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世紀末美食伝説ムラサキ  作者: 白洲柿人


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第3話

11月18日 公開分(1/2)

本日1話目の更新です。

第3話「出店(でみせ)


 まだ西歴と呼ばれた時代。

 文字通り世界を巻き込んだ大戦が、この世の文化のすべてを焼滅せしめた。


 復興のため遮二無二はたらく理系達は、当然の対価を求めた。


 それすなわち、地位の向上。




 ――世界の『大崩壊』から百年。


 人々の努力と幾許かの奇跡により、文明の再興は成った。


 しかし、重要度が低いと見做された文化の再現は遅れ、時に見下され、その連続性を絶たれていった。

 伝統芸能、スポーツ、そして美食――


 世紀末美食伝説。


 それは、人の世の闇暴くパラダイムシフト。






 世紀末美食伝説 ムラサキ、前回までは――


「…………木野銀侍(ギンジ)と言う」


「――ムラサキ」


 ムラサキの前に現れる第二の刺客! 体よく誘導された彼は、目利き対決に挑むこととなった!


「って、カードショップじゃねぇか!」


 ずらりと並んだ商品から、最も優れたものを見分ける……そのような題目で始まった決闘に、ルールも覚束ないムラサキは苦戦を強いられる!


「『即戦力採用』召喚するッ!」


「ま、さか……引いたというのか……伝説(レジェンド)を――」


 しかしそこは流石の美食五聖天! 幾つもの幸運を掴み取り、何とかこれを打破せしめたのだ!






「やったッ! (あん)ちゃんの勝利だッ!」


 歓びのあまりその場で飛び上がるシロー。

 劣勢を土壇場で覆したムラサキは、袖で額の汗を拭った。


 一方の対戦相手、銀侍(ギンジ)はデュエルスペースの椅子に座ったまま放心している。

 万難を排して臨んだこの一戦に敗北したという事実は、今後彼の心に大きな傷となって残るだろう。


「――さて、約束通り答えてもらおうか。紫緒(シオ)の居場所を」


 怒りと焦燥を孕んだ表情でムラサキが凄む。


「…………ええ、わかりました。ですがわたくしも、詳細を把握しているわけではありません。ただ、ムラサキ・シオさんは我らがボス、ヴィネガー澤様とご一緒であることは間違いありません」


 テクニカルアナリスト・尾頭(ビトー)暮夜(クレヤ)は、両手を低く挙げて観念した事をアピールしながらそう語った。


「――それで奴の、澤の居場所は」


「……澤様もお忙しい身。日中は各地を飛び回っておいでです。ですが拠点としているのは――ムラサキ様もご存知のはず」


「『澤パレス』か」


「ええ。ですが澤パレスへの入室権限を得るためには、それを守護する十三のガーディアンに打ち勝たねばなりません」


 それはあたかも、魔王(ラスボス)前に挑む必要のある関門だ。


「兄ちゃん! こうなったらやるっきゃないぜ!」


「いや、やらん」


 ムラサキはこれを秒で拒否!


「え、どうしてだよ?! ようやく手に入れたヒントじゃないか!」


 シロー困惑!

 話の流れ的に、目的達成のためには試練を突破することが不可欠のはず。それをしないとは一体如何なる思考回路の導き出した結論か。意図、汲めん編!


