことは理解ができたが、その後にももうひとつ、慰めの言葉が入った。この場にいるのは、銀葉と双輝と、そしてスイセツ。この言葉を発したのはスイセツだ。スイセツも、こんな様なことを言ってくれるのかと、結構驚いたものだった。
「それじゃ」
「あぁ、ありがとう」
「双輝!大変だ!」
スイセツが家に入ろうと、一歩踏み出した所で村の人が飛び込んできた。その慌てぶりは異常なまでだった。
「み、巫女様がいなくなってしまった!!」
「?!」
双輝とスイセツはその言葉を聴いて硬直した。銀葉はぽかんとしていた。
「スイセツ!」
双輝の掛け声と共に、スイセツは急いで家の中に飛び込んでガスイをつれてきた。そして、状況がわからないまでも、察したガスイが刀に成って双輝の手の中に納まった。そして、スイセツは、銀葉の腕を掴んで、家の中に引きずり込んだ。




