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第1章:極限の降下

それは、完全なる「無」から始まった。

肌に刺さる冷気も、去りゆく生の名残である温もりも、何一つなかった。肌に触れる生地の質感も、自分を繋ぎ止める重力も、方向を示す音さえもない。完璧で、恐ろしいほどの感覚の空白。触覚も、知覚も、肉体を持っているという自覚さえも――すべてが、ただの「無」だった。

最後に記憶している光景は、この静かな虚無にふさわしいものではなかった。耳をつんざくエアホーンの音。濡れたアスファルトを掴み損ねたタイヤの悲鳴。そして、一瞬で私の存在を終わらせた巨大なトラックの、圧倒的な金属の質量。私は死んだのだ。それだけは理解していた。

その時、暗闇が弾けた。

目の前で白い光が点火した。最初は遠くの針穴のような光だったが、それは暴力的な激しさで膨れ上がった。存在しないはずの瞼を固く閉じていても、その輝きはあまりに強烈で、網膜を真っ赤に、そして純白に焼き付かせた。

死の重い倦怠感に抗いながら、私はゆっくりと目を開けた。

果てしない白の虚無の中に、一つの画面が浮いていた。それはビデオゲームのホログラム投影のようで、幽かなエーテルの唸りを上げて脈動していた。一番上には、太い黒文字で一言だけ記されていた。

難易度選択(DIFFICULTY)

その下には四つの選択肢が並び、それぞれが独自のオーラを放っていた。

【 ピースフル 】 — 誘いかけるような穏やかな緑。

【 イージー 】 — 落ち着いた静かな青。

【 ノーマル 】 — 中立的な輝きの黄色。

【 エクストリーム 】 — ギザギザとした暴力的な深紅。

私は浮遊する文字を見つめた。これは幻覚だろうか? と思った。死にゆく脳のシナプスが、死後の世界へ昇る際に見せている最後の悪あがきか? 馬鹿げているとは思ったが、【 ピースフル 】の緑色の輝きが私を呼んでいた。唐突で暴力的な生の終焉を終えた今、私が求めていたのは休息だけだった。静かで、痛みのない永遠の中で眠りたかった。

私は実体のない腕を突き出し、指先を真っ直ぐ「ピースフル」の文字へと向けた。

だが、指が触れることはなかった。

私の指が緑の文字を掠める直前、隣に冷ややかな圧力が突如として現れた。誰か――あるいは「何か」が、そこにいた。振り向いて確認することはできなかったが、その圧倒的な存在感だけは肌で感じた。影のような触手が、立ち昇る煙を纏いながら私の肩越しに突き出された。

それは上位三つの選択肢を完全に無視し、画面の最下部を乱暴に叩きつけた。

【 エクストリーム 】が選択されました。

降下準備を開始します。

それが何なのか、誰なのかは分からなかった。そして奇妙なことに……私は気にしていなかった。いや、「気にすることができなかった」のだ。

その瞬間、自分の感情が完全に封印されていることに気づいた。パニックが湧き上がることも、憤怒の声を上げることも、鼓動が速まることもない。恐怖という生物学的メカニズムが、私から剥ぎ取られていた。私はただ、無表情に、感覚のないまま、その影がまばゆい光の中に消えていくのを見ていた。残されたのは、確定された選択を示す血のような赤色の輝きだけだった。

白い虚無が、ガラスのように砕け散った。

突如として、私は落下していた。無感覚は一瞬にして、轟々と鳴り響く風の奔流へと変わった。理解不能な速度で宇宙を突き抜け、私は急降下した。眼下には、見慣れた青と緑の地球が急速に広がっていく。流星のごとく大気圏を突き破り、雲を切り裂いていく。

地面が迫る。森、山、都市が、一つの硬い大地へと混ざり合っていく。衝撃を覚悟したが、私はそのまま表面を通り抜けた。

幽霊が壁をすり抜けるように、私は地殻を突破した。だが、勢いは止まらない。さらに深く、引きずり込まれていく。岩盤を抜け、うねるマントルを、そして燃え盛る核を通り過ぎた。惑星の物理的な境界を超え、まったく別の次元へと足を踏み入れていた。

猛烈な闇の先に待っていたのは、窒息しそうなほどの圧倒的な熱気だった。周囲の空は地底の暗闇から、灰と残り火に覆われた終わりのない「痣」のような色へと変わった。黒い黒曜石の峰々が地平線を貫き、溶岩の河が荒廃した大地に輝く傷跡を刻んでいる。空気は硫黄と腐敗の臭いで充満していた。

凄まじい勢いであった降下がようやく緩やかになり、私の目的地の正体が明らかになった。

あの存在は、ただ「極限」の難易度を選んだだけではなかった。私を宇宙の最底辺へと放り込んだのだ。

魔族の領土。――「地獄」へと。


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