「……理由は二つ。一つ、そんなに時間を掛けてはいられない。二つ、十三回も戦ったら一回くらい敗けてしまうかもしれないからだ」


「えぇ……」


 ムラサキは腕組みをしながらピースサインを作り、それを順に折りながらシローを説き伏せた。


「『日中は各地を飛び回っている』――つまりは、根城から出入りするタイミングがあるということだ。そこを狙えば良い」


「テロリストみたいな事言ってんな」


「そもそもが、敵の待ち構えている本拠地(ホーム)で戦うなんてのは、余程の自信があるか阿呆のする事だ」


 シローは眼の前のテーブルとそこに乱雑に置かれたカード達を見て、なにか言いたそうな顔をした。


「だが、奴が何故……」


 ムラサキの渋面には、苦悩や後悔、そして疑問が渦巻いていた。


「……そう言えば、兄ちゃんの探している人って、奥さんなんだろ? 一体何があったのさ?」


 シローの口にした素朴な疑問。それは、ムラサキの記憶に鮮烈に焼き付いている出来事を想起させた。


「…………あれは、一週間前の出来事だ」


 目を閉じたムラサキは、その時の情景を脳裏に浮かべた。


「……俺が帰宅すると、居るはずのシオはそこに居なかった……ただ、部屋には争った形跡が残され……そして、保管していたレシピが一つ、持ち去られていた……」


 散らかった無人の室内。散乱するチラシ。


「レシピの名は『禁断のマリア』――美食五聖天である、俺とシオとの合作だ」







 カードショップ『家副』を後にした二人は、次なる目的地に向かって旅を続けていた。

 目指す先は澤パレス。恐らくそこに、ムラサキの探し人が囚われているのだ。


「……そう言えばテクニシャン何とかって人、気になる事を言ってたよな」


 シローの言葉の通り、勝負に敗れたビトーは最後に、『不確かではありますが』と前置きして新たな情報を齎したのだった。




『……ごく最近になり、澤様の周囲を怪しい輩が彷徨(うろつ)いているとの噂があります』


『怪しい輩?』


『ええ。それが……ムラサキ様、貴方もご存知の、あの()()の手のものだと』


『!!! まさかッ――』


『そう、ご想像の通り――美食マフィア、ドン・ソルレオーネとそのファミリーが、今回の件に関わっている可能性があります――』




「…………ドン・ソルレオーネ」


 慎ましやかだが平和な毎日を過ごしていたシローにとって、その名は聞き覚えのないものだった。

 だが、ムラサキやその場に居た他の人間の反応を見れば、話題の人物がいかに危険な相手かということは、容易に察せられる。


「……そちらの線も、洗う必要があるようだな」


 ムラサキは決断的にそう言った。







 次なる目的地へと向かう二人であるが、まずは何らかの手掛かりを得る必要がある。


「……あれ、今日は何かの祭りがあったのか」


 笛の音と喧騒が風に乗り、シローの耳へと届いたのだ。その独特な雰囲気は、まさに縁日のそれであった。


「――少し、覗いて行くか」


 ムラサキがそう提案し、二人は音のする方へ連れ立った。






 辿り着いた先は小さな神社だった。

 境内には色鮮やかな出店が所狭しと連なる。

 近隣の住民だろうか、浴衣を着た人々がそこかしこで楽しそうに笑っている。

 子どもや女性客が目立ち、みな祭りを満喫しているようだ。


「へぇー丁度良いや、今日の夕飯はココで済ませようぜ!」


「……そうだな」


 『焼きそば』、『フランクフルト』、『串もんじゃ』、『お麺』――


 食べ物に限定しても出店の種類は多く、シローはどれにしようかと迷っているようだ。


「……ここにしよう」


 悩むシローにムラサキは、手近の出店を指差した。


 『たこ焼き』


 祭りの定番中のド定番だ。


「たこ焼きかー。あっちにもあるけど、こっちの店で良いのか?」


「ああ。イートインスペースがあるから、ゆっくり食べられるぞ」







 厳つい店主からたこ焼きを受け取った二人は、すぐ側にある机に陣取り食べ始めることにした。


「「いただきます」」


 球体の生地は香ばしくこんがりと焼けている。

 その上に掛けられているのは野菜の甘みとスパイスの刺激が調和した濃厚なソース、マヨネーズ、鰹節、そして青のりだ。

 まさしく過不足の無いベストメンバー!


「熱っつ! でもうめぇ~!」


 一個丸ごとを口に入れたシローは、はふはふと呼吸を荒くして気化熱で冷まそうとしている。


 ムラサキも一口。関西風の、中がとろとろとしたたこ焼きだ。


「あーでも、今のはタコがちょっと小さかった気がする。ちょいハズレだな」


「――シロー、それは違うぞ」


 若干物足りなさそうにそう零したシローの言葉を、ムラサキが否定する。


「たこ焼きのタコは、爪楊枝で刺した際に持ち上げやすいように入っているだけの、言わばおまけのようなものだ」


「ええっ?! でも()()焼きって言うからには、やっぱりメインの具なんじゃないのかよ!」


「いいや違う。たこ焼きの味は生地とソースの味がすべて。実際今までのたこ焼き人生で、タコの味など感じたことは無いはずだ(※個人の見解です)」


「えっ、それは、えっと……そうかも……」


 暴論も、それを発する人物が変われば何となくそんな気がしてくるもの。

 まさに、何を言ったかではなく、誰が言ったか!

 この世は肩書きこそが重視されるのだ!


「たこ焼きという名前に引っ張られすぎているな。そもそも、たこ焼きの『たこ』の語源を知っているか? これは、いくつものたこ焼きを所狭しと焼く様がタコ部屋のようだと――」


「おいおい兄さんよぉ、黙って聞いてりゃぁ本職の前であることないこと吹いてくれるじゃねぇか」


 ムラサキ達の会話は、当然すぐ側に居たたこ焼き店の店主にも筒抜けだ!

