成長
ばしゃが、うごいた。
まどのそとが、うごいてる。すごい。
「ふう、なんとか馬車は動かしたっす」
「へえ、教会の馬車って乗らなくても動くのね?」
「どうせ魔術でもできるんすよね?」
えーっと、エオスとエヌマエーラ?が話してる。
ちょっとずつ、みんなが言ってることが、わかってくる。
「ライさん」
みんな、わたしのことを、ライってよんでくる。
違うのに。違うんだっけ?
ああ、なんかやりにくい。何かが、足りてない。
大きくなったら、いいのかな?
「えっ、なんかライさん大きくなってないですか?」
「……本当に大丈夫なの?この状態」
「悪魔とかの気配はしない。少なくとも、俺たち神官が相手にしなければならない敵などではないはずだ」
みんながこっちに向いてる。
視線がちょっと上を向いた。身長が、伸びた?
手を握る。手を開く。
ちょっとだけ、大きくなった気がする。
「あー、あー」
声の雰囲気は、変わったような変わってないような。
もう一度、外を見る。景色が移り変わっていく。
「……ねえ、ライやっぱり変じゃない?小さくなったにしてもさ」
むっ、なんか言われてる?
「ライさんに何か文句でもあるんですか?」
「なんで聖女様は、そこまでライに……ああ、なるほどそういう感じですか」
「別に、私も皆さんみたいにライに染められてしまってるだけですよ?」
「真顔でなんてこと言ってるんすか?」
よっ、と。ちょっとだけ立ち上がる。
文句がありそうだから、シリルの前までいく。
「えっ、な、何?」
「ふん」
抗議の意味を込めて、シリルの足に座った。
「本当に何!?」
「なんか、文句がありそうだったから」
「……文句とかじゃなくて、元のライからかけ離れすぎてるからさ。っていうか、なんで成長したの?」
「大きくなろうと思ったから」
「……そうなんだ」
なんか、呆れたような反応されてる。まだこのまま、座り込んでやるんだからね。
っていうか、元の私ってなんだろう。
そういえば、これはどういう状況?
私って、確か……えーっと。あれ。
周囲の人たちはわかる。
何かやろうとしてて、それでなんか山の中にいて。
あれ。何をしようとしてたんだっけ。
そもそも、私は何?
私って、なんなんだ?
「うわっ」
馬車が揺れた。ぐらり、と私がシリルの足元から浮いた。
「ライ!」
飛び出しそうな私の手を、シリルが掴んだ。
「大丈夫?」
「……うん」
「俺のところじゃなくて、普通に座って」
……なんで、私は。
こんな風に大切にされてるんだろう。
わからない。
私って何?
◇◇◇
「……ライさんを返してください」
「いや、勝手にこっちに来ただけでしょ。ほら、ライ。向こうに戻って」
「……うん」
むう、ライさんが勝手にシリルのところに行ってしまいました。
ライさんってば、もしかしてシリルの方が好きなんですか?
ちょっと、複雑な気分です。
ゆっくりと、ライさんが私の隣に戻ります。さっきよりも強く、私の法衣を握って。
「ねえ、ディオネ」
「なんですか?」
すっかり、発声が舌足らずな話し方ではなくなっていて、一気に成長した、ということなんでしょうか。
恩寵だったら、そういうことがあってもおかしくはないのでしょうが、どちらかというと呪いの分野なんでしょうね、この力は。
「私って、何?」
私を見上げる、ライさんの瞳がゆらりと揺れています。
「ライさん、もしかして記憶が?」
「わかんない。みんなの名前がわかるのに、私のことがわからない」
馬車の中が静まり返った。
「さっさとその、治癒局とやらに行った方が良さそうね」
「……あなたもついてくるんですか?」
「あなたを助けるために協力したのに、そういう扱いは酷くないかしら?」
「…………その件はありがとうございました」
「そんな嫌そうに感謝されることある??」
外を見ると、すっかり暗くなってしまいました。そろそろ、寝る場所を探さないと行けないですかね。
「トラウゴットは、山が続いてるだけでちゃんとした泊まる場所はないでしょうね」
トラウゴット。確か、西の方の山が続いてる場所でしたか。
それなら、さっきまでの場所にはいくつか集落があったので、そこでお世話になることもよかったかもしれないですね。
……聞いた話によれば、不要な人を穴に捨てるような場所らしいのであまり、泊まりたい気持ちにはならないですが。
あの場所、異端実体が出たけど放置でいいんでしょうかね。呪いと結び付かないと発揮しないとはいっても、それだけ強力な怨念が眠っているのに。
教会に言うと、下手するとヴァレンティナが派遣されて全部燃やされてしまうかもしれないですけども。
「……ねむい」
肩にライさんが寄りかかってきます。当たっている部分から、少しずつ熱が伝わってきて、本当にライさんと触れあっているんだなあという気持ちにはなるものの、やっぱり早く元に戻してあげたい気持ちでいっぱいです。
……これって、元に戻すって本来の場所に帰してもらうのが一番いいのでは?
正常な状態に戻るってことは、たぶん元の世界のライさんになること。カブラギミナトさんに、正式に戻ってもらうことになるはず。
――駆け落ちでもする?
いつか、夢の中で言われた言葉。
ライさんを帰せるなら、ちょっとだけついていってみたいなって思うのは、ダメでしょうか。
「今日は、ここで寝るの?」
結局、ちゃんと休むところもなかったので野宿をすることに。
短縮移動でも使えばいいのでは、と提案したかったのですが、ライさんに変な影響が出たら怖いので、とりあえず普通に移動をしているんですよね。
だから、結局は山の中で過ごさないといけないわけです。
他の人たちは、テキパキと用意をしていますが、私はライさんの相手をしています。
これを譲るわけにはいかないですから。
「ライさん、不安ですか?」
「なんか、ベッド以外で寝るのも久しぶりな気がするから」
「大丈夫、寝かせてみせます」
「えっと、お手柔らかに?」
ふふっ、と口元を緩めて笑う。
ご飯を食べているライさんも、うとうとしているライさんも、甘やかしたくなる。少し前までは甘えたかったのに。
そんなライさんを寝かせる。直ぐ様、すうすうと寝息を立てている。
「ディオネ様、代わりましょうか?」
「アクイラばっかり、ライさんのお世話をしててずるかったので嫌です」
「え、ええー……ディオネ様、ライさんのこと好きすぎません?」
「アクイラだって、好きではないんですか?」
「いやその、嫌いではないですけど。そこまでではないですよ?」
「なんですか?ライさんのことはそこまで好きになる魅力がないと?」
「いやいやいや、ディオネ様そんな厄介な感じで好きになってるんですか!?」
「冗談です」
「よ、よかったあ……」
ライさんに甘えられてるのがずるいとは思ってますけど。
一先ず、ライさんを寝かすことはできましたから。ここからでしょうか。
たまたま、イェルクと目が合います。
「ディオネ、みんなで話しておきたいことがある」
「いいですよ」
ライさんのことは本当に緊急事態だから、これから一応話し合っておかないといけないでしょう。
教会からどうするか聞いたら、あまりいい結果にはならないでしょうが、この場ではそんな人はいないでしょうしね。
アクイラに任せて、その場を後にした。
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