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壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい  作者: あまぐりムリーパー
魔王

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9/11

狂信者たちとお仕事

 頭が重い。そういえば昨日はそのまま寝てたんだっけ。


 体を起こそうとして、ふと気づく。目の前に顔がある。


 横になっている状態で、上から覗き込まれている。


「なにしてんすか、ディオネさん」


 そう、俺を覗き込んでいたのは聖女様だ。いつものような沈鬱な顔ではなくて、無表情というか、こっちをただ眺めている。


 というか、これは体勢的に膝枕とかされてない?

 確かに、何かに頭を乗せているような感触があるというか。


『疲れてそうだったので』

「そっすか」

『はい。昨日は大変でしたね』


 スッと、目を細めて慈しみでもあるようにこちらを見つめてきた。まるで、母親みたいに。


 ……なんか、こいつ落ち着いてるな?

 昨日までは後悔たくさん!って感じだったのに。


「……そういえば、帰ったあとすぐ寝た気がするな」

『ええ。ですから、私が代わりに起きておきました。お風呂などは済ませましたよ』

「えっ」


 代わりって言ったか?つまり、俺が寝た後にこいつが体を動かしてたの?


 困惑していると、ディオネの瞳が揺れた。不安そうにこちらを見ている。


『……ダメでしたか?』

「いや、お前の体だろ」

『……そういえば、そうでしたね』


 ふふっ、とディオネは頬を緩ませる。


 ……本当に別キャラだな。


「ディオネさん、なんか立ち直ってない?」

『どうでしょう。あなたのお陰で少しだけ、ましになったかもしれません』

「……デコピンだけでそうなるの、チョロすぎない?」


 ムッ、と少しだけ頬を膨らませたディオネに無理やり膝から落とされた。


 膝枕を強制解除されて、仕方なく体を起こした。


 にしても、体の制御を取り戻せるのか。それはもう、魂が沈んでるって訳ではないのでは?

