第二十二話 対森
森の中は凛としていてどこか涼やかだった。とある木の根元に腰を下ろした銀葉はふと、空を見た。
「こっちの世界の空ってキレイ・・・」
空気が澄み切って汚染されていない空はクリアに見えた。ぼうっと、それを眺めていたとき、それをさえぎる影が突然現れた。
「何しているのっ?」
いきなり現れた一人の青年に驚いて目を丸くした。
「おっと!ごめん!驚かせるつもりじゃなかったんだ」
「あっ!いいの!気にしないでっ!」
銀葉は立ち上がって自己紹介と、何をしていたかという質問に答えた。そして、銀葉は今現れた青年に名を尋ねた。すると、青年は少しだけ間を空けてから、にこやかに笑って応えてきた。
「トキ、そう呼んで」
「・・・?」
その間が気になったが、どこと無く、このトキという青年は悪しき感じがしなかったため、気にしないことにした。
トキは銀葉を見て不思議な笑みを浮かべた。気になって問いかけると、トキは双輝のことを語った。
「キミ、護人と一緒に生活しているよね?」
「え?!何で知っているの!?」
その反応を見て、トキはにやりと笑ったが、それを確認するほど、銀葉には余裕が無かった。
「妖怪が話しているのを聞いた」
「え?!妖怪と仲良しなの?!」
双輝と同じ思考を持っている人間が他にもいたことが少し嬉しくて尋ねた。しかし、トキはそれを否定した。
「まさか、そんなわけ無いだろう!有り得ない、有り得ない。チラッと、妖怪同士で話をしているのを聞いただけさ」
「そう・・・・」
「そんなに落ち込むなよぉ~」
トキのキャラが面白いキャラであることは判断できた。それと同時に、何か、何かが違う。そんな気がしていた。
「でさ。その護人だけどさ」
銀葉は少しドキッとした。護人の情報をあまり外に流してはいけないから。それを機に、弱点を見出されては困ることがいくつかある。そんなことをガスイかなんかが言っていた様な気がする。
「その護人と・・・」
なんとしても誤魔化さないといけない。緩そうな相手だからって油断してはいけなかったんだ。
「今、どの位まで進んでるの?」
「んな?!」
唐突の質問に虚を突かれ、妙な声を上げてしまった。
「何も進んでませんよ?!」
「え~?何も?」
「有りません!何を聞くのよ、突然!」
慌てた銀葉は無意識に、トキの顎に見事なアッパーを食らわせて見せた。
「う゛・・・・」
トキの声が漏れて、はっと我に返ると銀葉は必死でトキに謝った。
「謝るくらいならやらなきゃいいのに」
「いや・・・その・・・条件反射といいましょうか・・・。つい、やってしまうんです・・・」
「ふーん・・・。まぁ、何か?一つ屋根の下に居るって言うのに、本当に何も無いわけ」
「無いです!」
「もったいないなぁ」
銀葉はトキのその一言にはっとした。
「そう・・・だね。双輝みたいな人は人気あるんだろうな・・・。それなのに私なんかが居候して・・・」
「違う、違う。そっちじゃないよ」
「え?」
トキが否定した。
「護人じゃなくて銀葉が」
「え?私!?」
てっきり、双輝のことを言っていると思って気分が下降したのに、そういわれると反応し辛かった。
「だって、こんなに可愛いのに、もったいないじゃん」
「そ、そんな事有りません!」
照れ隠しなのか、銀葉はもう一発、今度はほほに食らわせた。
「つおいね・・・」
「ごめんなさい・・・」
「キミさ、可愛いんだから告っちゃいなよ。絶対にOK出るって!」
「何を言っているの!無理だから! それに、女性の言うことはほぼ絶対だから・・・。そんなことをしたら双輝は・・・」
「う~ん。オレさ、思うんだけど。実際にこの世を支配しているのは『男』のほうだと思うんだよね」
