第二十一話 信用
「玩愉」
後ろで妖怪の声がした。双輝と銀葉は振り向いた。銀葉は少しだけ驚いた。脅威的なまでに威嚇をし、脅してきた妖怪だが、双輝からは目線をはずし、横に流しながらわずかに照れている様子だった。
「俺の名だ」
妖怪、玩愉はそう応えた。双輝は嬉しそうな表情を浮かべていた。銀葉もそれに伴い嬉しくなった。玩愉が、妖怪が名を教えると言うことはその相手に対し、少なからずの尊敬や、信頼というものが含まれるらしい。だから、双輝は嬉しかったのだ。玩愉からの名をもらった。クスリと笑って双輝は踵を返した。
「俺は双輝。護人だよ」
もう一度、双輝は自己紹介をした。
「穉瑳は、俺の妹だ」
玩愉の声を聞いて、双輝は首だけ巡らせた。銀葉は体ごと玩愉と穉瑳に向けていた。
「そうか。それでお前は・・・。妹思いのいい兄だな?」
「ふん」
玩愉はまた照れているように見えたがどこか嬉しそうだった。双輝も嬉しそうな表情をして、その場を去った。銀葉もその後に続いたが、なんとも嬉しそうな双輝の表情を見て、こっちまで嬉しくなってきていた。
「ねぇ。妖怪と仲良くできた事がそんなに嬉しい?」
「まぁね。昔から妖怪は悪しき者じゃないと判断してきたからその念願が叶ったから、やっぱり嬉しいな」
「そっか」
「村人にはなんていうんだ?」
人型へと戻ったガスイが双輝に尋ねた。双輝は少しだけ悩んで、直に話すと判断を下した。
村に帰り、四季剣のみんなにそのことを話すと、ヒコウはなぜだか爆笑していたし、クレハは楽しそうに双輝をいじっていた。スイセツだけはいつも何もしない。双輝のことが嫌いなんだろうか?
「スイセツって、無口だよね・・・?どうして?」
「・・・・」
スイセツに向けて質問したつもりだったが、見事に無視された。その代わりと言ってなんだけど、とい言った風でクレハが割って入った。
「スイセツはそういう性格なんだよ!だから仕方ないのよ!」
「双輝に対してなんだか冷たいような気がして・・・。信用してないのかとか思った」
「それはない!」
四季剣の、スイセツ以外が口をそろえて否定した。
「俺たち、双輝の四季剣で双輝を最も敬っているのはスイセツだ!」
「双輝の命令に対して、反抗したところを一度も見たことないし!」
「ふざけて双輝を叩くなんてことも絶対にありえないんだよ!」
「そ、そう・・・・」
いきなり、凄い勢いで迫られ驚いたが、スイセツの心ウチが少しだけ知れてよかったと思う銀葉だった。
次の日の朝は、騒音で目が覚めた。驚いて飛び起きると、外でどうやら、巫女を向かえる準備をしているようだった。
「ご、ごめんなさい!起こしてくれればよかったのに!」
「いや、大丈夫だよ、っと。銀葉はそういうのが嫌なんだっけ」
「うん・・・・」
ふと、銀葉は後ろを向いた。そこには自分がここに来たときとはまた別の森が存在していた。
「ねぇ、あそこの森は、何?」
「ん? あぁ、あそこは、妖怪が一人もいない特殊な場所だよ。行きたければ行って来て平気だよ」
「・・・本当? じゃぁ、行きたい。双輝は?」
「俺はここの手伝いをしないといけないから。あそこはまず、絶対と言っていいほど安全な場所だから大丈夫だとは思うんだけどね」
「わかった。じゃぁ、ちょっと見てくるね」
そういって、銀葉は森に向かって走り出した。そんな背中を見ながらスイセツが双輝に話し掛けた。
「いいのか?いくらなんでも・・・」
「銀葉は平気さ。巫女様の力がある。玩愉もそう言っていたしな」
「ほう・・・」
双輝は村の手伝いに走り始めた。