第十三話 闇
ガスイの春風に巻き込まれた妖怪は消えてなどいなかった。ただ、強烈な風によってものすごい速さで地面に叩きつけられただけだった。
「クソ・・・・。アノモリビト、イッタイナニモノダ?!」
「お前じゃ相手にならんな」
薄暗い森の奥から声が聞こえてきた。妖怪はその声を聞いて少しだけ身を震わせた。
「コノチノヨウカイカ?」
「答える義務は無い」
鋭い言葉が鳥の妖怪に発せられる。現れた妖怪はしかしその姿を目で確かに確認することは出来なかった。薄暗く、森の木々がその姿を影となって覆い隠してしまっているせいだ。
「お前の無能のせいで危うく面倒なことになるところだった。その報い、受けろ」
姿をはっきりと捉えることの出来ないその妖怪は鳥の妖怪の頭を蹴飛ばし、地面に張った瞬間に、踏みつけた。
「あの村の護人が有能で助かった。いや、もっとも。有能だから今があるんだろうがなぁ」
妖怪はどこか遠くを見ながらそう言っていたが、踏みつけられている妖怪の耳にその言葉が入るわけが無かった。
異国の妖怪がこの近辺をうろついたことを聞いて四季剣の3人は驚いていた。銀葉にとってそれがどういうことなのかいまいちよく解らなかった。
「根本、妖怪って言うのは住処を変える生き物ではないんだよ。根付いたらそこに留まる。だから異国の妖怪がここまで来ることはあまり無いんだ」
つまり、珍しいことが起こった、ということらしい。かと言って、そんなに気にするようなことではないらしいから、放って置いても問題ないだろう。
双輝が外に出てガスイを相手に剣術の稽古を始めていた。双輝がヒコウを持ち、ガスイがスイセツを持つ。その様子を見て自分の居た学校の様子が目に浮かんできた銀葉。自分の部活でも、こんなことをしていたような。
「いったっ! ちょっと、タンマ、双輝!」
人型に成ったヒコウが双輝にタンマを掛けた。
「テメ、ガスイ!!あたしの急所、わざと突いただろう!痛かったぞ!」
「しらねぇよ!双輝とのやり取りで必死なんだから!双輝は強いんだぞ!俺でもきついんだよ!」
「喧嘩はしない。ヒコウ、それは俺のミスだ。悪かった」
「いや・・・。双輝が謝るとどうにも・・・・」
「何だ?」
「なんでもない! 続き」
ヒコウは四季剣の格好に戻った。銀葉は、思った。この四季剣という存在は、確かに見た目こそ人間だが、列記とした刀であって双輝を一人の人間ではなく、護人として、主としてみているのだと、なんとなくわかった。