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序章 桜咲きー。

朝、アラームの音と共に目覚めた。

壁にかかったカレンダーに目をやると今日の日付に丸印が付いている。

「そういえば今日だったな。」

今日4月12日は高校の入学式。天気はそれに相応しいとされる快晴だ。

眠い目を擦りベットから出て、新調した制服に着替える。新しい服は妙に着づらい。

「翔太ー!早く降りて来なさーい。朝ごはんできてるわよー!」

いつもより声量が大きい。

「今行くよー、母さん。」

階段をおりて、席につく。

「じゃーん!限定生産の桜味のジャム、いい値段したのよ。」

「おお、いいな、父さんにも使わせてくれ。」

「翔太の後にね、翔太のために買ってきたんだから。」

「おお、めっちゃうまそうじゃん。ありがとう母さん。」

いつも通り、満面に偽りの笑みを装いながらお礼をいう。

朝食を食べ終わり、身支度を済ませて靴紐を結ぶ。

「入学式頑張ってね。私たちも後から行くから。」

「うん!行ってきます。」

そう言いながら玄関の取手に手を掛ける。


新しく通う高校は全国でも有数の学力を誇る名門校で相当な歴史があるが、今年の春に改修工事を行ったらしく校舎は綺麗なようだ。

この高校を選んだのは、家から自転車で10分とアクセスの良さの部分が大きい。中3の夏になってもどこの高校のも興味は持てなかったため、家から近い高校を適当に調べた。あとは、レベルの高いところに合格すれば少しは歓喜の感情が湧くかもしれないと思ったからだ。

俺は人より感情が薄いらしい。それもひじょーに。幼稚園に入園して間もない頃、「しょうた、なんであんなに感情の起伏がないのかしら。笑顔を見せないのよ。私といるの楽しくないのかも。」と頬に涙を伝わせながら嘆く母とそれを暗い顔で宥める父の姿を扉の隙間越しに見てしまった。いくら幼子といえど両親が何を悲しんでいるかくらいは理解したのだろう、次の日からはなんとも思えなくてもちょっとしたことで笑うようにしていたと思う。

だから、難関高合格で自分を変えられるかもしれないと勉強に専念した。でも、15年もどうにもならなかったものがそう簡単に変わるわけもなく、そんな淡い期待は合格掲示板の前でこぼした白い吐息とともに風に吹かれて消えてしまった。もうどうにもならないんだろうな、という思いだけが身を覆っていた。


そんなことを考えているとあっという間に校門についた。

先生らしき人に挨拶をして自転車を押しながら、花飾りで彩られた大きなタテカンに目をやって、校門をくぐった。

新入生入場の放送とともに体育館に入り、並べられたパイプ椅子に腰を落とす。点呼、新入生代表挨拶、在校生代表挨拶、その他諸々を行い入学式は終わった。校長の話が長いというのはどこの学校でも共通みたいだ。

入学式が終わったあとは各クラスでホームルームが行われた。1人ずつ自己紹介を行い自分の番になる。「夏野 翔太です。運動したり漫画読んだりするのが好きです。部活は何に入るかまだ決めてません。よろしく!」

少しだけ明るさを出し、当たり障りのない自己紹介をする。夏野という名字は好きだ。自己紹介の内容は前の人たちに合わせてやれば違和感をもたれないから。「冬川 紬さんは今日は欠席していますので次は…」と担任の先生が言う。式の点呼の時も思ったが入学早々休むのはいい印象が持てない。

その後、資料配布や「中学校は部活何やってたの?」とか「漫画、俺も好きなんだ。最近ハマってるやつとかある?」とか新しいクラスメイトたちと少し会話してこの日のホームルームは終わった。明日からはもう授業が始まるそうで予習の課題も渡された。


「疲れた。」

ため息と共に自然と口からこぼれる。どこかで少し休んでから帰ろう、と思って座れる場所を探していると中庭らしき広い場所を見つけた。中央には立派な桜の木が立っていて、それを囲うように根本に円状の椅子が設置されている。今年は例年に比べて遅咲きらしく、この桜も蕾は多くあるが開花しているものは少ない。あそこに座ろう、と思いながら近づいて行くと、先客がいたようで木の裏側に人が座っていた。その足元にはピンク色のハンカチが落ちている。

本日2度目のため息を放ちながらハンカチを拾い上げてその人の方を向く。

「これ、落としてま…」

思わず息を飲んでしまった。華奢な体に端正な顔立ち、肌は雪のように白く透き通っていて、力強い桜の幹と青い芝がその存在をさらに際立たせていた。花のリボンを胸につけているから同じ新入生だろう。本人は寝ているようでまるでこちらに気づいていない。もう一度さっきより声量を上げて声をかけてみる。

「これ落としてますよ。」

「は、はい!えっと…」

凛とした瞳がこちらを向いた。

「ハンカチ、落としてましたよ」

「ほんとだ、ありがとう。」

「いえいえ、気にしないでください。」

「ふふっ、なんでそんなにかしこまってるの。」

「失礼がないようにって。」

初対面だからだろ、と思いながらも丁寧に返す

「いいよ、気にしなくて。同級生なんだし。私、冬川 紬。あなたは名前なんていうの?」

「夏野 翔太。 冬川さん…ああ、今日休んでた。クラス同じだよ、よろしく」

「ええ!クラス同じなんだ。よろしく!あと紬でいいから。つむぎんとかでもいいよ。」

同じ喜の感情を表しているはずなのに彼女の表情は毎秒変わっている。心の底から人生を楽しんでそうで少し羨ましく思えた。

「紬って呼ぶよ。今日の分の資料とか課題とか机の中に入ってると思うよ。」

「え、もう課題とかあるのか、さすが名門。あ、うんそれを取りに来たんだけどまだ教室に残っている人がいたら気まずいし、ある程度の人が帰ってから行こうと思って待ってたんだけど気づいたら寝ちゃってて。だから起こしてくれて助かりました。」

「お役に立てたなら何より。じゃ俺もそろそろ帰ろうかな。」

「うん、また明日ね。バイバイ。」

満面の笑みをこちらに向けて手を振ってくる。こちらも軽く手を振って自転車置き場に向かった。休むという本来の目的は達成できなかったが、まあいいだろう。

帰り道の桜は不思議と一段美しく咲いていた。

この度は「ココロノカタチ」序章を読んでくださりありがとうございます。

今後の改善のためにコメントなどをしてくださると嬉しいです。

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