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四季神  作者: ノノギ
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第二十話 理由

「ダメッ!」

森の中に女の子の声が響いた。その声で妖怪は動きを急停止した。双輝と妖怪の間はもう1メールは切っていたが、その間に割って入るように女の子が双輝に背を向けて両手を広げて立っていた。

「・・・・なぜきた」

妖怪の低い声が鳴る。しかし、女の子は、口をぐっと結んで首を横に振っている。喋ることができないのだろうか?そんなことは無い。さっき、声を発したのはこの少女のはずだから。銀葉はこの少女が無事で済むのか心配だった。邪魔だと判断した妖怪は簡単に切り捨てそうな奴を目の前にしているのだから。

 双輝はガスイを構えたまま硬直していた。何かを言おうとしてやめている。その様子を悟ったのか、少女が振り向いて、にっこりと笑った。

「お前・・・は・・・?」

双輝がやっと言葉を発した。力こそ全てである妖怪の世界。それなのにもかかわらず、このか弱い妖怪が最も強い妖怪である奴に歯向かい、無事でいることが信じられない。

「どけ。そいつは俺の客だ」

「だめよ、この人は。 この人は殺しちゃいけない!そういう人間だって、わかっているでしょう?」

か細い声が妖怪に向けられる。妖怪は、ひとつ、ため息をつくと後ろの小屋まで下がってそこに座り込んだ。

「今回はやらずに終えるか。 護人。正直なことを言えば、俺はお前に興味がある。殺すのは惜しいとは思っているが、あまりふざけたことを言っていると本当にやるからな」

「・・・・ そこの娘は・・・?」

「穉瑳といいます」

少女はぺこりと頭を下げた。

「お前ほどの強い妖怪が、なぜこんなにもか弱い妖怪の・・」

「妖怪?!」

銀葉の声に全員が驚いた。

「お前、分け目がつかないのか?!」

妖怪の呆れと驚きの混ざった声が銀葉の耳に届いた。恥ずかしくなりながら、何で恥ずかしくならなければいけないのか思案したとき、銀葉の中でぷつりと何かが切れた。

「なんか、私がだめみたいな扱いになっていますけどね!? 言っときますけど私は普通の人間なんです!妖怪の気配とかを感知できるような能力は持ってませんけど!? それが何か!?」

「銀葉、落ち着きな・・・・。アイツは銀葉の中に護人と巫女の力を感じ取ったんだよ。だから感知できないわけがないと思っただけだから・・・。銀葉がこっちの世界の人間じゃないことも知らないんだ」

「・・・・あ・・・・そ、そうですね・・・・」

双輝の宥めによって落ち着きを取り戻した銀葉は妖怪二人に謝罪した。どちらかというと、少女ではない妖怪に向けたほうが大きいが。

「こっちの世界の人間じゃない・・・?」

妖怪が言った。双輝は小さく頷いていた。

「少し訳有ってね。銀葉はこの世界の住人じゃない。服装だって全く異なっているだろう?」

妖怪は銀葉の服装と雰囲気をもう一度、確認していた。そして、にやりと笑ってそうかい、とだけ応えて黙り込んだ。

「妖怪は、なぜ人を襲うんだ?」

双輝は唐突に聞いた。妖怪は目を煌かせた。決して輝かしいものではなかったが。

「質問は、2つまでと言った筈だが?」

「コレは妖怪全般の話だ。個人的なことは聞いていない。それくらい応えてくれもいいだろう?」

「・・・・まぁ、いい。応えてやるか。 うざったいんだよ!」

突如感じたものすごい殺気。銀葉ですら感じたのだから、双輝は・・・。

「双輝!? 大丈夫・・・!?」

苦しそうに息をしながら膝を地面についている。

「恨みだよ、何万年のね」

「やめて・・・! あの護人は何も悪くないわ!」

穉瑳が悲痛な声で妖怪に懇願していた。それがあってか、銀葉はふっと体が軽くなるのを感じた。双輝は呼吸を整えて静かに立ち上がった。

「ありがとう。もう大丈夫」

心配そうな顔をしている銀葉にそう笑いかけた。そして、妖怪へと目を向けた。

「恨み、とは?」

「昔から妖怪が好き勝手に暴れていたと思っている人間が憎らしい。好き勝手に暴れて破壊し続けてきたのは一体どっちだ? と、人間どもに問いただしたいところさ」

「・・・?」

「知っているか?妖怪と人間は遥か昔、共に存在したんだよ」

「?!」

「所がだ。人間の都合が悪くなってきたと感じたのか、何のか知らんがな?俺たち妖怪を地の果てに追いやり、そこに封印したのさ」

「なんてことを・・・!?」

「そして、永い、永い時をその封印された空間の中で過ごした。食物も何も無くなり、最終的には共食いが始まりやがった! その時の憎悪や恨み、憎しみは一時たりとも忘れたことが無い」

言葉に凄い力がこめられている。押し退けられそうなほど強大な力。恨みが。双輝は悲痛な表情で顔をゆがめていた。

「誰が、そんなむごい・・・」

「はん!笑わせるな!? 貴様らの崇める四季神とは!」

「?! まさか・・・・!?」

「そうさ。貴様らの崇め称える四季神と言う存在は俺たちを地の果てに追いやり憎しみの中に放り込んだ。俺はその封印を破る方法を必死になって探した。やっと見つけ、封印を破ろうとした時にはもう、その地にいる妖怪は半分以下にまで減った。そして、そこに居た全ての者が正気など持ち合わせてはいなかった。俺とて、正気は殆ど失っていただろうな?」

「もう、やめて。そんな辛そうな表情、私は見ていられない!」

穉瑳が泣きそうな声で妖怪に求めていた。

「・・・。 恨むはその四季神。憎むはそれを崇める人間共。わかったか?」

「・・・・・・・わかった。そんなことが過去にあったのは知らなかった・・・。申し訳ないと思う」

「そう思って何になる? 俺たちの恨みが消せるのか?」

「それはできるとは思えない」

「ちっ」

双輝の応えに舌打ちをした妖怪。銀葉はこの時、何かを感じた。消せるのか?という質問に対し、双輝はそれを否定した。そして、舌打ち。この妖怪は、双輝に何かを求めているんじゃないかと。そんな気がした。

「でも、俺はお前たちを裏切らない!だから・・・」

「だからなんだ? 従順に従う駒に成れってか?」

妖怪はあざ笑うかのように声を高くして言った。

「違う!」

双輝はそれを勢いよく否定した。

「俺はお前を僕としていてほしいんじゃない!仲間として俺らの傍にいてほしいだけなんだよ!」

「・・・っ?!」

妖怪はものすごい表情を崩した。相変わらずの細い目で。

「俺はお前を信じたい。今まで何度も村を襲う機会はあったはずだ。それにもかかわらずお前は一度たりとも奇襲の様子を見せなかった。だから、お前を信用しているんだ」

双輝の言葉に妖怪は睨むような目で見ていたが、遂にそれをやめて目線を反らした。双輝はそれを見て、これ以上は無駄だと判断したらしく、ため息をついて踵を返した。

「行くよ、銀葉」

「え? あ、うん・・・」

妖怪に背を向けて歩き出した。銀葉は少し戸惑いながらも双輝の後を追った。またの機会に、ということなんだろうか。ともかく双輝は今回は引くべきだと判断したようだった。


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