第十話 正体
双輝のその声で、ヒコウとガスイのバトルから逃れるために別の部屋に居たクレハとスイセツが戻ってきた。
双輝は皆に、銀葉のことについて巫女から聞いたことを話した。それを頷きながら聞いていた。
「ってことは何か?しばらくは護人と共に生活するのか?」
ガスイが言った。
「そういうことだろう?」
ヒコウが言う。スイセツは何かを考えているようだったけれど、クレハにいたっては話にあまりついてきていない様子だった。
「とにかく、私はその『護人』という人と一緒にいなきゃいけないわけでしょう・・・?それって、どこにいるの?」
銀葉が聞いた。すると、双輝以外の全員が動いた。
「それ」
異口同音の言葉で、みんなが見ているのは双輝だった。
「え?!双輝が護人? ってか、護人って何?」
「あなた、そんなことも知らないの?!」
クレハが驚いたように言った。双輝がそれを否定していた。
「仕方ないことだ。この世界の人間じゃないんだ。もっと、別の次元から来ているんだよ。四季神様が連れてこられたんだよ。だから、ここのことを知らなくて当然なんだ」
「なるほどぉ」
クレハは納得したように高揚を抑えた。
「で・・・?双輝が護人で・・・・護人って・・・?」
「護人とは、巫女様の護衛をする刀を持った人間のことだ」
「刀・・・? えと・・・双輝のどこに刀があるの?」
「そこらへんにたくさん」
「え?」
「ま、紹介するから」
双輝は立ち上がると、銀葉の前まで移動した。そして、銀葉に向き直ると軽く一呼吸おいてから銀葉と目を合わせた。
「じゃ、見せるから」
双輝はそういって右手を横に出した。
「春。暖の始まり。芽吹」
その掛け声で座っていたガスイが一瞬、光に包まれてその場から消えた。その代わり、双輝の右手に少々変わった刀が握られていた。
「コレが、ガスイ。逆刃刀だよ」
銀葉は今、起きた状況を飲み込めなくて呆然としていた。何があってこうなった?どうやったらそうなる?何の手品?!
「がががが、ガスイ・・・・は・・・・?!」
「次ぎいくぞ」
問答無用で双輝は刀になったガスイを左の腰に差すと、右手を今度は前に出した。
「夏。暑の訪れ。陽光」
すると、今度ヒコウが光に包まれ、消えた。そして・・・。
「ヒコウだ。有無を言わさぬ諸刃の刀」
カシャン、と双輝はその諸刃刀を鳴らした。そして、今度は右の腰にそれを差した。それから両手を横に出して言う。
「秋。涼の慰み。紅葉」
クレハはその場から消えると双輝の手の中に二本の摩訶不思議な形をした刀となって現れた。
「双刀のクレハ。結構珍しいんだよ、一人で二つの刀になるのは」
双輝は説明をしながらその二本の刀を腰の後ろに差していた。
「最後な。冬。寒の静まり。吹雪」
長い槍のような矛にスイセツは変化した。
「防御が強いんだよね。スイセツの矛刀は」
矛刀を双輝は背負った。
「ま、コレが完全武装・・・って所かな。実際にはこんな風には武装なんてしないけどね。大抵はみんな人型で俺の傍にいるからさ」
双輝は一本、一本刀を抜いていき、みんなを人型に戻していった。それを見ていた銀葉はただただ、呆然と見ていることしか出来なかった。不可思議な出来事を目の当たりにして。それでも、ここは自分の居た世界じゃない。何が起きてもおかしくは無いが・・・・。
「つ、つまり・・・何?みんな双輝の刀・・・?」
「あぁ、そういうことだ」
爽やかに双輝は笑って肯定した。少し下を向いた銀葉は何がなんだかわからない状況を必死で整理しようとした。
「じゃぁ・・・ヒコウが刀だから・・・?」
「ん? あぁ、そうだよ。こいつは俺の武器だ。女性、という感覚は無いな」
「双輝はあたしの主だからね。むしろ、女性扱いをされたくは無いな」
ヒコウは笑いながらそういった。
「お前は、人間でも女じゃないんじゃないか?」
ガスイの一言にまた喧嘩が勃発しそうだったが、双輝がそれを抑えて何とか事を成した。
「そっか・・・。整理すると・・・・。みんなは双輝の刀で、その刀を持っている双輝は護人で・・・。巫女様の護衛をする」
「まぁ、そんなところだ。ここにいらした巫女様を次の村まで護衛したり、ここにいらっしゃる予定の巫女様をその村まで迎えに行ったりとな」
「ふーん・・・。忙しそうね・・・」
「そうでもないさ。巫女様の護衛をすることは本当に名誉なことだから」
「そう」
「長い説明してもしょうがないよ!ここの世界の事は自然とその身をもって体感してもらうとして! 双輝っ!お腹すいたよ!ご飯にして」
クレハが言う。双輝は仕方ないといった風で立ち上がった。