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恋に踏み出す、その前に。──たった一歩が、こんなにも遠くて、愛しくて。  作者: 輝


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第27章 時間をかけて、届く想い

  日差しがやわらかく差し込む午後。

  星見坂レジデンスの作業室に、菅谷さくらの軽快なスニーカー音が響いていた。

  手には、小さな箱。中には、自作の「未来手帳」。

  彼女が長い時間をかけてコツコツと作ってきたもので、表紙には小さくこう刻まれていた。

 “ふたりで歩く計画書(仮)”

(“仮”ってつけるの、けっこう勇気いったけど……)

  今日、これを拓夢に渡そうと決めていた。

 

  一方、上地拓夢は中庭のベンチでノートパソコンに向かっていた。

  地域交流イベントの振り返りレポートの整理作業。黙々と、そして確実に進めていた。

  そこに、さくらが姿を見せる。

「やっほ。……忙しいところ、ちょっといい?」

「はい。さくらさん、どうかしました?」

「ううん、別に深刻な話じゃないの。あのね――これ、もらってくれる?」

  さくらは、少し照れくさそうに、小さな箱を拓夢に差し出した。

「……これは?」

「“未来手帳”っていうの。自分で作ったんだ。市販の手帳じゃなくて、“これから”に合わせたやつ」

「……僕に?」

「うん。中に、“やりたいことリスト”とか、“行ってみたい場所”とか、“言ってみたい言葉”とか、いっぱい書ける欄がある。

  で、それを一緒に埋めていけたらいいなって、思って」

  拓夢はしばらく黙っていた。

  箱の蓋を開けて、中のページをそっとめくる。

  緻密な文字。ユーモアのある欄外の一言。何より、そこに込められた「気持ち」の量が伝わってきた。

「……すごい。これは“感性”だけじゃなく、“思考”でも組み立てられてる」

「うん。……あなたといるとね、“流される”んじゃなくて、“進みたい”って思えるの」

「……さくらさん」

「なに?」

「僕、正直に言います。自分の感情って、明確に“好きだ”って言葉にするのがずっと難しかった。

  でも、あなたがこれを作ってくれたことで、やっと“未来を共にしたい人がいる”って、実感できました」

  それは拓夢にとって、最大限の告白だった。

 

  二人はベンチに並んで座り、手帳の中身を一緒にめくった。

  “理想の休日の過ごし方”、“行ってみたいカフェの地図”、“名前のない気持ちを書く欄”。

  どれも、ただの予定表ではない。

  “今はまだ白紙でも、いつか誰かと埋めていく未来”が見えるようだった。

「一ページ目、空白にしてあるの。……“一番最初に書く言葉”は、あなたと一緒に決めたいから」

  拓夢はしばらく考えてから、小さく微笑む。

「じゃあ――“ここから、はじまる”でどうですか?」

「……いいね、それ」

 

  その夜。

  さくらは、自室の机で、手帳の予備ページにそっと書いた。

 《“わかりやすい恋”じゃなくても、

  “時間をかけて届いた想い”には、ちゃんと意味がある。

  あなたと歩くこの時間を、わたしは何より信じたい》


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