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精算屋リコルヘイズの執行官〜シャドウ・コレクターの憂鬱〜  作者: 弌黑流人


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第二十八話 白紙の絵本と黒い執筆者③

 九条が手にする銀の万年筆から溢れ出した白銀のインクと、絵本の深淵から絶え間なく湧き出す漆黒の闇が、白紙のページの上で激しく衝突した。静かな事務所の中に、まるで高圧電流が弾けるような鋭い放電音が響き渡り、火花が散る。


 白銀と漆黒――二つの相反する意志が、少女の魂という名のキャンバスを奪い合い、猛烈な渦を巻いていた。


 「いっけぇえええ! 徴税人のクソッタレなバッドエンド、リコが全部デバッグして消去デリートしてあげます!」


 リコの叫びと共に、彼女の指先が最後の一打をキーボードに叩きつけた。その瞬間、絵本の背後に張り巡らされていた『徴税人レヴィア』の監視プログラムが、耐えきれない過負荷によって悲鳴のようなノイズを上げ、木っ端微塵に四散した。強固なプロテクトが消失し、物語の主導権は完全に精算屋の手へと移る。


 九条は、激しく揺れるページを左手で押さえつけ、迷いのない流麗な筆致で銀のペン先を走らせた。


 彼が綴るのは、徴税人が押し付けた残酷な結末ではない。少女が幼い日に描き、過酷な現実の中でいつしか手放してしまった、温かく輝かしい「希望」の続きだった。銀の文字が刻まれるたび、ページを汚していた黒いシミが光に焼かれ、本来あるべき色彩豊かな挿絵が次々と蘇っていく。


 「物語の結末は、他人に決められるものではない。……精算は完了だ」


 九条が最後の一文字を力強く刻み終えた瞬間、事務所を埋め尽くしていたどろりとした闇は、耐えきれなくなったかのように一気に霧散した。


 それはやがて、朝露のように澄んだ光の粒子へと姿を変え、導かれるようにして少女の胸元へと吸い込まれていく。少女を縛り付けていた影のかせは消失し、彼女の頬には健康的な赤みが戻り始めた。


 窓の外では、夜の終わりを告げる淡い群青色が広がり、やがて黄金色の朝日が差し込んできた。精算屋リコルヘイズの応接ソファでは、少女がかつての悪夢を忘れたかのような、穏やかで安らかな寝息を立てて眠っている。


 「ふぅ……。せっかく補給したドーナツのカロリー、全部使い果たしちゃいましたよ。もう脳みそがガス欠寸前です」


 リコは、精根尽き果てた様子で高機能チェアの背もたれに深く沈み込んだ。彼女の膝の上には、もはや禍々しい闇の気配を完全に失い、色彩豊かな絵が戻った「物語の続き」がある。九条は、眩しい朝日が照らす静かな街並みを見つめ、熱を持った銀の万年筆を懐にゆっくりと収めた。


 「レヴィアは、子供の純粋な夢さえも熟成の種として利用するつもりか。奴らのやり方は、以前にも増して苛烈になっている……。リコ、朝食の準備ができ次第、すぐに次の調査に移る。この絵本の出所を叩くぞ」

 「ええーっ! 九条さん、少しは休ませてくださいよー! ブラック企業どころか、これじゃ『影の強制労働』じゃないですか!」


 リコの威勢の良い、しかしどこか楽しげな抗議の声が、新しい一日が始まった事務所に明るく響き渡った。


第二十八話 とある行間の声


 「(……はぁー、終わったぁ! 最後のエンターキー、リコの指が壊れるかと思うくらい気合入れちゃいましたよ。でも見てください、あの絵本の挿絵。闇に侵食されてた時とは比べものにならないくらい、キラキラしてて本当に綺麗。……九条さんのあの流れるような執筆姿も、まあ、少しだけ見直してあげてもいいです。……って、ええっ!? 朝食後にすぐ次の調査!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ。リコの脳内メモリは今、完全に空き容量ゼロの赤色灯が点滅中なんです! 少なくとも、おかわりドーナツの補給くらい認めてくれないと、今度こそ事務所の床でリコがバッドエンドを迎えることになりますからね!)」   ―リコ―

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