 ただでさえ厳つい顔を更に厳つく顰めた店主が、我慢ならないと物申しに来たのだ。


「ほぅ、本職と来たか」


「……何が言いたい」


「お前の()()は違うはずだ。そうだろう?」


「!」


 想定していなかった指摘に思わず店主がたじろいだ。

 慢心が招いた心の隙、そこに付け込んだ一撃は確かな手応え!


(バック)の事を吐いてもらおうか。洗いざらい、な」


「貴様……どこまで俺達の事を――」


 嗚呼、なんということか!

 何の気無しに選ばれたはずのこの出店だったが、すべてムラサキの手の平の上だったのだ!


 しかし考えてみれば当然のこと!

 的屋と言えばマフィア、マフィアと言えば的屋なのだ!


「無論、条件もなしというわけではない。一つ勝負をしよう。それに敗けたら、互いに相手の言う事を何でも聞く、それでどうだ?」


「……」


「こちらから持ちかけた勝負だ。内容はそちらで決めてもらって構わない」


 ムラサキの言葉を耳にし、店主が下卑た笑いに顔を歪ませる。


「……その言葉、後で後悔するなよ?」


 そうして、つい今しがたまで自身がたこ焼きを作っていた鉄板を指し、


「ならば、たこ焼きで勝負だ! そうだな……一時間での売上を競う。それでどうだ!」


 絶対的自信に満ちた表情でそう宣言した。


「受けて立とう」


 快諾するムラサキ!

 つい先頃シローに授けた『相手の本拠地(ホーム)で戦うな』という警句は何だったのか!


「向かいの屋台を使わせてやろう。鉄板も貸してやる」


「材料は?」


「そこまで面倒見きれないぜ! 自分で調達するこったな。それなりの対価を払やぁ融通してくれる店もあるだろうよ」


「――良いだろう」


「あわわわわ」


 シローが口を挟む隙も無く、勝負の段取りが決まっていく!

 しかもそれは、聞く限り相手方に絶対的有利なものだ。

 だがそれも已む無し。挑戦を受けた側が内容を決める権利を持つのは考えるまでもなく真っ当な規則(ルール)である!


「食材の準備のために時間が欲しい。……三十分後に開始でどうだ?」


「ああ、それで良い」


(掛かったッ! たこ焼きの材料など、そう簡単に手に入るものじゃあない。三十分で用意できるとすれば、この縁日に出しているもう一つのたこ焼き屋からが手っ取り早い……だが! 自慢じゃあないがたこ焼きの美味さは俺の方が上! どの縁日でも、優に倍は売上げている! 仮に『焼き』の技術がこの俺と同等だったとしても、素材の良し悪しで確実に差は生じるッ! 盤石! 実に盤石!)


「まあ精々頑張るこったな。そうそう、自己紹介がまだだったな。俺は鳩山(ハトヤマ)(ククル)だ」


「……ムラサキだ」






 試合の開始までの三十分。ハトヤマは英気を養っていた。

 別に普段通り営業をしていたも良かったのだが……高々三十分とは言え、潜在的購入者に売ってしまえば、その分の売上が減ると考えたのだ。


「ハトヤマの兄貴、いいんですかい? ボスに無断でこんな勝負を受けて」


 不安そうな声を上げたのはハトヤマの舎弟、堂洛(ドウラク)だ。


「そう心配すんな。なぁに大丈夫、この勝負に敗けは有り得ねぇ。こんな好機(チャンス)を逃したほうがボスにどやされるってもんだ。それに、『何でも言う事を聞く』ときた! クックッ……若くて健康な奴の使い道はいくらでもある。鉄砲玉や肉壁なんざぁ何人居たって良いからなぁ!」


 邪悪!

 これが、迂闊にも裏社会の人物に関わった者の末路だというのか!

 ムラサキはカチコミの急先鋒として使い潰さたり、上役の罪を被って入所したりする未来が待ち受けているのか!


「…………ん? なんか様子がおかしいな」


 境内を行く人々を、何とはなしに眺めていたドウラクが呟く。


「おかしいって、どこが――」


 窄まっていたハトヤマの双眸が、次第に見開かれていく。


 ドウラクの抱いた違和感の正体、それは祭りを楽しむ人々の殆どが、示し合わせたかのように同じ物を持っている事に由来する。


 それすなわちたこ焼きの包み!


「まさかフライングかッ?!」


 先んじて開店するという禁忌(ズル)を犯したか!