 ……そうなると、こいつが強制的に俺を追い出して、また仕事をして傷つくことになるんだろうか。


『例え、私が起きていてもあなたがここにいる限り、この体の制御はあなたのものです。だから、あなたが許可しない限り私は自分では動けません』


 まるで、こちらの考えを読み取ったようにディオネは言う。


「昨日は俺が寝てたから一時的に使えたってことか?」

『そうですね』

「じゃあ、風呂とかは代わりにやってもらおうかな」

『……なぜですか?』

「いや、裸を見ないで済むからさ」


 もうこの体になって、そこそこの日数は経っているけど、さすがに他人の裸を見た状態になるのは慣れないというか、罪悪感がすごい。


『…………』


 少しだけ顔を赤らめたと思えば、額に衝撃が走った。


 視界が揺れる。


『……ばーか』


 デコピンされたのを理解したのは、目を覚ます前だった。意趣返しってやつか、なんて思いながら視界がぼやけていくのを感じた。


◇◇◇


 だんだん、ディオネのやつが活発になってきた。


 本当に傷ついてたやつなのかわからないほどに。


 でも、たぶん見えないところできっと、まだ大きな傷を背負ってるんだろう。そんなやつに、こんなイカれた仕事を任せてやれるわけがない。


 にしても、裸を見られてるのは恥ずかしいのかさすがに。

 いや、本当に困るんだよな。体洗わないわけにはいかないから。


「……ボーッとしないで」

「ひぃっ、ああ、ごめん」

「……ん」


 急に、冷たいものが頬に触れて思わず跳ねた。


 俺、というかディオネの同僚らしいクラリッサが頬に指を押し付けてきたらしい。


 ――人間の体温じゃなかった。酷く冷たくて、氷でも押し付けられてるみたいに。


 ああ、そうか。昨日、枢機卿のやつから押し付けられた仕事に来たんだった。


 辺境の場所にまでみんなで連れてこられている。


 鬱蒼とした森の中を歩いている。じめじめとした、嫌な空気が漂う。


「うふっ、ねえライ。そんな人形みたいな女放っておいて、私と一緒に行きましょう?」


 ぐい、とクラリッサを押し退けてヴァレンティナが間に入ってくる。


「……私、人形じゃない」

「表情を変えてから言いなさいよ」

「……あなたは喧しすぎ。もう少し静かに喋ることを覚えておいた方がいい」


 こいつら、仲が悪いんだろうか。こうしてみると、普通の子なんだけど。


 枢機卿の話によると、この先の方に発生源があるんだとか。


 まとまっていくと、逆に戦いにくいだろうから分散して進むようにするらしい。

 まあ、ヴァレンティナと一緒に行くと巻き込まれかねないしな。


 そんな風に考えながら、発生源の近くである森の中を歩いていく。


 鬱蒼とした木々の中を俺は歩いていくが、しずかで、鳥の囀ずりや風の音ぐらいしか聞こえては来ない。


 木々を抜けると、そこには家々が並んでいた。


 小規模な集落、だろうか。


 集落を歩いて探索していくが、どこにも人の気配はなかった。


 不気味な状況に思わず、固唾を飲んだ。息を整えようとしたとき――上から何かが揺れているのが見えた。


 虫のような足がいくつも生えた、蜘蛛に近い何か。その上に人のような胴体がある。顔はない。

 そんな存在が、上から垂れ下がっている。


 よく見ると、光が反射した線が見える。糸、か。


 この蜘蛛の糸、なのだろうか。


 いや、違う。この異形の存在は、糸のようなものに巻き付かれて動けていない。それどころか、糸が体に食い込んで裂けていく。


 体がぶるぶると震えている。抵抗しようとしても動かないからきっとそうなってるんだろう。


 ぽとり、と一本の足が落ちた。


 そのまま、次々と部位が切断されていき、ついには全身がバラバラにされて、それがぽとぽと落ちていく。


 それだけじゃない。似たような存在がいくつも宙に浮いていて、そのどれもが糸によって拘束されて切断されていく。


「異端殲滅局所属、信仰序列7位――セシル。異端の殲滅を開始する」


 その糸の先には中性的な男――セシルがいた。別方向からここにたどり着いたらしい。


 今度は、建物から急に獣のような異形がいくつも沸いて出た。


 おかしい。さっき調べたときにはいなかったはずなのに。


 そう思う間もなく、それらは一斉に駆けていっては――すべてが停止した。


 土を踏む音がする。それが、ぱりっと何かを砕くような音に変わる。


 凍った地面を歩いて、割れたときの音だ。


 艶やかな黒い髪が、風に揺れた。


 はぁ、と吐く息が白い。


「……異端殲滅局所属、信仰序列4位――クラリッサ。全て、凍らせて砕く」


 獣のすべては、凍りついて動けなくなっている。


 そして、すべてにぴしりとひびが入り、バラバラに砕けていった。


 それを、クラリッサは足で踏みつけてさらに砕いた。


「あらあら、みんなもう来ていたのね?」


 くすり、と妖しげに笑う少女――ヴァレンティナがやってくる。


 その後ろは、ごうごうと燃えていて、火だるまになった何かがその中から走ってくる。


「異端殲滅局所属、信仰序列5位――ヴァレンティナ。今から、全てを燃やすわ」


 でも、それはヴァレンティナにたどり着く前に体を保てなくて、灰になって消えていく。


 炎が、また激しく燃え盛っていった。


「おう、みんな早いじゃないか」


 レオンハルトはというと、何かも変化がなさそうに見える。


 強いて言えば、気になるのはその手に持っている光の槍だ。


 ……あれは、あのクソ野郎が俺の腕を切った時の武器だ。


 あれは一体なんなのだろうか。


『あれは、祓魔(エクソシズム)の一つです』


 ……急に聞こえてきた声に、少し緊張が解れた。


 少なくとも、俺はどうやら悪魔を倒すためのもので、一度殺されかけたってことか。


 セシルの糸、クラリッサの冷気、ヴァレンティナの炎。どれもが特殊な力だとは思う。

 でも、あれは神聖印じゃないのか?


 わからない。なんなら、レオンハルトはそういう力を持っていないんだろうか。


 そう思っていると、レオンハルトの背後からも、何かがいくつもやってきた。熊のようなものや、人が継ぎ接ぎにされているようなものまで、様々な異形が。


 光の槍をそれに向かって投げ捨てる。一体の頭部に直撃はするが、他の存在は止まらない。


「異端殲滅局所属、信仰序列8位――レオンハルト。これから、俺の物語だ」


 棒切れを拾って、それを振るった。

 それだけで、目の前の異形が易々と切り裂かれていく。


 踏み込み、切りつけて次の敵に向かう。それを繰り返してすべてを木の棒で斬り伏せてしまった。


 ……そういえば、イェルクだったか。昨日、不在だったメンバーはいないのか。


 あの時、すれ違った存在はもしかしてそのイェルクってやつなんじゃないか。そう思っていたけど。


 ぽとり、と何かが落ちた。


 激しく音を立てて、近くの家が崩れた。


 みんなが、俺の方を見ている。なんだ?


 黒い何かが、びゅんっとしなって振るわれて、その通り道にあったものがすべて切断された。


 地面に落ちたものを見た。左腕がそこにあった。


「あっ、ああ……」

「静かにしてくれ」


 叫びそうになったとき、黒い何かが、俺の喉を貫いた。


 何かが、目の前に来る。


 そうだ、これだ。圧倒的な神聖力の密度。

 昨日出会った、本物の狂信者だろう。


 口の中に血がたまってうまく喋れない。


「……イェルク、やりすぎ」

「これはディオネの偽物か。魔王はどこだ?」


 その声を聞いた最後に、俺は意識を手放した。


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