第二話 移動
今回も無事に舞は終わり、さっさと着替えを済ませた。クラスメートの中には巫女服を着られて羨ましいとか言う人物がいるが、銀葉にとっては忌々しいだけだった。信じぬ神に何を捧げればいい?なぜこんなことをしなければならない。銀葉はため息をつきながら社の中に入っていった。その中にある葛篭に巫女服をしまうためだ。
巫女服をしまうと、さっさと社から出ようと、扉に手をかけようとした、その時だった。
《それで神を祀る?》
「え?!」
唐突に聞こえた声に驚いて振り向いた。しかし、そこには誰の姿も見当たらない。あたりを軽く探ってみても、人などどこにもいない。
《何れか、時が来たればお前を元の世界に戻そう》
声がそう言った。その意味を理解できぬまま、銀葉は目の前に巨大な手のようなものが出現したことに驚いていた。その手につかまり得体の知れぬ穴へと吸い込まれた。その手のようなものは体に纏わり付いて離れようとしない。あたりは真っ暗だった。真っ暗な中をものすごい勢いで運ばれてゆく。そして、ふっと光が差した。美しく冴え渡る青い空。それに見とれている間に、体を拘束していたものが離れた。
「離れた・・・?」
そう思ったのもつかの間だった。ふと気づけば、自分は地面にいない。空に浮いている。落ちる。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
銀葉はまっさかさまに転落していった。
仕事の関係で深い森の中を歩き進んでいた。ふと、妙な気配を感じて、そちらに足を運んだが、そこに着いた時にはすでにその気配は絶たれていた。気のせいだったのかと、思い引き返そうと思った。その刹那。頭上から、凄まじい声が鳴り響いた。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「?」
見上げると、一人の人間が落ちてくる。
「え?!」
慌ててその人間を捉えようと構えるが、気づくのが遅かったのか、落ちてくるのが早かったのか、体制が整わないうちに人間が落下してきてしまったせいで、一応抱えることは出来だが、思いっきり転倒した。