表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

ep9 真実の解剖

「そうと決まっては、次することは相手の情報を得ること。『相手を知り、自分を知れば負けることはない』どこかの本で書いてあったわ。まさにその通りね」

ソフィはそう断言し、すっと立ち上がった。彼女の瞳には、すでに獲物を狙う鋭い光が宿っていた。

「よし、じゃあ早速、情報の収集に取り掛かろう。潜入は私が担当するから」

アキラは尋ねた。

「どのように内部に侵入するんだ? 司法防衛科のセキュリティは、並大抵じゃないだろう」

ソフィは自信満々に微笑んだ。

「心配いらないわ。実はね、私、好奇心で開発したものがあるの。姿を消せるステルスマントと、赤外線や光学センサーを可視化する特殊なサングラスよ」

その言葉に、アキラは目を見開いた。そして、すぐに苦笑を浮かべた。

「まさか……お前だったのか、『見えない変態事件』の犯人は」

数ヶ月前、学園内で突如として発生した、誰も姿を見ることができない奇妙な侵入事件。監視カメラにも映らず、警報も作動せず、ただ警備システムのログに不審なアクセス記録だけが残されるという、不気味な事件だった。噂では『見えない変態』が夜な夜な学園を徘徊しているとまことしやかに囁かれていたのだ。

アキラの隣で話を聞いていたアメリアも、ギフテッドの力でアキラの思考を共有し、同様に苦笑いを浮かべた。目の前の少女が、そんな奇妙な噂の主だったとは、想像もしなかっただろう。

「な、何のことかしら?」

ソフィはとぼけたような顔でそう言ったが、その口元はわずかに緩んでいた。

「まぁいい。その装備があるなら、確かに物理的な侵入は可能だろうな」

アキラは深く息を吐いた。目の前の少女の能力には、いつも驚かされる。

「それなら、大丈夫そうだな。まかせるが無理は禁物だぞ」

アキラは釘を刺すように言った。

「分かってる。無駄なリスクは冒さない」

翌日にでもすぐに潜入したい気持ちは山々だったが、念入りな準備が必要だとソフィは判断した。もしバレて捕まった時、重い罰が課せられ、私の平穏な学校生活の崩壊は免れられない。最悪退学だ。わずかなミスも許されない。彼女は数日間、事前に収集した設計図や学園のネットワーク図を睨みつけ、侵入経路、監視カメラの死角、AIセンサーの特性、そして万が一の警報発動時の脱出ルートまで、あらゆる可能性をシミュレーションした。

アキラは、ソフィが潜入の準備をしている間に、外からの情報収集と援護体制の構築に努めた。彼は司法防衛科の生徒たちのSNSを徹底的に調査し、内部の人間関係や、表沙汰になっていない不満の根源を探った。また、トップである「あの男」の行動パターンや、プライベートな情報もできる限り集めた。アメリアは、被害に遭った生徒たちとの対話を重ね、彼らの心の奥底に眠る感情や、具体的な被害状況を詳細に記録していった。アメリアのギフテッドは、言葉にならない苦しみを引き出し、それらを確固たる証拠へと昇華させる重要な役割を果たしていた。

そして数日後、星が瞬く夜が訪れた。学園全体が深い眠りにつく頃、ソフィは一人、司法防衛科の建物へと向かっていた。手には、自作のステルスマントと特殊なサングラス。闇に溶け込むその姿は、まるで影そのものだ。彼女は慎重に周囲の警備状況を確認し、事前にシミュレーションした侵入経路の第一歩を踏み出した。

さすが学校でトップレベルの権力を持つ科というべきか、情報創造科よりも警備は厳重だった。しかしこちらもだてに夜な夜な学校に侵入しているベテランだ。

特殊なサングラスが、肉眼では決して捉えられない赤外線レーザーやAIセンサーの感知範囲を、鮮やかな色の光で可視化する。まるで最新のゲーム画面のように、彼女の視界には危険地帯が禍々しく赤く、安全な経路が希望のように緑に表示されていた。彼女は、AIの巡回パターンを完全に読み切り、監視カメラの死角を縫うように、まるで幻のように校舎の奥へと進んでいく。

「ふん、この程度」

ソフィは心の中で小さく呟いた。

やがて、彼女は司法防衛科のデータサーバー室へと続く、厳重にロックされた扉の前に到達した。そこは、カースト制度の根幹をなす生徒たちの個人データ、評価基準、そして恐らくは「あの男」の秘密が詰まっている場所だ。扉には複雑な電子ロックと、複数の生体認証センサーが組み合わされていた。

ソフィは冷静にサングラスを少しずらし、ロックシステムを分析する。無数のコードが脳裏に瞬き、わずかな脆弱性が一瞬にして浮かび上がる。

「見つけた」

小さく笑みを浮かべると、彼女は携帯端末を取り出し、指先を踊らせるようにキーボードを叩き始めた。数秒後、カチリと軽い音を立ててロックが解除される。まるで、そこに最初から鍵など存在しなかったかのように。

扉が静かに開く。中に広がるのは、ひんやりとした空気が満ちるサーバーの部屋。規則正しく並び、緑や赤の小さなランプが無機質に点滅している。ここが、司法防衛科の心臓部だ。ソフィは躊躇なく足を踏み入れ、目的のサーバーへとまっすぐ向かっていった。

彼女が最初に目指したのは、あの男、司法防衛科のトップに関する情報が格納されているであろう領域だった。個人の評価データだけでなく、彼の行動履歴、過去の功績、そして──「不都合な真実」が隠されている可能性のあるファイルを特定する。

「さて、どこから暴いてやろうかしら?」

ソフィの指が、動き始める。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