表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精算屋リコルヘイズの執行官〜シャドウ・コレクターの憂鬱〜  作者: 弌黑流人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/33

第十九話 レテに降る白銀のインク①

 「この白銀は、君が奪った『輝き』の総量だ。……一滴残らず、元の持ち主へ還そう」   ―九条―

 九条が手にした銀の万年筆から、一滴の雫が灰色の地面へと滴り落ちた。それはこれまでの「影墨」のような粘りつく闇ではなく、夜空に瞬く星を溶かしたかのような、澄み渡る白銀の輝きを放っていた。


 その雫が地面に触れた瞬間、周囲を覆っていた灰色の砂が波紋のように浄化され、乾いた記録の檻に鮮やかな色彩が、あるいは「感情」という名の熱量が灯り始める。


 「な、何だ……その光は! レテに、不純物を持ち込むな!」


 記録官が悲鳴を上げ、崩壊しつつある帳簿を掲げた。彼が羽ペンを乱暴に振るうと、周囲の書類棚から数万枚のページが剥がれ落ち、九条を押し潰そうと巨大な情報の津波となって押し寄せる。それは、この場所に沈殿した数多の「忘れ去られた絶望」の総体だった。


 「九条さん、正面からまともに受けちゃダメです! その波は、触れるだけで存在を『無』に書き換える概念の暴力です!」


 背後のリコが警告を叫ぶ。しかし、九条は一歩も引かなかった。彼は静かに銀の万年筆を構え、虚空に向かって鋭く、流麗な一閃を描いた。


 ペン先から解き放たれた白銀のインクは、空中で幾何学的な光の軌跡を形成し、押し寄せる闇の津波を真っ向から切り裂いた。切り裂かれた闇は霧散するのではなく、一編の詩や、懐かしい歌のような「意味のある物語」へと昇華され、レテの空へと還っていく。


 「記録官。君が管理していたのは記憶ではない。ただの『抜け殻』だ」


 九条の声は、レテの冷たい風を凪がせるほどに静かで、重い。


 「痛みも、喜びも伴わない記録に価値はない。僕が今ここで執行するのは、君が積み上げてきた虚飾の清算だ」


 九条の影が、白銀の光を纏って巨大に膨れ上がる。それはもはや一方的に奪われるだけの「資産」ではなく、正しく過去を背負い、未来を切り拓くための「盾」へと変質していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