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壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい  作者: あまぐりムリーパー
ライ

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異端殲滅官同士

「私の恩寵(グレイス)は傷の再生と、身体能力の強化をします」


 イェルクの影の触手がディオネに迫る。


 針のように鋭利なそれが、ディオネに迫ってそれが胸元に突き刺さり――ぴたりと止まる。それ以上進むことがない。


「私の恩寵(グレイス)は振れ幅があります。それは、私の精神状態とかで変わるんですけど、普段の強度ならイェルクの攻撃も通ります」


 ぴきり、と鋭利な影の触手にひびが入る。


 そして、それが砕けた後――それが小さな針の破片のように変化して再びディオネに突き刺さるが、同じように肌を貫くこともなくてぴたり、と止まって砕けた。


「イェルクの力は、鉄ぐらいなら軽く切り裂くことでしょうけど、今の私の力は最大限に発揮されてます。この程度では、かすり傷すらつかないですよ」


 軽く、ディオネが足を踏み込むだけで凄まじい衝撃が辺りに伝わっていく。


 そして、一気にイェルクの方へと駆け出した。一瞬にして、イェルクとの距離を詰める。


 それを迎撃するように、イェルクの影がずずず……と湧き上がって押し寄せる。


 が、ディオネが立ち止まって拳を握りしめてそれをぶつける。


 押し寄せた影が一瞬にして砕けちって、拳の風圧でイェルクが軽く吹き飛ばされる。


 そのまま、影の場所を踏みつぶして湧き出てくるそれを砕く。周囲の影が一瞬にして砕けていく。


 追撃とばかりにもう一度ディオネが殴りつけると、壁のように出した影が拳を止めようとするが、紙のようにすぐに破れてイェルクの目の前まで迫る。


 が、寸前で止まる。ギリギリ、届かない。


「……なるほど、やはりこの程度だとダメージにならないか」

「わかったなら、さっさと帰ってください」

「そういうわけにはいかないだろう。仕方がないな」


 イェルクが体勢を立て直した。


 そして、イェルクの影が、体と重なっていく。皮膚が影と一体化して、黒くなっていく。


 そこに、思いっきりディオネが突っ込んでいく。胴体を狙った蹴りが、イェルクめがけて襲いかかる。


 が、それをイェルクの腕が受け止めた。轟音が鳴り響く。


 鉄を容易く切り裂くようなイェルクの影を、一瞬で砕くディオネの一撃を、イェルクは受け止めていた。


「俺の影の攻撃では、お前には本来ダメージを与えられないだろうが、俺の体と一体化させた時はこの影の強度はさらにはね上がる」


 イェルクの腕から飛び出した影が、触手のように伸びてディオネの頬を裂いた。


「……っ」


 たらり、と血が垂れた。と思えば、すぐにそれが元に戻る。


 ディオネは軽く足に力を入れて蹴り飛ばし、距離を取った。


「まだやるか?」

「やりますよ」


 ディオネとイェルクがぶつかる。


 ディオネがの拳が数発、イェルクに直撃する。響き渡る鈍い音と共に、辺りに衝撃が拡散していく。


 それにカウンターするように、イェルクの拳がディオネの顔面を捉えた。


 弾き飛ばされるディオネは、すぐに立ち上がったと思えば、その顔は綺麗なままで傷もない。


 その攻防の瞬間、イェルクから飛び出た触手が何度かディオネを傷つけたはずなのに、それすらもすでに癒えている。


「そんなに、ライさんを捕まえたいんですか?」

「お前はこのまま、ライを処分の対象にしたいのか?」

「全員、追い返してやりますよ」

「教会全部を敵に回すことは、賢明な判断ではないと思うが」


 再び、ディオネとイェルクがぶつかる。


 ディオネは傷ついたダメージを即回復し、イェルクはディオネの攻撃をひたすらガードするだけ。二人の攻撃が激しく、その場を飛び回っていた。


◇◇◇


 いや、どうするんだよこれ。


 なんかこう、間に入っていこうと思っていたけど、攻防が激しすぎて入れん。


 ディオネの本気の攻撃とか、近くにいるだけですごい衝撃が飛んでくるっていうかさ。風圧でたぶん吹っ飛ばされるんだよな。


 イェルクもさ、触手攻撃は引っ込めてなんかこう、黒くなってそのまま殴ってるんだよな。お前、そういうのもできたんだ。


 いや、腕からそれっぽいの出したりしてるんだけどさ。


 イェルク、前はなんかすげえでかい影とか出してなかったっけ。それに加えてディオネと殴り合うところまでいけてるとか怖いよ。


 ってかさ、ディオネとイェルクのパワー見てるとそんなに差があるのか?これってさ。


 そもそも、信仰序列がディオネが3位でイェルクが1位だったはず。んで、2位がグレゴリーって聞いたんだよな。マジか?


