第十一話 存在
「ひとつ言い忘れていた。『妖怪』は知っているだろうか?」
双輝ははたと立ち止まると銀葉に尋ねた。銀葉は混乱する。
「え・・・?!妖怪?!ハイ?!」
「知らないか。 この世界じゃ妖怪がいる。それから守護するのも護人の役割だ」
「そうなんだ・・・・。」
妖怪なんて、物語の中だけの話だと思っていたのに。こんな風に現実にいるなんて。いや、そもそも、この世界が現実かどうかすら銀葉には定まっていない。銀葉はその妖怪がどの様なものか何度も思考したが、はっきりとした輪郭を得ることは出来なかった。
「村も時々、襲われたりするらしいから気をつけな」
「らしい・・・?」
「この村は妖怪が襲ってこない」
「どうして?」
「さてね?」
そう言って双輝は部屋の奥へといってしまった。
「どうして妖怪が襲ってこないんだろう・・・・?」
「あたし等は理由はわかっているんだけどねぇ~」
「え?!」
「双輝はな、父親の血を継いでかなり強い護人なんだよ」
ヒコウの後に続いてガスイが言った。
「私たちは『四季剣』と呼ばれているんだけどねっ。この持っている本数でその護人の力量が基本的には解っちゃうんだ」
クレハが説明をする。
「持っている本数・・・?じゃぁ、双輝は4本って事? それ、少なくない?」
「何を言う? 我らを一本持つのは簡単に出来よう。2本目の四季剣を持つことは人を二人分、片手で持ち上げるほどの力が必要とされる」
「え゛?!」
スイセツの説明に少し驚く。双輝は4本。つまりは、4人分を片手で?
「あくまで比喩だぞ、比喩。その辺わかっているな?例え、本当に片手で2人分の重さを持てたとしても、四季剣が持てるわけじゃないぞ!」
ガスイが付け足す。頷きながら銀葉は聞く。
「3本目はすごいんだよ!私たち、『秋』を持つことが出来る人っていうのはね、指一本で家の破壊が出来るくらいすごいんだぞ!」
クレハが嬉しそうに言う。それを聞いて銀葉は硬直する事しか出来なかった。
「おい。銀葉? ガスイも言ったが、コレは比喩だぞ?実際に出来ても意味無いんだからな?」
心配したヒコウが口を出した。機械のように縦に首を動かす銀葉。3本目でこんなにすごいのなら・・・・4本目は?
「スイセツ系の『冬』を持つのはな、一発で、しかも一瞬で三山の破壊が出来るくらいの力量が必要って、所かな?」
「三つ!? あんたら、それいくらなんでもない!!」
「難しさをあらわす比喩だって言っているだろう!?」
「あ・・・・はい。そうですね」
そんなにすごいのにも関わらず、双輝はその四季剣、全てを持っている。相当すごいんだろう。
「で、双輝が凄い事は解っただろう? だからな、妖怪たちも怖がってこの村を襲いやしないのさ」
「さて、それだけだろうかね」
「お?双輝。うまそうなにおい!出来るの早かったな」
奥の部屋から出てきた双輝にガスイが言った。しかし、双輝はそれを否定した。
「まだだって。煮込まないと食えないから」
「あ。そうか・・・・」
「それだけ・・・・?」
銀葉は最初に双輝の言った言葉が気になって声を発した。双輝はそれに反応してどこか遠いところをしっかりとした目で見ながら言った。その目の先にはあの森があるのかもしれない。
「違うと思うんだよね、この村に妖怪が来ない理由は」
「えぇ~~? 違うのぉ? 双輝が怖いから襲ってこないんじゃないの?」
双輝の言葉をクレハが反論する。しかし、双輝は少しだけ間を空けてからふっと、言った。
「・・・森の中に、ひときわ大きな妖力を持った奴がいる。それが指揮を執り、一気に攻めてくれば簡単にこの村も落ちると思うんだよね」
「感じるの・・・?」
護人とは、根本的に言うと巫女を護るため、民を護るために存在する。それあって、巫女などを襲ってくる妖怪の存在を感知できるように特化してくるらしい。それが、双輝はひときわ大きく、感知能力が普通より高いらしい。だから、森の中にいる最も強い妖怪の妖力なら簡単に探し当てられるという。
「凄い・・・。でも、あえて妖怪を退治しに行こうとは思わないんだ?」
「あぁ。こちらに何の危害も加えていないのに、あえて向こうをひっぱたく必要は無いだろう?」
「うん」
双輝はどうやら人に優しいのではなく、全てのものに優しいのだと銀葉は判断した。