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四季神  作者: ノノギ
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第一話 育ち

 これから話すことは決して口外してはいけないよ。口外してしまったら四季神様に怒られてしまうからね――


 ずっと昔に言われた言葉を、今になって思い出したのはなぜなのか解ろうとしなかったけれど夢で見たそれを言うその姿はどことなく鮮明にくっきりと印象に残らせた。

 祖母は昔から神を信じて生きてきた。家が神社ということもあるのか、自分の両親までは完全に神を信じ、崇拝しているようだった。

 でも自分は違う。神などいやしない。神など信じてなるものか。ずっとそう思って生きていた。神がいるならなぜ悲しみは消えぬ?なぜ世に涙が消えぬ?何故世界から差別がなくならぬ?なぜ・・・

人は死ぬ?

簡単だ。神などいないからだ。

 自分の考えを述べた時、両親に嘆かれた。

「なんてことを言うの?!そんな事、二度と言ってはいけないよ。神に対する崇拝の心は絶対に失ってはいけないの」

母親に言われた。信じる要素のない神に対し、崇拝など出来る訳がない。

 祖母が死んだのはつい最近のことだ。祖母の死によってただでさえ信じていなかった神がより信じられない存在になった事は違うことのない事実だ。祖母は大好きだった。優しくて物事をはっきりと見ている。だから、いくら信じないと思う神のことであっても、祖母の話を聞くのはとても楽しかった。なのに・・・―

なぜ死んだ?

まだ生きていてほしかった。なのになぜ、祖母は死んでしまった?なぜ・・・なぜ神は祖母を殺した。違う。神が殺したんじゃない。人の生死を扱える神が存在しないから祖母は死んだ。それだけだ。

 朝。いつものように髪を頭の上で二つに結んで家を出た。私服の高校に通っているから服装の自由を与えられているが、それがまた面倒だった。それでも、制服を仰々しく着ている連中を目にすると、私服の高校でよかったと思う。この世は何かしらの規制が多すぎる。神という存在が人間を管理し、人間を支配するから規制が厳しくなる。そんな概念、消えてしまえばいいのに。だから、規制感のない私服でよかった。

 学校に着いて、いつものように勉強していつものように笑っていつものように男子と論争して・・・・・・。なんら変わり映えのない日常。それが、いつ何時、崩れるとも知らずに。


 神社で育ったのに、神を信じない子、銀葉。そんな銀葉が、学校から帰ってきた。今日はちょっとした用事があるから急いで帰ってきたようだった。神という存在を信じている訳ではないが、毎回、恒例行事として行われている行事だけに、参加しないわけに行かないし、何しろ銀葉に至ってはこの行事の主役だから。

 巫女として、民衆の前に出て、神を祀る『儀式』をする。ここで祀る神とは『四季神』と呼ばれる、名の通り、四季を有する神だ。その神を祀るために、巫女となった銀葉が、春、夏、秋、冬の、四つに分かれた舞をし、神に捧げるというのが、毎月行われる恒例行事だ。そんなに言って回っているわけではないが、この行事に参加する者はたくさんいた。銀葉のクラスメートも、幾人かくる。大部分は、神を祀るために来るが、残る心のうちには、銀葉の舞を見たいという思いがあるらしい。

 四季舞と呼ばれる神に捧げる舞。列記とした意味を成す。春は、『始まり』。夏は『訪れ』。秋は『慰み』。冬は『静まり』と、各象徴を意味した舞を披露する。銀葉にとって、夏の『訪れ』の舞は少し骨が折れるようだった。春に咲き誇った美しい花々が、乱れ咲き夏へ訪れを運ぶ。訪れを感じた夏は積乱雲のごとく高く上り詰め激しく、しかし、静かに舞い降りる。そして慰みの秋へと縺れ込み、優雅に紅葉してゆく草木を舞い、最後に静かに地にひれ伏し再びの始まりを待ち今は眠りに着く。それが舞の流れ。夏の激しく上り詰めるときの舞が半端ない体力を消耗する。春夏秋冬、四つの舞のうち、二つ目で既に体力を消耗して、さらに残る二つを舞う。それは毎度やっていても疲れる。そのおかげか、体力には少し自信もあるし、身の動きの軽さならそんじょそこらの奴より断然上だ。

 巫女服に着替えた銀葉は舞の踊りを披露する為に社の中に待機していた。舞に使うのは一本の柊。柊の枝を刀に置き換え舞うらしい。刀での舞いは昔から行われていたのだが、世間が変わるにつれて、神を祀るに相応しい柊の枝で行うように代わっていった。

 舞が始まる時間になって、春の訪れを意味するかの如く、舞いながら社を出て民衆と、神に捧げてゆく。


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