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壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい  作者: あまぐりムリーパー
魔王

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14/33

夢の中で泣いてる女の子を放っておかないよな

 薄暗い道を、当てもなく歩く。


 いつものように夢らしい。これも混じり合うからこそのものだろうか。


 ――うぅ……


 呻くような声が聞こえた。


 ――うっ、うぅ

 ――ごめんなさい

 ――私のせいで


 まるで、すすり泣くような声がいくつも。薄暗い中に、ぽつぽつと光のようなものが見えた。


 ディオネ、にしては少し幼い声色で、こんな辛気臭い空間をなんとなく晴らしてやろうと、鼻歌を歌う。


「――」


 歌詞もなく、ただそれらしいメロディーを、不格好ながら奏でた。


 ぴたり、とすすり泣くような、懺悔をするような声が止まった。小さな光が集まってくる。よく見ると、小さな人の形に見える気がする。


 そして、後ろをすたすたと歩く足音がする。たぶん、小さな子が付いてきているとかそういうことだと思うけど。ハーメルンの笛吹き男かよ。


 これは、小さなディオネたちがいる、みたいなことなのか?


 一通り歩き終わると、足音がぴたりと止まった。

 振り向くと、そこに居心地が悪そうに曖昧に微笑むディオネがいた。


『ライさん、こんなところまで来てしまったのですね』

「どーも。さっきの小さな子たちは何?」

『あれは、私の一部というか……ここは、色々な私がいるので』

「……どういうこと?」

『その……私の色々な感情がここでは、それぞれ形になっているので』


 周囲を見渡す。色々と小さな光が周囲に浮かび上がっている。


 もしかして、あれもそれぞれ小さなディオネなんだろうか。

 きょろきょろと見ていると、ディオネが眉を下げる。


『……あんまり見ないでほしいんですが』

「え?ごめん」


 そうか。あれがそれぞれ感情なのだとしたら、心を直に覗いてるようなものか。


 にしても、泣いてる子ばっかりだったんだけど。それは、悲しい感情ばっかりってことなんじゃないか?


