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精算屋リコルヘイズの執行官〜シャドウ・コレクターの憂鬱〜  作者: 弌黑流人


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第八話 黒い羽の追跡者②

 「九条さん、危ない!」


 リコの叫びと同時に、セーラの足元から漆黒の刃が噴出した。それは影を物理的な「剛剣」へと変質させたもので、九条が数秒前まで立っていたコンクリートの床を容易く両断した。

 九条は空中を舞い、倉庫の鉄骨に着地する。


 「相変わらず、挨拶が荒いな。セーラ」

 「ふふ、お互い様でしょう? あなたが法の名の下に奪ってきた影たちが、地獄で泣いているわよ。……今は、私たちがその影を正しく『運用』してあげているの」


 セーラが指先を振ると、彼女の背後から巨大な鴉の翼を模した影が広がり、無数の黒い羽となって九条を襲う。その一枚一枚が、対象の影を切り刻み、存在を希薄にする呪いの礫だった。


 「リコ、解析を急げ! 彼女の影の『核』がどこにあるか特定するんだ」


 九条は銀色のデバイスを展開し、飛来する羽を電子の防壁で弾き飛ばしながら指示を飛ばす。


 「やってます! でも九条さん、彼女の波形は九条さんと同じで、常に複数の位相に影を分散させてます。あと一分あれば……いえ、できるリコなら、三十秒でやってみせます!」


 リコのキーを叩く音が、インカムを通じて激しいリズムで響いてくる。


 「九条さん、右から三番目の羽が『親』です! それを叩けば、同期が乱れます!」

 「了解だ。……やはりリコは頼りになる」


 九条は鉄骨を蹴り、弾丸のような速度で突進した。セーラが放った無数の羽の隙間を、ミリ単位で見切りながら潜り抜ける。九条の手元で、影が一本の鋭い杭へと収束し、リコが指摘した「親」の羽を正確に貫いた。

 不快な音と共に、セーラの翼が霧散し、彼女の動きが一瞬止まる。


 「……やるわね。でも、今日はここまでよ。執行官一号」


 セーラは口角を上げると、足元から湧き出した闇に自身の身体を沈めていった。


 「私たちは、あなたの過去をすべて買い取るつもりよ。……また会いましょう」

 「待て!」


 九条が手を伸ばしたが、闇は既に消え、倉庫には静寂と潮騒の音だけが残された。


 「……九条さん、大丈夫ですか? 逃げられちゃいましたけど、彼女の端末から面白いデータを一つ掠め取っておきましたよ」


 リコの声には、悔しさよりも確かな手応えが混じっていた。


 「彼女が言っていた『過去』……。九条さん、リコには隠し事なしで教えてくれますよね?」


 九条は静かに万年筆を懐に収め、闇の消えた場所を見つめた。


 「……ああ。いつか、リコには話さなくてはならないだろうな。僕がかつて『徴税人』に何を差し押さえられたのかを」


 「影の波形が九条さんとソックリだなんて、リコの端末が壊れたのかと思っちゃいましたよ。……でも、彼女のデータを少しだけ覗き見しちゃいました。九条さんの隠し事、リコが全部デバッグして差し上げますからね! その代わり、今日は怖かった分、最高級のドーナツでお口直しさせてください!」  ―リコ―

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