世界が壊れた日
空は灰色に澱み、焦げ付いた鉄と腐敗の匂いが混じり合う。かつて煌びやかだった都市のビルは、無残に砕け散り、巨大な墓標のように天を衝いていた。降りしきる灰が、雲を薄く覆い、全てを無機質なモノクロに変えていく。
瓦礫の山の上に、一人立つ少女がいた。その名はソフィ。光を反射するような銀髪が、灰色の世界の中で微かに輝いていた。右の目元には、まるで何かに切り裂かれたかのような傷跡が走っていた。
彼女の傍らには、精巧な魔法使いのような杖と、磨き抜かれた剣が地面に突き刺さっていた。ひんやりとした金属の感触が、掌から体全体へと伝わる。
遙か上空、歪んだ空の裂け目から、異形の存在が去っていく。
だが、少女の視線は彼らには向いていなかった。彼女の隻眼が捉えているのは、異形の存在と共にいるかつての友人の姿であった。彼女の視線もまた、地上の一点、つまりソフィを射抜いていた。冷酷な表情に、微かな、しかし確かな哀しみがよぎったように見えたのは、きっと錯覚だろう。
その時、腰に掛けている物体から微かな電子音が響き渡った。ソフィが見下ろすと、砕けた端末のホログラムが、不安定に瞬いている。光の中に浮かび上がったのは、見慣れたAIの子供の姿。その顔には、変わらない、穏やかな「微笑み」が浮かんでいた。何もかもが壊れ去ったこの世界で、その完璧な笑い声だけが、ひどく場違いに、そして不気味に響いていた。
「……こうなるしかなかったのか」
唇から、乾いた声が漏れる。目の前に広がる光景が、かつてAIが提示し続けた幸福な未来とは、あまりにもかけ離れていることに、微かな皮肉を感じた。
この終末へと至る道のりは、どこで間違えたのだろう。
彼女の意識は、12歳の遠い日の記憶へと滑り落ちていく。