 不意に、ディオネは顔を伏せた。


『……ライさん、まだ私の中にいるつもりですか?』

「そりゃ、ディオネを放っておけないし」

『……このままだと、あなたが消えてしまうとしても?』

「それは、俺とお前の魂が混じり合ってるって話?まあ、困るよな」

『ええ。そのせいで、私の深いところまで繋がってしまっているので』

「なんかいやらしいな」

『真剣に聞いてくださいっ!』


 がしっ、と俺の手をディオネが握った。掴まれた手が震えている。


『このままだと、あなたがおかしくなってしまう。その前に帰りませんか?』

「……まあ、あんまりよくないよなあ。ディオネも変になってしまうけど」

『いえ、私はそうなりません。ライさんだけが影響されます』

「えっ、マジ?」

『はい。あくまで私の体なので……なので、帰りませんか?』


 ディオネの瞳が揺れた。不安そうに、こちらを見上げている。自然と上目遣いの形になる。


 不意に、心が揺れそうになる。それを押し止めた。


「やだね」

『……やっぱり、ライさんはそういう人なんですね』


 するり、と俺の手がディオネの手から抜けた。手を離されたみたいだ。


『"夢の中で縺れないように、子どもたちを歌で先導したのです"』

「……なにそれ」

『聖典の一節、まるでさっきのあなたのことです。……そんな人が、誰かを放って帰るわけがないですよね』


 諦めたように、ポツリと呟く。


「そんな大層なことを言われても。目の前で落ち込んでる子がいたら、気になるだろ」

『……そういうところが、ダメなんです。すぐに、私の心を揺さぶってくる』


 顔を上げて、震えた瞳でこちらを見た。


「なんだよ、チョロいやつみたいに」

『……デコピンで揺らぐチョロい女に関わったのは、あなたですよ』


 そして、泣くのか笑うのかわからないまま、頬を緩めた。


「大人ってのは、ガキを慰めるもんだよ」


 視界がぼやけた。


『ずるい』


 最後に、消え入りそうな声が耳に残った。


◇◇◇


「あっ、ライさん。お寝坊なんですから」


 起きると、すぐにアクイラの声がする。ふと、顔を上げると呆れたようにこちらを見るアクイラがいた。


「おはよ」

「……おはようございます」


 警戒するように、じっとこちらを見てくる。


「えっ、何?」

「いえ、別に。早く支度してください」

「わーったよ、ねむっ」

「……ライさんなんですよね?」


 心配そうに、アクイラがこちらを覗き込んでくる。


「えっ、そうだけど?」

「じゃあ、よかったです」


 ホッと、安心したように息を吐いた。別人だと思われたのかな。


 あっ、そうか。わかったぞ。


「うん。私は大丈夫」

「……っ、ライさん?」

「はい、嘘。俺は俺でーす」

「ラーイーさーん!?」


 焦ったようなアクイラの顔に、思わず口角が上がった。アクイラは本当に、素直だな。


 ディオネも、これぐらい普通の女の子として過ごせればいいのに。


 そんな思いを胸の奥にしまって、朝の支度をすることにした。


 寝巻きから着替えて、白銀の法衣に腕を通す。


 不意に、噛みつかれた時の感覚を思い出した。

 それから、爪で体を貫通されたとき。ヴァレンティナに焼かれたとき。


 これを着るといつも、仕事で殺されたときのことを思い出してしまう。嫌な記憶だ。


 でも、そういうのが記憶に残るものだしな。


 アクイラの用意してくれた、朝御飯を食べてその気持ちを誤魔化した。


「あっ、すみません。通信です」

「……通信?」


 アクイラが胸元の何かを取って、顔に近づける。


「すみません、アクイラです。あっ、わかりました。ディオネ様ですか?ええ、起きてますけど。わかりました」


 まるで電話でもするように、一人で会話し出した後、持っている何かを胸元に戻した。


「あっ、ライさん」

「えっ、はい」

「また、仕事で来てほしいところがあるそうで――」

「いや、それよりもさっきの何?」

「えっ、通信ですけど。通信局の人からの連絡ですよ」

「……それって、遠くの人と話せるってことでいい?」

「はい。それよりも早く支度してください!」


 えっ、待って。通信あるの?


 アクイラに急かされて、なんとか支度を進める。髪を整えて、服装を確認した。

 支度をしながら、アクイラに訊ねる。


「通信局って、異端殲滅局と同じような感じなの?」

「……部局のことなので、そうですけど。そのよくわからないやつのこと出すのやめてくれません?怖いんですけど」


 皿を片付けながら、アクイラは顔をしかめる。


「なんか連絡あると、その通信局ってところから連絡が来るのか」

「例えば、上層部から直接連絡が来ることはないので、通信局を経由して来る、みたいな感じですね」

「……この世界、通信とかあるんだね。神聖印とかでできそうにないのに」

「いや、神聖印使ってるみたいですよ?」

「えっ、マジ?」

「マジです」


 神聖印には四系統しかないはずで、どれも通信にはならなさそうだけど。光を灯すやつみたいに、どれにも属さないやつがあるのかな?


 まあいいか。……まだ、仕事しないといけないの?


 魔王を倒したのに。異端実体は、あいつが作ってたんだよな?

 そもそも、どうやってできているのかわからないけど。


 そんなことを思いながら、扉を開いた。


◇◇◇


 暗い中に、蝋燭の火だけが見える。


 甲高い声が、ずっと響いていた。


「魔王はうまくいかなかったか」


 男が、ポツリと呟いた。


「異端実体は、人間の負の感情と力が結び付いた時に発生する。なら、その感情はどうすればいいか」


 ぼう、と新しく蝋燭の火が点く。火に照らされて、大きな髑髏が見えた。


「魔王だけなら、神官を倒せたが。異端殲滅官を狩るなら、違うか」


 ずるり、と大きな髑髏から影が伸びる。ゆらゆらと動くと、髑髏の顔が笑うように歪んだ。

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