第二十四話 仕立て
巫女を歓迎する儀式のようなものは明日行われるということで、一時解散になった。そして、双輝の家でくつろいでいると、誰かが訪問してきた。
「はい?」
「おぉ、双輝。舞人決まったぞ!」
「そうですか」
「誰だれだれ?!」
村人が舞を披露する人物が誰だか決まったらしく、報告に来たことを知ったクレハが双輝を突き飛ばす勢いで入り口までかっ飛んで行った。
「今回は組舞だ。そんな訳で頑張って舞えな」
「・・・・はい。えと、つまり一人は俺?」
「そうだな」
「で?」
「ま、頑張れ。一日も残っていないけど何とか成るだろう?」
「へ・・・?」
「・・・・ま、双輝。お前ならしごけるだろう!頑張れ!」
「ちょっと待っ・・・」
双輝の言葉は途中で切れた。その理由も、村人が扉を閉めて行ってしまったからだ。
「・・・双輝?どーゆこと?」
クレハの質問にも沈黙して何も言わない双輝に、少し心配したガスイとヒコウも立ち上がり、双輝の元へ行った。
「双輝?」
「悟ってやれ」
スイセツの鋭い一言が空気を切った。どういうことだ?といった表情をする銀葉を含めた4人にため息を吐いて一言発した。
「舞人のもう一人はそれだろう」
そういってスイセツが顔をクイっと、向けたのは銀葉だった。
「・・・え? 私? 何言っているの~!舞いなんて知らないし~!」
「だから村人が『お前ならしごけるだろう』といったのだろう?」
「え・・・・・双輝?」
「その通りだな・・・。銀葉。今から服屋行くぞ」
「な?! え?!どうして?!」
「舞いようの衣服が無いだろう?」
「はい・・・」
「調達しに行くんだよ」
「あ・・・そうですか・・・」
双輝に誘われるまま衣服を売買しているという店まで連れてこられた。中に入ると人のよさそうなおじさんが出迎えてくれた。
「よう、双輝。そちらのお嬢様の服かい?」
「あぁ。儀式用の服を」
「あれま。今から用意するのかい?服の仕立ては間に合うが・・・。 その。あっちの方は間に合うのかい?」
「いや・・・怪しいところだが・・・・指名された以上は・・・」
「まじめだねぇ。まってな。今寸法を測るから。 綾~!」
「はい・・・? って、そう・・・?!」
おじさんにアヤと呼ばれて出てきたのは可愛げのあるお淑やかな女の子だった。双輝がいたことに驚いたようだった。どうやら・・・。
―あ・・・双輝に惚れているな、こりゃぁ・・・・
そんなことを思う銀葉だった。
「やぁ。今日はこの子の儀式用の服の仕立てを頼みたいんだが、いいかな?」
「は、はい・・・構いません・・・」
「明日の儀式までに完成・・・間に合うかな?」
「大丈夫です!」
「そうか。じゃぁ、よろしく頼むよ」
「はい!」
双輝に合図されて銀葉は綾の後を追った。
仕立てをするための部屋のような場所に案内されると、綾はいきなり銀葉の両腕を鷲掴みにすると横に広げた。
「え?」
「寸法、計るの。手を下ろしたままじゃ計れないでしょう? そんなのも判らないの?」
「は・・・はい?!」
この態度の差は何だ!?と、思いつつも、作ってもらうのはこっちのみだから落ち着いて言うとおりに動くことを判断した。
性格に問題は有りそうだが、腕には問題なさそうだった。慣れた手つきであちこちからイロイロな布を引っ張りだし、銀葉にあて服のイメージを作っているようだった。
「もういい。出なさい」
「は、はい・・・」
綾にそういわれて扉を開けた。
「早かったね。 終わったの?」
双輝がおじさんとの話を中断してこちらに話しかけた。
「はい。終わりました! 急ぎのようだったから・・・」
「そんなに慌てなくても良かったのに。ともかくありがとう。 いつくらいまでに出来そう?」
「今日中には出来ると思います」
「ありがとう。 悪いけど、届けに来てもらってもいいか?」
「全然! 構いません! 届けにうかがいます!」
「そう。 それは良かった。 じゃぁ、銀葉。行くよ」
「あ、うん」
「舞い、覚えてもらわないと」
「あ・・・はい」
どんな舞いかわからない以上、どう応えていいものかわからない。それより気になるのは、あの綾という女の子の視線・・・・。なんだか痛い・・・。
双輝と銀葉が出て行った後、服屋のおじさんはため息を吐きながら綾に話しかけていた。
「そんなに不貞腐れるな。せっかくの顔が台無しだぞ?」
「うるさい・・・。本当だったら私と双輝で舞う予定だったのよ・・・? それを、あの女・・・。ひょっこり現われたと思ったら双輝をとっていった」
「とっていったなんて・・・人聞きの悪い・・・」
「だって、知らないの? あの女、双輝の家に上がりこんでいるのよ!?」
「そりゃぁ、知っているが・・・」
「憎いわ・・・・」
「ったく・・・」