 激昂したハトヤマが向かいの屋台――ムラサキに貸し与えた――に目を向けるが……


「――いや、まだ開店してねぇか」


 向かいでは丁度、ムラサキが()()()を掲げ始めた所であった。

 と言うことは、客の持つたこ焼きは別店舗のものか。

 よくよく考えれば、自身が休んでいるのだから、キングオブ屋台たるたこ焼きの店舗が一つしか無いわけで、そうであるなら客がそちらに流れるのもごく自然と言える。

 しかし、お世辞にも美味いと言い難いライバル店のたこ焼きがこれほど売れるとは、げに恐ろしきは祭りという非日常の生み出す昂揚感か。


 そう思案するハトヤマを尻目に、ムラサキは着々と開店準備を整えていく。


 鉄板をセットし、火を入れ、生地を流し込み――


 そして、約束の開始時間!

 勝負の火蓋が切られた!


「さあ変わり種たこ焼きの開店だよぉーっ! バナナにりんご! いちごもあるよぉー!」


 ムラサキと一緒に居た少年が呼び込みを始めた。


「――ってベビーカステラじゃねぇかッッ!!」


 ハトヤマの指摘は至極尤も!

 たこ焼きの売上勝負だと言うのに、タコの入っていない紛い物を出すとは何事か!


 猛るハトヤマがムラサキの屋台に詰め寄る!

 物珍しさに惹かれてか、店の前には既に何人かの客の姿!


「良く来たな。一つどうだ? チョコレート入りもオススメだ。俺はこれに『ちょこ焼き』と名付けた」


 何の億面もない様子のムラサキ。破廉恥極まりない!


「てめぇ、蛸の入っていないものをたこ焼きと称して売るたぁどういうつもりだッッ?! この勝負はたこ焼きの売上を競うと取り決めたはずッ! 忘れたとは言わせ――」


「そちらこそ、忘れたわけではないだろう?」


「?!」


 詰問しようとした相手の見せる強気な態度は、ハトヤマにもしかしたら自分の方が間違っているのではないかという疑念を植え付ける!

 そうして一度抱いた疑念は、ちょっとやそっとでは打ち消されないのが世の常だ。


「な、何を――」


「この勝負はたこ焼きの語源が何であったに端を発する。たこ焼きに蛸が必要というのはあくまでそちらの掲げる正義だ。どちらの正義が正しいのか――それは、勝敗によってのみ決定される。だからこそ、現時点ではこれもまたたこ焼き! それを否定する術はそちらには無いはずだ!」


「ぬぅッ?!」


 確かに、言われてみれば何となくそんな気がして来るような気もしないでもないかもしれない!


 精神的論破を受けたハトヤマは、具体的な打開策も思い浮かばず、すごすごと自陣に戻って行った。


「よ、要はたこ焼きを――()()たこ焼きを売りさえすれば良いんだ。恐らく材料は、方々の屋台から見境なくかき集めたものに過ぎない――つまり料理として求められる調和に至っていない、完成度の低い商品! いずれ悪評で客足も落ちるはずだ」


「あ、兄貴……」


「時間もまだまだ夕飯時だ。この時間、甘いものよりもしょっぱいものの方が、売れ行きは良いはずだ」


「聞いてやすかい、兄貴?」


「何だうるせぇな! 今考え事してんだよッ!」


 遠慮がちに声を掛け続けていたドウラクに怒鳴るハトヤマ。

 心に余裕が無くなっている事を如実に表す一幕だ。


「す、すいやせん……でも兄貴、おかしいですぜ。ウチのたこ焼き、さっきっから一個も売れてねぇんです」


「なにぃッ?!」


 確かに、ムラサキらの屋台は未だ人の勢い衰えずといった様子に対し、こちらの屋台には寄り付く気配もない。

 この時間にこんな事態、今まで一度たりとも無かった。

 一体何が原因なのか――


「て、てぇへんだ兄貴達ッ!」


「どうした十の字!」


 と、そこへ、辺りの偵察に出していた舎弟、保手(ぼて)が血相を変えて帰って来た。


「客の一人をとっ捕まえて()()したんですが! そいつによると、向こうのたこ焼きが、どうやらちぃと前から半額セールをおっ始めやがったようで!」


「何だとッッ??!!」


 そう。それこそ試合の詳細が固まった後、ムラサキが最初に打った布石!


「ぬ、抜かった――ッ! 奴ら準備期間の間に、向こうの屋台に金握らせていたのか! 客の軍資金と胃袋に限りがある以上、先にたこ焼きを買った奴が追加で買うわけはねぇ! 真っ当な勝負なら互いに不利益を被る所だが、この内容じゃぁ向こうには不利益が一切無い! それどころか、しょっぱいものの後に甘味を欲する人間の本能を鑑みれば圧倒的優位に立っていると言っても過言ではねぇッ!」


 愕然とするハトヤマ。そこへ――


「何か食べようよー」


「何にする? お、たこ焼きがあるじゃん」


 新たに訪れたと思しきカップルが!

