インフルエンサーの私が平安転生! 現代のバズらせ術で清少納言と紫式部をプロデュースしたら、宮中の「いいね(をかし)」が止まりません
スマホ一台で流行を作る、フォロワー三十万人のインフルエンサー。
そんな私が転生したのは、よりによって千年前の平安時代!?
電波もWi-Fiもないけれど、そこは「噂」と「文」が飛び交う、超アナログな物理SNSの世界だった。
意識高い系エッセイストの清少納言に、陰キャな長編ブロガーの紫式部。
誰もが知る文学界の天才たちを相手に、現代の「バズらせ術」と「プロデュース力」は通用するのか。
平安のタイムラインを「いとをかし(いいね!)」で埋め尽くす、雅な異世界無双コメディ、開幕です!
フォロワー数、三十万人。
それが、私が東京で築き上げた「戦闘力」だった。
映えるカフェ、匂わせ投稿、絶妙な画角の自撮り。スマホ一台で流行を操っていたはずの私は、気づけば千年前の京都——平安京のド真ん中に立っていた。
しかも、中宮定子様に仕える女房として。
「……ここ、Wi-Fi飛んでないどころか、電波すら圏外なんですけど」
私は豪華な十二単の袖をいじりながら、深くため息をついた。手元にスマホはない。あるのは筆と墨、そして質のいい料紙だけ。だが、数日過ごして気づいたことがある。
この平安京という場所、実は「物理的なSNS」なのだ。
誰がどんな服を着ていた、あの人の和歌はセンスがない……情報はすべて「噂(口コミ)」と「文」で拡散される。そして、そのタイムラインを支配しているトップインフルエンサーが、私のすぐ隣にいた。
「ねえ、あなた。そんなところで何を呆けているの? 冬はつとめて、って言うでしょう? 雪が降っている朝こそ、一番エモい……じゃなくて、趣があるのよ」
さらりと扇で顔を隠し、勝ち誇ったような笑みを浮かべる美女。清少納言。
随筆『枕草子』で平安のトレンドを定義し、圧倒的なインプレッションを稼ぎ出す、この時代の「言葉の魔術師」だ。彼女の投稿は鋭い。現代のXで万バズを連発するタイプだ。
(……負けてられない。こっちは令和の戦場を生き抜いてきたインフルエンサーなのよ)
私は筆を執った。清少納言のような「意識高い系」の鋭さではなく、もっと大衆の心に刺さる、圧倒的な「共感性」と「ライフハック」で勝負してやる。
『お香の匂いを三倍長持ちさせる裏技と、意中の殿方を沼らせる扇の仰ぎ方——』
ターゲットは、宮中で働く名もなき女房たち。彼女たちが一番知りたいのは、高尚な文学じゃない。明日から使える「自分磨き」と「恋の駆け引き」だ。私はその紙を、わざと人通りの多い廊下に「落とした」。SNSでいうところの「ハッシュタグ拡散」の仕込みである。
数時間後。宮中のあちこちから「いとをかし!」「これ、マジで使える!」という声が上がり始めた。私の書いた「ライフハック集」が、手書きのコピー(写本)となって、爆発的な勢いで拡散されていく。
「……なにあれ。私の『枕草子』より、みんな熱心に読んでない?」
清少納言が、初めて眉をひそめてこちらを見た。よし、通知欄(噂話)が止まらない。
平安時代のインフルエンサー・バトル。まずは、清少納言のタイムラインに「おすすめ」として割り込むことに成功したみたい。だが、私の快進撃はここで終わらなかった。
◆◆◆
私の「平安ライフハック」は、一夜にして後宮のトレンドを塗り替えた。清少納言が「冬はつとめて(早朝が最高!)」と意識高い投稿をしている横で、私は「朝起きられない女子のための、崩れない化粧直し術」を流したのだ。結果は明白。実用性を求める女房たちが、こぞって私の部屋に押し寄せた。
だが、このバズり方には副作用がある。……そう、「アンチ」と「クソリプ」だ。
「……浅ましい。実に、浅ましいことですわ」
御簾の奥から、冷たい氷のような声が響いた。そこにいたのは、清少納言とは対極のオーラを纏った女性。紫式部。のちに世界最古の長編小説『源氏物語』を書き上げる、平安文学界の「重課金勢」にして「長文ブロガー」の頂点だ。
彼女は私の書いたライフハック集を、指先でつまんでゴミのように眺めている。
「物語というものは、魂を削り、長い時間をかけて紡ぐもの。それを、このような数行の言葉で人心を惑わすなど……インフルエンサー? 存じ上げませんが、ただの『一発屋』とお見受けします」
うわ、キツい。清少納言が「性格のきついTwitter民」なら、紫式部は「論破してくる湿度の高いブロガー」だ。
