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シャドウ・コレクターの憂鬱 〜鏡のなかに、誰も立っていない〜  作者: 弌黑流人


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第四話 消えた放課後の足音②

 「三、二、一……九条さん、右です!」


 リコの鋭い声が響くと同時に、多脚の影から放たれた衝撃波が廊下の窓ガラスを激しく震わせた。それは音を物理的な質量へと変換した不可視の弾丸だった。

 九条は紙一重でそれをかわすと、手にした銀色のデバイスを宙に放り投げた。デバイスは空中で静止し、リコの遠隔操作によって無数のレーザーを放射する。


 「計算通りです。奴の足音の波形、すべてキャンセリングしました! 今なら実体がスカスカですよ!」


 タブレットを叩くリコの指が、夕闇の中でダンスを踊るように軽やかに動く。


 「上出来だ、リコ。……さて、多すぎる足取りを整理してやるとしよう」


 九条は一気に間合いを詰めると、影取鬼の懐に潜り込んだ。彼の足元から伸びた影が巨大なハサミのような形に変貌し、多脚の怪異が不当に連結させていた余分な足を次々と断ち切っていく。

 断裂するたびに、廊下には生徒たちの笑い声や、走り回るような軽快な足音が溢れ出した。


 「ぎ、ぎゃあああ! 俺の……俺のコレクションが!」


 怪異が苦悶の声を上げるが、九条の視線に慈悲はない。


 「コレクションだと? これは持ち主たちが明日を歩むために必要な資産だ。返却期限はとうに過ぎている」


 九条が右手を高く掲げると、廊下のグリッド線が収束し、怪異の核を貫いた。


 「強制執行完了。……リコ、飛散した足音のデータをすべて回収しろ。一つでも欠ければ、彼らの歩調が乱れてしまう」

 「了解です! バックアップ機能、フル稼働中! ……ふぅ、全部キャッチしました。これで明日には、入院してた生徒たちも元気に登校できますね」


 怪異は霧のように消え去り、廊下には再び静かな放課後の空気が戻ってきた。


 「九条さん、見てください。リコの計算だと、今回の報酬で新しい解析用サーバーが買えそうです」

 「……僕のコーヒー豆の予算を削らなければ、という条件付きだがな」


 二人は、ようやく穏やかになった夕暮れの校舎を後にした。校門を出る際、リコはふと立ち止まって校舎を振り返った。


 「九条さん、リコは思いました。学校って、思い出だけじゃなくて影もたくさん作るところなんですね。だから、怪異に狙われやすいのかも」

 「思い出も影も、等しくその人間の歴史だ。勝手に切り取っていいものではないさ」


 九条はそう言って、リコの頭を軽く叩いた。


 「さあ、帰るぞ。夜食はリクエストを聞こう。報酬の範囲内なら、だがね」

 「やった! 特大のピザが食べたいです!」


 「学校は影と思い出の宝庫ですから。リコが守った分、報酬はピザのトッピング全乗せでお願いします! もちろん、九条さんの自腹で!」  ―リコ―

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