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壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい  作者: あまぐりムリーパー
魔王

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村焼きガールとの仕事 その2

「信仰は力よ」


 馬車に揺られながら、ヴァレンティナの差し出した手を見た。


「私たちは、祈りを力に変えるの」


 手のひらに、光った何かが溜まっていく。


 手を振ると、それが拡散して光が周囲に散らばる。


「これが神聖力。少しはわかったかしら?」


 周囲の空気が、少しだけ綺麗になった気がした。


「ごめん、さっぱりわからん」


 それっぽく実践されているけど、不思議なことしてることしかわからない。

 ……実は、教えるの下手だったりするかな。


「……そう。これが見えてるのよね?」


 手のひらに集まる光を見せられる。


 これが、神聖力ってやつ?


 ……いや、少し違う。手のひらに集まっているどころかよく見るとうっすらヴァレンティナの体を似たようなものが包んでいる。

 それが流れて、手のひらに集まると見えやすくなるんだ。


「その様子だと、見えたみたいね?」

「その。ぴかぴかしたのが神聖力ってことでいいのか?」

「そうよ、自分のも見てみたら?」


 自分の手を見る。何も見えない。


 でも、さっきのヴァレンティナのようなものが見えるんだろう。


 目を凝らすと、うっすら何かが膜のように手を覆っている。手だけじゃない、体中がこれに包まれてる。


「わかったかしら?それが、神聖力よ」


 ヴァレンティナが目を細めて、指をくるくると振る。小さく息を吐くと、ヴァレンティナを覆ってるもの――神聖力がぐるぐると周囲を流れていく。


 すると、ヴァレンティナの指先に火が点った。


 なんだ、あれ。神聖力を操作してからぐるぐるさせてるんだなと思ったけど。

 火をつけられたりもするのか。


「それで、こうやって神聖力を何かしらの力に変換したもの。これが神聖印(ホーリーサイン)よ」


 なるほど?


 神聖力は魔力のようなもので、神聖印(ホーリーサイン)は魔法みたいなもの、と考えればいいんだろうか。


「神聖力は燃料みたいなものよ。それを消費することで、神聖印(ホーリーサイン)を行使することができる。神聖印(ホーリーサイン)は、人によって得手不得手があるから、何でも使えるわけではないけれど」


 そんな俺の考えを見透かしたかのように、ヴァレンティナは続ける。 


 神聖力は燃料で、それを消費することで使うことができる技が神聖印ならば、たぶん考え方は間違ってないんだと思う。


 俺も神聖印自体はちょっとだけ使っていた。


 少しの傷を回復させたり、自分自身を強化されたりとか。


 でも使い方はなんとなく、垣間見たディオネの記憶通りにイメージしてやっていた。

 原理を少し知れば、まだわかりやすい気がする。


 まあ、知ったからって使えるかはわからんけど。


「あなたは、あくまでこの神聖力をバカみたいに放出して倒してただけってことね」

「……なんかトゲがあるな」

「気のせいよ」


 興味を失ったかのように目を伏せて、ヴァレンティナは手に点した火をふーっと息を吹き掛けて消した。


 一々行動が様になるやつだ。


「でも、神聖力は燃料なんだろ?」

「燃料みたいなもの、ね」

「それって神聖印(ホーリーサイン)に変換しなくても相手にダメージがあるの?」


 そう聞くと、ヴァレンティナは口許を緩めて僅かに笑った。


「悪魔だとか、そういった存在はこの神聖力そのものが苦手なの。だから、それを浴び続けると消えるわ。効率はとても悪いけれどね。それこそ、エクソシズムの方が圧倒的に攻撃しやすいものね」


 うふふ、と何故か楽しそうに笑っている。


 なるほど、神聖力を使って効率よくダメージを与えられるのがエクソシズムってことなのか。


「でも、難儀ね。その体だと難しいでしょう?」

「何が?」

「エクソシズムを使えないでしょうから」

「……は?」


 使えないってなんだ?


「ああ、少し違うわね。あまり使えない、と言った方がいいかしら?」

「それは、なんで?」

「だって、ディオネはエクソシズムがとても苦手だったもの。同じ肉体のあなたも、できないでしょうから」

「……マジか」


 ……えーっと、本来悪魔だとか、そういう存在はエクソシズムを使って倒すもので、俺は使い方がわからなかったから毎回致命傷を受けてたんだけど。


 そもそも使えなかった?