 あのクソ野郎、ディオネよりも上?こいつらと並ぶぐらい?


 本当にこいつらと並ぶの?マジで?そんなわけないだろ。


 っていうか、本当にこれどうしようかな。間に入れねえんだけど。強化使って突っ込みにいくかな。いや、それで無事か?無理かなあ。


 いやでも、これ止めないとダメだよな。


 ……これ、あれか?私のために争わないでってか?


 そういう柄じゃないんだけど。なんかそういうのも嫌だから、ちょっと無茶しても行くか。


 そもそも、ここにいるだけでもきついんだよな。神聖力が止めどなく溢れてるから、すごい肌にピリピリ来る。


 この前に暴走してから、ちょっとだけ呪いの器に寄ってしまったみたいだからそのせいで、神聖力の影響をちょっと受けてるんだよな。


 あの間近にいくだけで体が焼けるとかにはなると思うけど……なんかあいつらがそのまま争ってんのもアホらしい。


 ……さすがに死ぬかな、これ。


 まあいいや。その時はその時で、俺がいなくなったら全部解決するし。


強化(ベネディクション)


 体に力が漲る。呪いの器としての力も、たぶん少しは引き出せるから、それを一気に引き出す。


 体を補強して、さらに強化する。


 これで突っ込んでいけば、まあ即死はしないだろう。


 地面を踏み込む。息を吸い込んで、鼓動を落ち着けた。

 そのまま一気にあいつらの間に向かう。


 肌の焼ける感覚が強まっていく。じりじりと、体が表面から焦がされてるみたいな感覚がする。


 そういえば、このまま俺が消えたら分裂していた俺たちも消えてしまうんだろうか。


 ああ、そうなるときは遠くに吐き出してやるか。

 俺相手だから配慮した方がいいかもわかんないけどさ。


 体が痛い。二人のぶつかり合いが見える。


 砕けたイェルクの影の破片が、頬を掠めた。


 よく見ると、攻撃を続けていた結果ディオネの拳がイェルクの影を少しだけ砕いている。すぐに戻ってるけど。


 意外と、ディオネが優勢なのかもしれない。


 そういえば、イェルクの影ってぶっ壊れされた後もなんか動いてたけど、そんな操作もできるんだ。

 なんて、ぼんやりと考えているとかなり近くまで接近してる。


 体が酷く痛む。……俺ってこんな呪いまみれみたいになってんだ。そりゃ、異端実体と呪いから体が作られてるけどさ。


 まあ、いいや。


「おい、お前ら!そこまで」


 拳を振るった時の風が全身を撫でた。イェルクの影がすぐ近くを通りすぎる。


 それでも、止まらずに強引に、二人の間に入り込んだ。


 ぴたり、と俺に当たりそうなところで二人の動きが止まる。


「面倒だから、一旦お前ら止まれ」


 鼓動が、どくどくと跳ねる。たらり、と汗が頬を伝った。

 あっぶない。マジで当たるかと思った。無我夢中で結構、勢いで突っ込んで行くだけで行けてよかった。いや、本当に。


 未だに、全身が痛いし。


「ライさん、退いてください」

「ライ、俺はお前を捕獲しなきゃならない」

「あー、もう!うっさいなお前ら!」


 こいつら、全然止まる気ないな。それはしょうがないんだけど。


「イェルクは、たぶんグレゴリーのところとかに俺を持っていきたいんだよな?」

「ああ、そうなるな」

「んで、ディオネはなんか俺が不当に傷つけられるのとかは嫌ってこと」

「はい」

「じゃあさ、全員で一旦あのクソ野郎のところへ行こう。直談判してやるよ」


 そう、なんかもうここで争われるぐらいならもうあのクソ野郎のところに直に行ってやる。


 管理がどうとか、そういうのは話してから決める。それに、俺の一人がもう捕まってるらしいから、そっちも気になるし。


 ……それと、逃げてたら下手したら俺が殺されかねないレベルで痛め付けられる可能性あるしさ。それなら、このまま行った方が安全だから。


「俺はそれでもいいが」


 うんうん、そうだよな。


「私は嫌ですけど」


 ……あれー?

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