「式部様。確かにこれは刹那的なものかもしれません。でも、今の読者が求めているのは、今すぐ救われる言葉なんです。三〇帖も読まないと結末がわからない話も素敵ですが、離脱率(あきる人)も高いんじゃないですか?」
「りだつ……? 意味は分かりませんが、不愉快です」
紫式部はふいっと顔を背け、執筆中の分厚い紙束を抱え込んだ。彼女が書いているのは、光り輝く御子の愛憎劇。現代でいうところの「超大作連載」だ。圧倒的な世界観。緻密な心理描写。正直、コンテンツの質としては勝負にならない。彼女はガチの「天才」なのだ。
でも、私にはインフルエンサーとしての「戦い方」がある。ただ文章を書くだけじゃない。読者が何を読みたがっているか、その「熱量」を可視化する技術だ。
「式部様、その物語……もしよかったら、私が『プロデュース』しましょうか?」
「ぷろでゅー……? 結構です。私は一人で書くと決めております」
「勿体ないですよ。あなたの書く『光源氏』は最高に顔が良い(尊い)のに、ターゲット層へのアピールが足りてません。もっと『推し』としての魅力を前面に出して、定期的にファンミーティングを開けば……」
私は、彼女の作品を「ただの読み物」から「IP(知的財産)コンテンツ」へと昇華させるプランを脳内で練り始めた。具体的には、物語の名シーンを絵師に描かせて「ビジュアル展開」し、続きが気になるポイントで「次回の更新は来月の満月の夜!」とカウントダウンを仕掛けるのだ。
紫式部は「バカバカしい」と言いたげな顔をしたが、私が語る「読者の熱狂」という言葉に、わずかに筆を止めた。
清少納言の「日常の切り取り」と、紫式部の「壮大なフィクション」。その間に、現代の「プロデュース力」をねじ込む。平安時代の文壇が、私のせいでめちゃくちゃになり始めていた。
◆◆◆
そして、平安京のタイムライン(噂話)が、私の仕掛けた「告知」で埋め尽くされる日がやってきた。
「今度の満月の夜、清少納言様と紫式部様の『コラボ新作』が発表されるらしいわよ」
「しかも、中宮様だけでなく、帝もご覧になるとか……!」
拡散力でフォロワーを増やし、プロデュース力で「期待値」を最大まで高めた。現代でいうところの「大型リアルイベント」の開催だ。
会場となる殿には、最新の「演出」を施した。ただ紙を配るんじゃない。腕利きの絵師たちを集め、物語の名シーンを巨大な屏風に描かせた「ビジュアルボード」。そして、物語のイメージに合わせた香を焚き、最高のBGM(雅楽)をライブ演奏させる。
「……何よ、この大掛かりな仕掛け。私の随筆、ただの紙きれに見えちゃうじゃない」
清少納言が、呆れたように、でもどこかワクワクした顔で呟く。
「式部様も、準備はいいですか? あなたの『源氏物語』、第1話を一番美味しいところで止める『引き(クリフハンガー)』、バッチリ仕込んでありますから」
「……恐ろしい人。読者が続きを読みたくて、私の部屋に押し寄せる未来が見えますわ」
紫式部は、覚悟を決めたように筆を置いた。
イベントが始まると、そこは熱狂の渦だった。清少納言のキレッキレな「あるあるネタ」に宮中が爆笑し、紫式部の「切ない恋模様」に帝までもが涙する。
私はその光景を、御簾の陰から満足げに眺めていた。二人の才能は、もともと本物だった。私はただ、それを「今の時代(平安)」に最適化した形で「バズらせた」だけ。
イベントのクライマックス。帝から「これほどの雅な興じ、誰が仕組んだのか」と声がかかった。
「……ただの、通りすがりのインフルエンサーでございます」
私はそう答え、そっと会場を後にした。
数日後。平安京のトレンドは、私の「ライフハック」から、二人の「新作」へと完全に移行していた。私のフォロワー(支持者)は減ったかもしれない。でも、これでいい。
手元の料紙に、私は最後の一文を書き記した。
『【速報】清少納言と紫式部、実は仲が良い説。現場からお伝えしました』
嘘か本当かは、千年後の未来が決めることだ。スマホはない。いいね!の通知も届かない。けれど、風に乗って聞こえてくる「いとをかし!」という歓声が、私にとって最高のエンゲージメントだった。
平安インフルエンサー、これにて完結。
……次は、誰をプロデュースしようかな?
(完)
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
もし「面白い」「続きが読みたい」と思っていただけましたら、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価をお願いいたします。
執筆の励みになります。