「あなたは、これからエクソシズムも使えないまま、戦いに繰り出されるの。ずーっとね?うふっ、早くディオネの力を使いこなせるといいわね?」


 とてつもなく愉快そうに、ヴァレンティナはくすくすと笑った。


「……他に倒す方法とかなかったりする?」

神聖印(ホーリーサイン)は、四種類あるの。祓魔(エクソシズム)守護(プロテクション)治癒(レストレーション)強化(ベネディクション)。攻撃できるのは祓魔だけね」

「……つまり、ないってこと?」

「さあ、探してみたらどうかしら?」

「そうかよ」


 ちっ、と思わず舌打ちが出た。


「拗ねないで?抱き締めたくなるわ」

「恐ろしいことを言うな」

「あら、その姿で拗ねられると可愛らしいもの。仕方ないと思わない?」


 けらけら、とヴァレンティナは笑う。


 そりゃあ、ヴァレンティナの見た目はとても綺麗だ。そんな女の子に抱き締められたら、普通は最高かもしれない。


 でも、こいつは笑顔で人間を焼くやつだしちょっとなあ。


 がたんがたん、と揺れていた馬車が止まった。


「着いたみたいね。そろそろ、ディオネの仮面を被った方がいいわ」

「言われなくても、わかってますよ」


 息を整えて、無愛想な少女を演じる。

 そして、馬車を降りた。







 今回の目的地は、村と村の中間辺りにある休憩所のようなもの。

 そこにある小さな小屋に行け、というのがあの男からの命令らしい。


「あの、手を離してもらえますか?」

「あら、嫌だった?」

「そりゃそうでしょ」

「嫌われたものね?」


 勝手に手を掴まれて、引っ張られている。


 ……なぜかわからないが、気に入られてない?

 というか、ディオネを嫌いすぎてそのギャップだったりしない?