トキは突然言い始めた。見た感じはどうにもぐれている様にも見えるが。しかし、その内容は銀葉にとってとても共感できるものだった。
「確かに?巫女様は凄い存在だ。でも、よく考えてみろよ?それを護っているのは誰だ?村の住民を助けているのは誰だ?妖怪を追い出すのは誰だ? 他でもない、護人だろ。護人が全ての仕事を放棄して、自分のしたいことだけを考えたとき、か弱い女性というのは、言い方悪いが、地に落ちる。自分の身を護るすべを持たないからね。・・・って、女性に向かっていう話じゃなかったな。ごめん」
「ううん!私はその考えに凄く共感する!」
「そうか。そういってくれる気がした」
銀葉はにこやかに笑った。トキも笑った。しかし、この時銀葉はトキの言葉で大事な言葉の意味を理解していなかった。
いくら、優しそうで、いくら、緩そうだからといって、簡単に心を許してはいけない。それはここに来る前からそうだった。神という存在を信じていない銀葉にとって自分の行く先すら、自分の力で何とかしていかないといけないと思っていたから。だから、どうにもこのトキという人物に完全に心を解かせない。でも、そう考えると、不思議な話だ。双輝に対してはなぜだか簡単に心が解けた気がした。なぜだろうか。
そんなことを考えながら銀葉はトキとの話に盛り上がっていた。そんな時・・・・。
ぐぅぅぅ~~~~
・・・・。腹の虫。
「トキ君・・・?」
「エヘヘヘヘ」
「おなか、すいているの・・・?」
「腹減った。 川行こう!魚取れるよ!」
そう言ってトキは銀葉を引っ張った。成るがままに引っ張られていくと、川に出た。太陽光を煌びやか反射させて輝く。
「キレイー!」
「太陽が照らしてるな」
楽しそうにトキが言う。そして、トキは腕まくりをした。
「捕るぞー!!」
意気込んでいるトキを見て、原始的!と思う銀葉だった。
「おらー!!!」
ドボーン!
「え゛・・・?!」
腕まくりの意味無!と思う、見事なダイブ。
「濡れちゃった」
全身ずぶ濡れに成ったトキを見て、何かがふつ切れた。噴出して笑うと、その笑いが止まらない。
「トキ君、ずぶ濡れじゃん!」
「アハハハハ!!!」
トキと二人で爆笑していた。すると、横のほうで、魚の跳ねる音がした。
「はねた!」
銀葉が声を上げると、トキもそれに反応した。
「お?」
トキがそっちを、向いた直後・・・・。
「グワヂャー!!」
「え゛っ!?」
トキは見事に川に向かってダイブして見せた。ドボーンと、水しぶきがあがり、それに乗じて二匹の魚が上陸した。ぴちぴちと跳ねる魚。呆然と突っ立つ銀葉。そして、川から上がって来たときの一言。
「食は命がけなんよぉ~~~。グヘヘヘ」
「トキクン、スゴシ」
固まる銀葉だった。
パチパチと火の音。魚を焼いている間、ずっとトキは目を輝かせながら魚を見つめていた。
「トキ君、子供みたいね・・・」
半分呆れと、半分面白く、銀葉はトキにそう言った。するとトキは焼けた魚を手にとって嬉しそうな表情をしたまま言った。
「こーでもしないと、持たないんよ」
「持たない・・・?それってどういう・・」
「食いな。サイコーにうまいぞ」
トキは棒を一本、咥えて銀葉にそう言った。その棒って、魚が刺さっていた奴。
「くうの早っ!?」
「はい」
「ありがとう・・・」
銀葉のした質問を閉ざすようにトキは銀葉に魚を渡してきた。聞かれたくなかったのか、魚を目の前に我を忘れて余計なことを口走ったのか。定かではないが。考えながら魚を口に運ぶと、その魚の美味しさに少し驚いた。
ずいぶんと、日が暮れた。
「それじゃ、オレは帰るよ」
「うん。今日は楽しかった」
「また、会えたらね」
にこやかに笑ったトキに少しだけドキッとした。銀葉も同じように、にこやかにトキに返した。