 そう、件のライバル屋台は境内入口から遠いため、まだ半額の事実を知らない新規の客はたこ焼きを売れる唯一の存在なのだ!


「――あ、今来たとこですか? 奥の方の屋台が今半額セールやってますよ! あと、そっちで購入したたこ焼きの容器を見せてもらえれば、こっちの屋台も五十円引きしてます」


「まじ? じゃあそっち行こうか」


「あンの餓鬼ィッッッ!!!」


 情け容赦の無い妨害工作!

 だが料理の世界とは常に弱肉強食の椅子取りゲーム。

 持てる力の総てで戦い、得られた結果が物を言う世界なのだ!


「もう、ダメだ……」


 ハトヤマは敗北を悟った。心が完全に折れたのだ。


 それは試合が開始されて、わずか五分後の出来事だった。






「約定は果たしてもらおう」


「――ああ。何だったかな、ファミリーについてだったか?」


 その後一個も売れなかったたこ焼き屋台の店主ハトヤマは、自身のイートインスペースの椅子に項垂れながら座っていた。

 紡ぐ言葉にはもはや気力も無く、諦念溢れるその姿は哀愁を誘う。


「ああ。……最近、この女が貴様らの首領(ドン)に攫われた――そういった話は聞いていないか?」


 ムラサキは上着の内ポケットから一枚の写真を取り出し、ハトヤマに見せた。


「――見たことも聞いたこともねぇな。所詮俺達は下っ端、ドンのなさる事を一々把握してはいないさ」


「そうか……」


 少しばかり気落ちするムラサキ。

 だが落ち込んで入られない。僅かでも良い、何らかの情報を得る必要がある。

 そうでなければ、自身を危険に晒した事と、なおかつたこ焼き屋に補填として払った料金に見合わないからだ。


「ならば首領(ドン)の居場所を吐いてもらおうか」


 一瞬、ハトヤマは逡巡した様子を見せたが、抵抗は無駄と判断したのか素直に喋り始めた。


「…………悪ってのは高い建物が大好きと相場が決まっている――ドンが今いらっしゃるのはTOKYOベイ幕張、その最上階だ」







 こうして一つの戦いが幕を下ろした。


 激闘を征した漢が、夜の街を行く。


「……少し待て」


 漢は隣を歩く少年に声を掛けると、自動販売機と相対する。

 緑色の光が漢の顔を走査し、程なく音を立てて一本のペットボトルが排出された。


 漢は蓋を捻り開け、中身を口に含んだ。


「俺も喉乾いちゃった。一口くれよ」


 少年が漢のペットボトルに手を伸ばす――


「おい、よせッ!」


「?!」


 唐突な怒号!

 予期せぬそれを受けた少年が目を白黒させる。


「えっ、いや……えっ?」


「――――これはスポンサー・ドリンク。五聖天と認められた者に与えられる特権だ。それゆえ、他の者がみだりに口を付けることは、契約で固く禁じられている」


「そ、そうなのか……知らなかった……」


 特典!


「……」


 咄嗟に怒鳴ってしまったが、相手はまだ分別のつかない子供。少々きつく言い過ぎたかも知れない。

 漢はそう思い直し、辺りに人の目や監視カメラが無いことを確かめ、


「……一口、飲むか?」


 少年に差し出した。


「良いの?」


「秘密だぞ」


 少年は目を輝かせ、ペットボトルの中身を一口だけ飲んだ。


「……ふつーにうまい」







「――――見つけた」


 ビルの屋上から通りを見下ろす一つの影。

 小柄な体躯は少女のそれだ。

 視線の先には、歓談する偉丈夫と少年。


 少女の背後に、新たに二つの影が音もなく降り立つ。


「居たのかい?」


「ええ、(ツカサ)さん」


 三者が纏うのは、夜闇に紛れる黒い装束。


 間違いない、忍びの者達だ。





第3話「出店(でみせ)」・了





――次回


 料理対決のホイッスルが鳴った

 超小学校級くの一、いなりの最適サーブが唸る

 打ちのめされ、あえなく調理場に沈むシロー

 串が怖い、料理が怖い

 思わず叫ぶシロー


 次回、世紀末美食伝説ムラサキ!「最適サーブのおいなり」

 さぁ立てシロー、キッチンでは誰でも一人きりなのだ



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