『好かれてない方がいいです』


 ……なんか、聞こえた気がした。まあ、気のせいか。


 小屋に近づいてきた。こんなところに何があるんだ。


 今までは村の地下とか、森の中とかだったから、大概だけど。


 さて、何が出てくるかな。


 まあ、戦うのはヴァレンティナだけど。


「もう面倒ね。これごと燃やしてしまいましょう?」

「おい、やりすぎ」

「あら、口調が崩れてるわ」

「……やりすぎですよ」

「うふふっ。そうね、仕方ないから待つわ」


 ――ばんっ、と破裂するような音がした。


 小屋を破って、何かが突き出してくる。


 崩れていく小屋の中から、しゅるしゅると触手のようなものを動かして、気持ちの悪い何かが飛び出してきた。


 中央には、口を開けた球体の何かがあってそこから触手が伸びている。


「やっぱり、小屋ごと燃やした方が早かったじゃない」


 拗ねたように、ヴァレンティナは頬を膨らませた。


 ――そして、手を鬱陶しそうに振り払うと、その前方から火が波打つように燃え上がって、目の前の触手に襲いかかる。


「ああ、こういうときって名乗った方がよかったかしら」


 揺らめく炎を後ろで、ヴァレンティナがいつものように笑う。

 銀の髪がたなびいて、深紅の瞳を細めてその炎の先を見つめた。


「異端殲滅局所属、信仰序列第5位――ヴァレンティナ。今から、すべてを燃やし尽くすわ」


 うねうね、と動く触手がヴァレンティナに迫ろうとするも、炎に遮られて燃えていく。


 勢いを増した炎が、その触手の異端実体を包み込んで、ぐるぐると炎が旋回していく。


「うふふっ」


 回る炎の中に見える影が、そこから抜け出そうと蠢いているのが見えた。


 それでも、何もできずに焼かれているだけ。


 ……これが、ヴァレンティナの力か。有無を言わさず、ただ焼き尽くして終わる。


 そこには駆け引きだとか、戦闘だとか、そんなものはない。


「終わったわ」


 と、ヴァレンティナが言うのと同時に炎が消えた。跡形もなくなったただの燃え尽きた黒ずんだ塊がそこにあるだけ。


「簡単な仕事だったわね……あら?」


 そう、ヴァレンティナが小首を傾げたのと同時だった。


 俺の体が、急に浮いた。


「なに、これ」


 掠れたような声が出た。


 視線を下げると、腹から何かが飛び出している。

 法衣が、赤く染まっていた。


 鋭い何か、それが腹から飛び出して……いや、背後から貫いていた。


「ごふっ……」


 うまく呼吸できない。血が喉にたまって、苦しい。


 お腹が熱い。貫いてる何かが、ぐねぐねと動いている。


 ふと、顔を上げるとヴァレンティナと目が合う。

 困ったように眉を下げている。


「もう一匹いたのね」


 ヴァレンティナの手に、炎が点った。


「あなたごと焼いてしまうけど、仕方ないわよね?」

「やめっ」


 言い終わる前に、手がこちらに翳された。炎が真っ直ぐ、こちらに飛んでくる。


 一瞬だった。視界が赤いものに包まれた。


「――っ」


 熱い、痛い。体の表面から伝わる熱が一瞬にして全身を通り抜けていく。


 焼けた喉からは声は出ない。風の抜けるような間抜けな音が聞こえるだけ。


 焼けた目からは何も見えない。


 熱い、痛い。体が、崩れていく。


 ぽろぽろ、と指先から落ちていきそうなときに――瞬きをした。


 ……瞬き?目が焼けてしまっているのに?


 目を開いた。こちらを覗き込むヴァレンティナの顔が見えた。


 手が開く。


「あっ、あっ……」


 声も出る。腹に穴は空いてないし、法衣は元に戻っている。焼けてないし、穴も空いてないし、血で染まってもいない。


「そうなるのね、あなた」


 興味深そうに、こちらを見つめている。人が再生する様子でも見ていたらしい。


「……助かりました」

「あはは、そうは思ってない顔ね」


 そりゃそうだろ、焼かれてるんだから。


 なんて、言う元気もない。疲労感が、体を包み込む。


 仕事は終わったんだから、さっさと帰ろう。ヴァレンティナを放っておいて歩きだした。


「置いていくなんて酷い」


 うるさい。仕方ないけど、焼かれてるんだぞこっちは。


 そんな言葉を飲み込んで、馬車のところまで来た。疲れていた私の体は、ヴァレンティナに抜かされてまた手を引かれる形になっている。


 ……私?心の中でまで、ディオネを演じていたのか?


「異端殲滅官の方々、お疲れ様です」


 馬車を運転してたと思われる男性が、こちらに頭を下げた。


 その物騒な単語に何か言う元気もなくて、馬車に乗った。


「お疲れね?」

「……仕事終わりはいつも、このような感じですが」

「あなたは疲れてるとディオネになるの?」


 ヴァレンティナを無視して、座り込んだ。行きは対面だったはずなのに、なぜかヴァレンティナは隣に座る。


「焼いてしまったお詫びよ」


 抱き寄せられた。……離してほしいんだけど。


 そう思いながら、眠るようにもたれ掛かってしまった。


 屈辱だ。


 ただ、触れたヴァレンティナの体は少し柔らかかった気がした。


「そういえば、あなたのことってなんて呼べばいいかしら」

「……異界からの来訪者では?」

「長いでしょう?それに、名前とかではないもの」

「じゃあ、来訪者からとってライとかで」

「うふっ、いいわねそれ」


 楽しそうで何よりだ。こっちは、くたくたでそんな気持ちにはなれないけど。


◇◇◇


「アクイラ」

「なんですか?うわ、酷い顔」

「焼かれるって辛いね。今まででもトップクラス」

「何怖いこと言ってるんですか」

「あと、名前がライになった」

「もう、わけわかんないことばっか言わないでちゃんと休みますよ?ご飯とお風呂用意しますから!」

「ありがと」

「なんか、素直だと調子狂いますね!?」


 やっぱり、アクイラが一番の癒しだ。

TIPS:神聖印

祓魔(エクソシズム)守護(プロテクション)治癒(レストレーション)強化(ベネディクション)の四系統が存在する。

強化や回復はあまり派生していないが、祓魔は細かくいろんな技が存在する。

そのうち有名なものは火の玉を操るもので、これはろうそくを立てて祈っていた時にその炎で悪魔を追い払った逸話に由来する。

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