第三十二話 白銀と漆黒の共鳴
レヴィアの本拠地、『中央精算塔』。そこは現実と仮想の境界が曖昧になった、情報の深淵だ。数百万人の影が幾重にも重なり合い、絶え間ないノイズと悲鳴が壁の中から染み出している。それは、奪われた人々の人生が正当な行き場を失い、腐敗し始めた「この世の地獄」そのものだった。
「侵入者確認! 防衛プログラム、起動します! 九条さん、セーラさん、正面から来ますよ!」
事務所に残ったリコの叫びが、二人の通信機に響く。彼女の指先は、すでにレヴィアの外壁サーバーを焼き切り、二人のために「光の道」を構築していた。
次々と現れる影の番犬たち。それに対し、九条の銀の万年筆が白銀の軌跡を描き、影の結び目を解いていく。同時に、セーラの漆黒の銃弾が、実体化した悪意の核を正確に射抜いていく。
かつて同じ場所で背中を預け合った二人の連係には、一分の隙もなかった。言葉を交わす必要さえない。九条が踏み込めばセーラが援護し、セーラが装填すれば九条が敵を退ける。その動作は、峻厳な舞踏のように美しく、そして苛烈だった。
「セーラさん、今です! 塔の第三階層、影の回路(Shadow Circuit)の分岐点にリコがパッチを当てました! そこからなら、中央制御室まで一気にハッキングを流し込めます!」
リコの支援によって、鉄壁を誇ったレヴィアの防衛システムが次々と崩壊していく。二人はついに、塔の最深部へと到達した。そこにあったのは、巨大なクリスタルのような形状をした『影の電池』。人々の大切な記憶を物理的なエネルギーへと変換し、永久に回し続ける非人道的な永久機関が、脈動するように不気味な紫色の光を放っていた。
「これを壊せば、徴税人としての君の居場所は完全になくなる。いいのか、セーラ」
「……居場所なんて、とっくに捨てたわ。私が欲しかったのは、こんな凍りついた記憶の山じゃない。九条、あなたの『清算』を、私に見せて」
九条は銀の万年筆を強く握り締め、そのペン先に魂のすべてを込めた。セーラもまた、最後の一弾を機関の核へと向ける。二人の目的はただ一つ。この不当な徴収という名の略奪に、永劫の終わりを告げることだった。




