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ep4 乱数の舞踏会

「さてと、今日の悪戯は、何にしようかな」


ソフィはにやりと笑い、目を輝かせた。学校の授業には「身代わり」のホログラムを向かわせている。触れられなければ完璧に振る舞う、彼女が自信を持って改良した最新作だ。


ソフィは、しばらくの間、裏庭で虫の不規則な動きを観察しながら、その軌跡を脳内でシミュレートしていた。AIの完璧な監視システムには、ごくわずかながら「死角」が存在する。それは、予測不能な生命の動きが生み出す、一瞬のズレ。


私が作ったステルスマントは姿を消すことはできるものの、AIセンサーには引っかかってしまうという問題を抱えていた。


以前、ステルスマントが完成した興奮のあまり、すぐに学校に侵入を試みたことがあった。その時はセンサーに引っかかり、即座に警報が鳴り響いたが、全力疾走で逃げ切り事なきを得た。この一件は、後に「見えない変態事件」と噂されるようになった。


もしセンサーの目をかいくぐれるものがあれば、ステルスマントと掛け合わせることで完璧に侵入できると、ソフィは確信していた。彼女は、そのズレを可視化し、センサーの目を欺く「何か」を作れないかと考えていた。


数日後、ソフィの部屋には、奇妙な形状のサングラスが完成していた。


「よし、これで完璧」


ソフィは満足げにサングラスをかけステルスマントをはおった。その姿は、傍から見れば本当に変態であった。ディスプレイには、部屋の隅々まで張り巡らされたAIセンサーの網が、赤色の光で表示される。そして、ごく稀に、その網の中に、一瞬だけ緑に点滅する箇所があった。それは、センサーが捉えきれない、まさに「乱数の舞踏」が生み出す死角だった。


その夜、学校は静寂に包まれていた。AIの巡回ロボットが規則正しい音を立てて廊下を移動する。ソフィは、自作のメガネとマントをはおり、校門をくぐった。


「さて、今日の悪戯は、AIの目を欺くこと」


サングラスのディスプレイが、校門のセンサー網を映し出す。ソフィは、緑に点滅する死角を縫うように、まるで虫のように不規則なステップで進んでいく。ロボットは、何の異常も感知することなく、規則正しく巡回を続けていく。


「ふふ、簡単ね」


ソフィは、校舎の奥へと進んだ。彼女の目的は、情報創造科のラボだった。リナがAIの完璧なシステムを信じ、効率的な創造を目指す場所。ソフィは、そこで「予測不能なもの」を置いてくるつもりだった。


ラボの扉は厳重にロックされていたが、ソフィにとっては問題ない。彼女の「機械創出」の能力で、カチリ、と小さな音がし、扉を開く。こういうのは昔から慣れている。


ラボの中は、整然と並べられた最新のAI搭載機器で埋め尽くされていた。ソフィは、その中央に、小さな箱をそっと置いた。箱の中には、彼女が作った、まるで本物の虫のように予測不能な動きをする小さな機械が収められている。


「これで、リナも少しは困惑してくれるかな」


ソフィは満足げに微笑んだ。彼女の悪戯は、AIの完璧な世界に、小さな、しかし確かな「乱数」を投げ込むことだった。それは、AIの目を欺き、リナの心を揺さぶる、ソフィなりの「創造」だった。


ラボを出て、再びサングラスをかけ、死角を縫うように学校を後にする。夜空には、無数の監視ドローンが光の点を描いていたが、ソフィの姿を捉えることはできない。彼女の悪戯は、AIの監視網をすり抜け、静かに、しかし確実に、その世界に波紋を広げていくのだった。


翌日、創造科のラボは朝から騒がしかった。中央に置かれた小さな箱から出てきたのは、まるで本物と見紛うばかりのゴキブリのおもちゃ。しかし、それはAIのセンサーをすり抜ける不規則な動きで、ラボの中を縦横無尽に走り回り、生徒たちの悲鳴と混乱を引き起こしていた。


リナは、その騒ぎの中心で、困惑した表情を浮かべながらも、どこか楽しげな笑みを浮かべるソフィの姿を思い浮かべていた。最適化の中にも、ゴキブリという生理的嫌悪には抗えないようだった。

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