第七話 黒い羽の追跡者①
「かつての同胞が敵に回ったところで、僕のやるべきことは変わらない。……その黒いドレスごと、正しく清算してあげよう」 ―九条―
「九条さん、昨日の『鴉の紋章』についてリコなりに調べてみたんですけど……」
事務所のメインモニターに、これまでの事件で押収したデータが次々と羅列されていく。リコは椅子をくるりと回転させ、手元のタブレットを九条に向けた。
「これ、単なる仲介者のマークじゃないみたいです。闇のネットワークで『徴税人』って呼ばれている組織の刻印でした。彼ら、ただ影を奪うだけじゃなくて、奪った影を熟成させて『特別な力』に変えてるみたいなんです」
九条は窓の外、小雨が降り始めた街を見つめながら、静かに指を組んだ。
「徴税人、か。相変わらず悪趣味な名前を名乗っているな。……リコ、奴らの拠点の候補は絞り込めているか」
「リコを誰だと思ってるんですか。あの紋章が使われていた通信プロトコルを逆探知して、すでに一箇所、怪しいダミー会社を特定済みです。場所はベイエリアの廃倉庫街。でも、そこにはリコのハッキングでも崩せない、強力なデジタル障壁が張られてます」
リコは少し悔しそうに頬を膨らませたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「だから、物理的に乗り込んで直接サーバーを叩くしかない。……九条さんの出番ってことですよ」
一時間後。潮の香りと鉄錆の匂いが混じる倉庫街に、九条のコートが翻った。
「リコ、通信状況はどうだ」
「良好です。でも気をつけて。リコのセンサーに、今までとは比べ物にならないくらい濃い影の反応が出てます。これ、影取鬼なんてレベルじゃありません。……まるで、誰かが意図的に練り上げた『兵器』みたいな反応です」
倉庫の重い扉の前に立つと、そこにはあの鴉の紋章が刻まれたプレートが掲げられていた。
九条が手を触れようとした瞬間、扉が内側から爆発するように弾け飛んだ。
煙の中から現れたのは、影で編み上げたような黒いドレスを纏った、一人の女だった。
「あら。ようやく来たのね、九条。……いえ、『執行官一号』と呼んだ方がいいかしら?」
女の瞳は、九条と同じ冷徹な光を宿していた。
インカム越しに、リコの息を呑む音が聞こえる。
「九条さん、この人……。影の波形が、九条さんとほぼ同じです……!」
「久しぶりだな、セーラ。君が徴税人の犬に成り下がっていたとは」
九条は静かに構えを取り、足元の影を鋭く研ぎ澄ませた。




